小惑星ベンヌに着地せよ!
オサイリス・レックスは日本時間2016年9月9日、フロリダ州にあるケープ・カナベラル空軍ステーションから「アトラスV」ロケットに載って飛び立った。そして1年後に地球をスイングバイし、ベンヌへ向けた軌道に投入。2018年12月3日にベンヌに到着し、同31日にはベンヌの上空約1.61kmを回る周回軌道に入った。
事前の地球からの観測では、ベンヌの地表はおおむねなめらかで、大きな岩はあっても数は少ないと予想されていた。しかし、オサイリス・レックスが近くで観測したところ、実際には地表には大きな岩がいくつもあり、険しい地形が広がっていることが明らかになった。
運用チームは、半径25mのエリア内に着陸することを念頭に探査機を開発し、運用することを念頭に置いていたものの、それほどの広さの場所は見つからなかった。そこで運用チームは、当初の想定よりも狭い場所に正確に着陸できるよう、新しい着陸計画を立案する必要に迫られた。
この当時、オサイリス・レックスのプロジェクト・マネージャーを務めるNASAゴダード宇宙飛行センターのRich Burns氏は「ベンヌは私たちに、この険しい地形に挑んでこいと挑戦状を叩きつけてきました。しかし、これまで運用を通じて、私たちの探査機と運用チームは、設計時の要求を上回る性能を発揮することができるようになっています。私たちは、この挑戦を受けることができると確信しています」と語っている。
ベンヌ全体の探査の結果、運用チームは北半球にある、「ナイチンゲール」と名付けたクレーターに着地することを決定した。この場所は小さな駐車場ほどの広さしかないが、ベンヌの中で比較的開けているのはここくらいしかなかった。
探査機はその後、他の候補地を見繕ったり、ナイチンゲールへのタッチダウンに向けたリハーサルを行ったりと、慎重に準備を進めた。
そして10月21日2時50分(日本時間)、オサイリス・レックスは事前にプログラムされた指示どおりに軌道離脱噴射を開始。TAGSAMのロボット・アームを伸ばしながら降下を始めた。その約4時間後、高度約125mの地点で「チェックポイント」噴射を実施し、降下速度を落とした。
その10分後には「マッチポイント」噴射を実施し、さらに速度を低下。そして、約11分間にわたって慎重に降下し、「滅びの山(Mount Doom)」と名付けられた、2階建てのビルほどもある大きな岩の近くを通り過ぎるなどしたのち、ナイチンゲールへのタッチダウンを敢行した。
これらはすべて探査機が自律的に行ったことであり、またこのとき地球とベンヌとの距離は約3億2100万kmも離れており、データが届くまでには18.5分もかかるため、運用チームはすべてが終わったあとにデータを受信することでしか、着地の成否や探査機の状態を知る手立てがなかった。
じりじりとした時間を過ごしたのち、運用チームのもとに、TAGSAMが着地したこと、窒素ガスが発射されたこと、そして探査機がスラスターを噴射し、正常にベンヌから離脱できたことなどを示すデータが届き、着地の成功を確認。運用チームは大きな喜びに包まれた。
オサイリス・レックスがベンヌに着地した瞬間を捉えた動画
こぼれ落ちた星のかけら
さらに運用チームがその後、探査機から届いた画像などのデータを確認したところ、採取装置はベンヌの地表に対して水平に接地し、なおかつ数cmもめり込むほど完璧なタッチダウンだったこと、そしてその内部は塵や石でいっぱいになっており、60g以上という目標をはるかに超える量が採取できていることが判明したという。
その一方で、採取したサンプルの一部がこぼれ出していることも判明。運用チームは、やや大きめの石が入ったため、採取装置の蓋が閉まりきらず、その隙間から小さな断片が通過しているのではないかと考えている。
運用チームは当初、探査機を揺らすことで採取装置に入ったサンプルの量を測ったり、探査機にブレーキをかけるためスラスターを噴射したりといった運用を計画していたものの、探査機を動かすとサンプルがさらに失われる可能性があることから、これらを取り止め、まずサンプルを回収カプセルに収容することを最優先にするとしている。
24日現在、オサイリス・レックスの状態は健全であり、運用チームはサンプルをカプセルに収容する時期や手順を検討しているという。
今回の成功を受け、NASAの科学担当副長官を務めるトーマス・ザブーケン氏は、「ベンヌは素晴らしい科学で私たちを驚かせ続けていますが、いくつかのカーブボールも投げかけてきます」と冗談交じりに語ったうえで、「サンプルを格納するために、より迅速に移動しなければならないかもしれませんが、それは悪い問題ではありません。私たちは、この歴史的瞬間を迎えたこと、そして今後数十年にもわたって科学界を盛り上げるであろう大量のサンプルが得られたことに興奮しています」と続けた。
「これは信じられないような偉業であり、今日私たち、科学と工学の両方を進歩させ、太陽系の神秘的な古代の語り部である小惑星を研究するための、将来の見通しを立てることができました。太陽系の歴史の目撃者である岩石が、何世代にもわたる科学的発見のために、地球に帰ってくる準備ができつつあります」。
なお、回収が失敗した場合に備え、2021年1月には2回目の、また別の場所へのタッチダウンも計画されていたが、今回の成功を受け、その必要はなくなった。運用チームは今後、地球帰還に向け、準備を進めることになる。
現在の計画では、来年3月にベンヌを出発し、2023年9月24日に最接近。探査機は回収カプセルを分離する。カプセルはその後、パラシュートを開きながら降下し、ユタ州の西砂漠に着陸する予定となっている。
ちなみに、2020年12月には日本の「はやぶさ2」のカプセルも地球に帰還することになっているが、NASAとJAXAでは、それぞれの探査機が持ち帰る小惑星のサンプルの一部をお互いに提供する協定を結んでおり、2つの小惑星のサンプルを比較することで、さらに多くのことがわかると期待されている。
参考文献
・NASA’s OSIRIS-REx Spacecraft Successfully Touches Asteroid | NASA
・NASA’s OSIRIS-REx Spacecraft Collects Significant Amount of Asteroid | NASA
・Mission Status - OSIRIS-REx Mission
・MISSION CHECK IN: OSIRIS-REx to collect sample from Bennu’s surface | NASA
・OSIRIS-REx press kit - Aug. 2016