立命館大学は、筋が伸ばされた状態でトレーニングを行うと筋肥大効果が高まることを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大学総合科学技術研究機構の前大純朗専門研究員らの研究チームによるもの。詳細は、国際学術誌「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載された。

近年の研究では、筋長が長くなる関節角度でトレーニングを行うことで、筋長が短くなる関節角度で行う場合に比べ、筋肥大効果が高まることが示唆されている。しかし、先行研究で用いられた運動は、関節角度を固定して行う静的運動、あるいは狭い関節可動域で行う動的運動であり、一般的に実施・推奨されている広い関節可動域での動的運動による効果の実態は確認されていなかった。

そこで研究チームが今回着目することにしたのが、ハムストリングスの二関節筋という特徴だ。ハムストリングスを構成する大腿二頭筋長頭、大腿二頭筋短頭、半腱様筋、および半膜様筋の4筋はすべてヒザ関節をまたぎヒザ関節の屈曲に作用する。

しかし、そのうちの大腿二頭筋短頭を除く3筋は股関節もまたぐ二関節筋であり、その筋長はヒザ関節だけではなく股関節の角度の影響も受ける。例えば、運動中のヒザ関節の可動域が等しい場合であっても、股関節が屈曲位(例:座位)にある方が、伸展位(例:伏臥位)にあるよりも、ハムストリングスの二関節筋3筋はより伸張されるということだ。

このような二関節筋の解剖学的特性を考慮し、座位および伏臥位で行うレッグカールといった、実際のトレーニング場面において実施される運動形態を用いて、運動時の筋長の違いが筋肥大の程度に及ぼす影響を検証することで、学術的および社会的に有益な情報が得られると考えたという。

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    座位および伏臥位でのレッグカール (出所:立命館大プレスリリースPDF)

そして、健常な若年男女20名が片脚を座位条件、逆脚を伏臥位条件とし、レッグカールトレーニングを実施した。運動には両条件とも一般的なトレーニングマシンを用い(座位条件では画像1のように背もたれを追加)、ヒザ関節角度0~90度の範囲で、事前に測定した最大挙上重量の70%の負荷を用いて10回反復を1セットとし、1日あたり5セット、週2日、12週間にわたって実施された。

トレーニング期間の前後で、MRIを用いてハムストリングス全体および各筋、ならびにハムストリングスの協働筋としてヒザ関節屈曲に作用する薄筋と縫工筋の筋体積が測定された。その結果、ハムストリングス全体の筋肥大率は、座位条件が伏臥位条件よりも1.5倍(+14% vs +9%)大きいことが判明した。

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    トレーニングによる筋体積の変化 (出所:立命館大プレスリリースPDF)

また、ハムストリングスを筋別にみると、トレーニング条件(股関節角度)の違いにより筋長に違いが生じる二関節筋3筋においてのみ、座位条件が伏臥位条件よりも有意に大きな変化を示し、単関節筋である大腿二頭筋短頭ではそのような有意な差は認められなかったという。

さらに、薄筋では条件間に有意な差が認められず、縫工筋では伏臥位条件が座位条件よりも有意に大きな変化を示していることも確認された。その理由として、薄筋および縫工筋はともにヒザ関節と股関節をまたぐ二関節筋だが、薄筋は大腿部の内側に位置し主に股関節の内転(股を閉じる動作)に作用するため、その筋長は股関節の屈曲角度に大きな影響を受けないと考えられるからだという。

一方で、縫工筋は大腿部の表側に位置し股関節の屈曲に作用するため、ハムストリングスとは逆に股関節伸展位(伏臥位)で筋がより伸ばされる。つまり、今回の研究で測定された6つの筋肉の結果は一貫して、筋肥大率にトレーニング条件間で有意な差が生じたか否かは、運動中に筋がより伸ばされていたか否かに依存することを示唆するものだった。

ハムストリングスの強化は、疾走速度の向上や肉離れの予防に効果的であると考えられている。つまり、今回の研究の知見は今後、ハムストリングスを対象としたトレーニングプログラムの作成に直接的に活用される可能性が考えられ、社会還元、中でもスポーツ現場への影響は非常に大きいことが期待されるという。

また前大専門研究員、今回の研究のアプローチはほかの身体部位にも応用可能であり、これにより今後、関連分野の研究や運動機器の開発・発展がより加速すると考えられるとした。

アスリートや運動愛好家だけではなく、健康の維持・増進のために積極的な運動・トレーニングが推奨されている現在、今回の研究成果は、多くの人々の運動パフォーマンスや生活の質の改善に大きく寄与しうると期待できるとしている。