Apple Watch Series 6は、前モデルから外見は変わらず、使い勝手に影響するような新機能もないため、妥当な(むしろ地味な)アップデートと受け止められる向きが多いようです。しかしこの2週間ほど使ってみて、これまでのモデルとの違いをじわじわと感じました。なんか、Apple Watch、おもしろいんじゃないでしょうか。

  • 新色が加わったアルミニウムケース

    新色が加わったアルミニウムケース。以前は質感ではステンレスに劣る印象でしたが、いい雰囲気になりました

新機能「血中酸素ウェルネス」が搭載された意味は

Series 6でもっとも大きくアピールされている新機能は、「血中酸素ウェルネスセンサー」を搭載したことです。これは動脈を流れる血液の酸素飽和度(SpO2)を計測する機能のこと。いわゆるパルスオキシメーターが測るのと同じものですが、この機能(血中酸素ウェルネル)は医療機器として承認されていないので、医療ではなく健康目的という位置付けです。

基本的には、腕が安定した状態にある時に定期的にバックグラウンドで計測し、結果はiPhoneの「ヘルスケア」アプリに記録されます。手動でアプリを起動して計測することも可能です。

  • 「血中酸素ウェルネス」は、手動でアプリを起動して計測もできますが、通常はバックグラウンドで計測。結果はヘルスケアに記録されます

これまで気にしたこともなかった自分のバイタルサインを数字で見ることができるのはなかなか興味深く、時々ヘルスケアを開いて記録をチェックするようになりました。

では、これが健康目的にどう役立つのでしょうか。ヘルスケアを度々開いて気付いたのは、この機能単体で考えてもあまり意味がないんじゃないか、ということです。

体調が良くないな…と感じた時、よくやるのは熱を測ることです。平熱よりも高いのかどうか、その状態がいつから続いているのか、などの情報が客観的な判断の材料になります。

それと同様に、Apple Watchで計測されている血中酸素ウェルネスや、心拍数・睡眠時間・活動量なども、その値の変化が体調キープの客観的な指標になります。単に数字の上下だけでなく、「なんだか身体が重いけど、ここ数日睡眠時間が少ないかな」「ストレスで心拍数が高めかな、『呼吸』で落ち着こうか…」といった感じで、ダメになる前のセルフマネジメントにもつながります。調子がいい時の値を目標に、生活に気を遣うことができるわけです。

  • Apple Watchで計測された値、外部アプリと連携で入力された値など、健康に関わるデータをヘルスケアが一元管理

これができるのも、Apple Watchが人力では困難な多種類かつ継続的なバイタル計測を担ってくれているから。身体に関わるデータはヘルスケアにどんどん保存し、そのためにApple Watchで取れるデータはとにかく全部取る、というのがAppleの目指している世界なのかもしれません。

今は単にデータが溜まっているだけですが、いずれAIがそれを分析して、健康に関するアドバイスや受診の勧めをしてくれるのでしょうか。そう考えると、体温や血圧なども重要な要素ですよね。今後のハード的な進化に期待したいところです。

充電性能の向上で、ほぼ終日「見える化」可能に

watchOS 7の新機能として「睡眠」アプリが搭載されましたが、これとセットでSeries 6の充電性能向上は注目ポイントと言えます。これまでは就寝中が充電のタイミングだったのですが、睡眠計測をするなら就寝中にApple Watchを着けていなくてはなりません。いつ充電すればいいのでしょうか…。

しかし、Series 6なら就寝前に小一時間程度充電器にセットしておけば大丈夫。60%程度なら約45分、30%を切った時は1時間15分程度で100%まで充電できました。筆者の場合、夕食や入浴の間が充電タイムになっています。

就寝中に消費するのは大体7〜8%前後なので、通常はそのまま終日使用。足りなかったら朝起きてから出かけるまでに20〜30分充電すれば問題ありません。

  • Apple Watchの充電状況をiPhoneのウィジェットから確認可能。充電が終了すると通知が届きます

充電時間が短くなったことは、データ計測にとっても大きな意味があります。睡眠中=充電中だった1日の3分の1ほどの時間にも計測が可能になり、1日のほとんどの時間のデータを取得できるわけです。生活の「見える化」デバイスですね。Apple Watchの半分は生体監視デバイスと言ってもあながち間違いではないのかも。

  • 睡眠時間も「見える化」。iPhoneと連動して就寝時刻の15分前に「睡眠モード」へ。テレビを消された子供の頃のように布団に入る気分になれます

ファッションにも実用にも強くなった文字盤

とはいえ、人とのインタフェースに腕時計の姿を使っている以上、Apple Watchには時計としての役割があります。その中核と言える文字盤が、Series 5で常時表示Retinaディスプレイを搭載したことで、ようやく本当に「時計」と言える形になりました。Series 6ではそれがより明るくなっています。

  • 自分が見る向きへ傾けた時だけ点灯していた文字盤が、Series 5でようやく常時表示に。Series 6ではその常時表示(スリープ中)がより明るくなりました

ケースやバンドがどんなにスタイリッシュであっても、文字盤なくしてはそもそも時計として認識されません。誕生当初のApple Watchが果敢にファッション方面へアピールしたものの思惑を果たせなかったのは、この点が少なからず影響していたのではないでしょうか。その意味で、Series 6はよりファッショナブルになったと言えるでしょう。

先日、電車でつり革を握る人のApple Watchを見て、改めて常時表示は時計として自然に見えるなと思いました。レザーバンドにメリデイアンの文字盤を合わせ、着ていたオフィスカジュアルにもよく似合っていました。なるほど…ということで筆者も最近は外出用に「見せ文字盤」を用意するようになりました。

watchOS 7ではこの文字盤を共有できるようになったので、おしゃれに使いこなしている人がどこかで配布してくれないかと期待しています。

  • Apple Watchの文字盤をプレス、または「Watch」アプリの文字盤編集画面から、文字盤をシェアできます

改めて、スペック的には「妥当」なSeries 6ではありますが、使ってみると自分の生活をこれまで以上に「見える化」し、そのフィードバックによってセルフマネジメントの意識が変わるほどの存在になっていました。むしろ、データが蓄積されていくことがおもしろいと感じられ、睡眠中も着けたいし、一度使えば以前のモデルには戻れない…そんな影響力を感じさせるデバイスです。