リコーの全天球カメラ「THETA」の生みの親である生方秀直氏を中心に設立したベクノスが、ペン型の全天球カメラ(360度カメラ)「IQUI」(イクイ)を発表した。すでに開発発表はしていたが、製品版が正式リリースとなった。価格は日本では29,800円(税別)と意欲的な価格とした。日本に加え、米国、中国、ドイツ、イギリス、フランスの6カ国で10月1日に同時発売となる。

  • ペン型のスリムな全天球カメラ「IQUI」。付属の簡易スタンドに立てて充電できる

天面にもカメラを配置し、細身ボディでも全天球撮影を可能に

IQUIの注目ポイントは以下の3つ。

・全天球カメラの常識を覆すペン型の細身ボディ、携帯しやすく持ちやすい
・天面にもカメラを配置した独自の4眼構造、撮影したら自動で全天球画像を生成
・29,800円(税別)の低価格

IQUIは、ペンのように細長いデザインの先に3つのカメラを、さらに天面に1つのカメラを備えることで、360度をカバーする全天球カメラ。ベクノス代表取締役CEOである生方秀直氏は「世界一美しくて生活の中に溶け込む全天球カメラを目指した」と話す。

  • リコーの新規事業開発の成果第1弾としてベクノスを設立し、代表に就任した生方秀直氏(左)。右は、リコー代表取締役社長執行役員CEOの山下義則氏。リコー発の事業ではあるが、「最大のサポートは私がいちいち口を出さないこと」と話し、ベクノスが独自の観点で自由に事業を進めていくことを期待する

そのため、「まずは形から入った」と語る生方氏は、生活の一部として自然に溶け込むゴールとして「ペン型」を採用。細身のサイズに全天球カメラを詰め込むために、特に光学系をどのように開発するか、「何十回と構想しては(デザインの)廃棄を繰り返した」(生方氏)。その結果、天面にもカメラを配置した独自の4眼構造を開発。「この方式でないと美しいフォルムに収まらなかった」(同)という。

  • IQUIの出発点は「ペン」。この形で全天球カメラを実現することにこだわった

ボディの太さは16mm。これに全天球カメラの機能を収めるために、コンパクトながら高機能だというカスタマイズされた画像処理エンジンを採用。このチップがあったからこそ実現できたサイズだという。その他の部品も、ひとつひとつ繰り返し研究を重ねてペン型を作り上げたそうだ。

  • 16mmという細さに基板を収めた。カメラ部は19.7mmとやや太くなっているが、それでも4つのカメラによって全天球をカバーできるようになった

本体はカメラを除くとシンプルで、特にベクノスというメーカー名も、IQUIというモデル名もなく、電源ボタン、シャッターボタン、モード切替ボタンの3つのボタンだけが存在。充電用のUSB端子もなく、底面にある接点にマグネットがあり、キャップのようなUSBコネクターを装着すると、USBケーブルを使った充電ができるようになる。ペン立てのように本体を立てて差し込む簡易スタンドも付属。USBコネクターと併用すれば同時に充電もできるようになっている。

  • カメラは、側面をカバーする3つと天頂部をカバーする1つ。この4つのカメラの画像をスティッチングすることで全天球画像を生成する

  • 天面にもカメラを配置しているのが、既存の全天球カメラにはない特徴だ

  • 電源、シャッターの2つのボタンに加え、静止画と動画の切り替えスイッチも搭載

  • 側面の2つの穴はモノラルマイクだ

撮影はシンプルで、電源を入れてシャッターボタンを押すだけ。全天球なので、特に構図を考えることなく、1ボタンで周囲全体を記録できる。本体内には14.4GBのメモリーも内蔵するが、ディスプレイはないため、基本的にスマートフォンに転送することが前提となる。スマートフォンアプリ「IQUISPIN」経由でコントロールもできる。撮影画像はIQUISPINに自動転送され、同時にスティッチングが行われるので、転送後すぐに全天球画像を確認できる。起動も速く、転送も高速なので、サクサクと撮影できるのも特徴だ。マイクも備えるので、全天球動画の撮影にも対応する。

  • 細身のボディは持ちやすく、シャッターボタンの位置も押しやすい

撮影できるのは5760×2880ピクセルの静止画と、3840×1920・30fps・45Mbpsの動画。マイクはモノラル。撮影はオートで露出補正もなく、手軽に全天球撮影をするのが目的だ。レンズ構成や撮像素子といったカメラの詳細は、特許などの関係で非公表だという。ワイヤレス機能は2.4GHz帯のIEEE802.11b/g/n、Bluetooth Low Energy。

接続するアプリ「IQUISPIN」は、すでにiOSとAndroid用としてアプリストアに公開されているが、発売に合わせてIQUIのコントロール機能を追加したアップデートが行われる。撮影と同時に転送される機能に加え、シャッターのコントロールも可能。

  • 本体で撮影しても自動的にアプリ側に転送される。アプリのシャッターボタンからリモート撮影も可能

  • 転送と同時にスティッチングが行われ、すぐに全天球画像を確認できる

IQUISPINは「IQUIとのコンビネーションで新しい体験が得られる」(同)ことを目的に開発されており、全天球画像からショートビデオを生成する機能を搭載。IQUIだけでなく、THETAやGoPro、Insta360といったほかの全天球カメラの画像を読み込み、エフェクトを加えた短時間の動画が作成できる。

  • 読み込んだ画像に対してエフェクトを適用したり、表示位置をコントロールしたりして、画像をパンとズームする1:1の正方形動画が生成される

360度の全天球画像は、すべての環境で全天球として表示できるわけではない。そのため、IQUISPINは全天球画像内をパンとズームによって移動するショートビデオを自動生成し、MP4で保存することで、色々な環境で確認できるようにしてくれる。画面内にハートやシャボン玉といったCGが飛び回るようなエフェクトが追加できるほか、12種類のフィルターによって画像のカラーを変更するといった機能もある。今後、IQUIユーザーのみのエフェクトも用意するという。

今回、撮影機能としては最低限だが、「手軽さを求めた」と生方氏。動画に関しても、IQUIでの撮影もできるが、「まずは静止画から」という判断で、IQUISPINによる動きを付けることに「発想を転換した」(同)そうだ。

独特の形状で比較的価格も抑えることで、手軽さと手に持つ喜びを追求したIQUI。全天球カメラの市場規模は、新型コロナウイルスの広がり以前は500万~600万台とのことで、そうした市場をさらに拡大していくことを狙っている。

  • オプションの充電ケース。ペンケースのように収納すると同時に充電も可能

  • フタを開けると自動的に本体が浮き上がるので、そのまま取り出しやすい。使いやすさに配慮したギミックを搭載した