早稲田大学(早大)は8月26日、インドの天文衛星を用いて90億光年彼方の銀河「AUDFs01」から、中性水素を電離させられる電離光子(紫外線)のうち、これまででもっとも高いエネルギーである64nmという電離光子を検出したことに成功したと発表した。

同成果は、同大学理工学術院の井上昭雄教授、Inter-University Centre for Astronomy and AstrophysicsのKanak Saha博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Nature Astronomy」のオンライン版に掲載された。

ビッグバンから約38万年が経過し、陽子と電子が結びついて「宇宙の晴れ上がり」を迎えたあと、その数億年後にファーストスター(第1世代の恒星)が誕生したと考えられている。宇宙の晴れ上がりからファーストスターが誕生するまでの期間は、恒星やその集団である銀河などの自ら光り輝く存在がなかったことから「宇宙の暗黒時代」と呼ばれている。

暗黒時代、ビッグバンによってもっとも多く誕生した物質である水素は宇宙を漂い、そして徐々に集まって恒星を形作っていくことになるが、その大半が電気的に中性の状態だった。そしてファーストスターが誕生し、さらに銀河が形成されるようになってくると、恒星から放射される強力な紫外線により、宇宙を漂う水素は電離(イオン化)されていった。このイベントは、宇宙の晴れ上がり以前のプラズマ状態に近しいことから、「宇宙の再電離」と呼ばれている。その後、現在まで宇宙空間を漂う水素の大半が電離した状態のままだ。

この宇宙の再電離は、初期宇宙の若い銀河によって引き起こされたという説が、現在のところ有力視されている。しかし詳細はわかっておらず、それを明らかにすることは現代天文学の大きな課題の1つとなっている。そのため、これまで多くの天文学者が、水素を電離できるほどの強い紫外線(波長91.2nm未満の電磁波=電離光子)を放つ銀河の探索を進めてきており、多くはないがいくつかの発見につながっている。

発見数が少ない理由は、宇宙の再電離の時代(125億~135億年前頃)の電離光子の直接観測が難しいということが挙げられる。その時代、宇宙には、およそ10万個に1個未満という割合ではあるがまだ多くの中性水素が残っており、電離光子が地球に届くまでの長い間にそれらに吸収されてしまうためだ。

その後、宇宙の再電離時代から20~25億年ほど進んで110億年ほど前の時代になると、水素の電離がさらに進んで中性水素が減り、電離光子が吸収されにくくなるため、地上の大型望遠鏡でも観測できるチャンスが出てくる。また、宇宙の膨張による赤方偏移によって電離光子は地球に届くまでの長い間に可視光線となることも地上の大型望遠鏡で観測できるようになる理由となるが、それでも今のところは10個程度しか発見されていない。

しかも、このあとの時代は、赤方偏移が起きても大気に吸収されやすい紫外線のまま地球まで届いてしまうため、また観測が困難になってしまう。そこで宇宙望遠鏡の活用に期待が集まるが、ハッブル望遠鏡であっても、観測例はそれほど多くない。40億光年未満(時間にすれば、40億年前よりも最近の時代)の距離にある銀河10個程度から電離光子を検出するに留まっている。つまり、40億~110億年前の間の時代では、電離光子銀河はまったく発見されていなかったのである。

そこで井上教授らは、インドの天文衛星「AstroSat」に搭載された紫外線望遠鏡「UVIT(UltraViolet Imaging Telescope)」を用いて、未発見の時代の電離光子銀河の探索を実施した。AstroSatは2015年9月28日にインド宇宙研究機関(ISRO)によって打ち上げられたインド初の宇宙天文台。そこに搭載されたUVITは、遠紫外線(154nm)と近紫外線(242nm)を同時に広い視野で撮像できる機能を有している。

井上教授らは、UVITを南天のろ座にある「GOODS South(グッズ・サウス)」と呼ばれる一角に向け、約28時間にわたって露光。そのデータを2年かけて解析し、高感度の遠紫外線画像を作成した。その画像は「AstroSat Uv Deep Field south」と命名され、その中に写っていた90億光年彼方にある銀河「AUDFs01」(AstroSat Uv Deep Field southの天体番号1という意味)から電離光子の検出に成功したのである。90億光年ということは、90億年前に発した電離光子ということになる。

そして、検出された電離光子の波長を赤方偏移から逆算した結果、64nmと導き出され、水素を電離できる高いエネルギーを持っていることが判明した。これほど高いエネルギーを持った電離光子を銀河から検出したのは世界初だという。

今回の発見に対し、井上教授らは宇宙の再電離の謎を解明するカギのひとつになるだろうと述べる。また、AstroSatおよびUVITはハッブル宇宙望遠鏡に比べれば小型だが、性能を特化すれば、ハッブル宇宙望遠鏡をもしのぐ性能を発揮できることを実証できたことも大きかったとしている。

井上教授らは、現在も電離光子の観測を進めており、次は宇宙再電離の時代により近い120億光年彼方の銀河からの電離光子の検出を目標としている。

  • AstroSat Uv Deep Field

    AstroSat Uv Deep Fieldの疑似カラー画像。赤は波長812.8nm、緑は波長603.5nm(いずれもハッブル宇宙望遠鏡が撮影)、水色は241.8nm、藍色は154.2nm(いずれもAstroSat/UVITが撮影)。銀河「AUDFs01」は四角で囲まれている銀河で、左下がその拡大図。右下の衛星はAstroSatのイメージ (画像提供:Kanak Saha博士) (出所:早稲田大学Webサイト)