東京大学(東大)は8月21日、「超新星背景ニュートリノ」の世界初の観測を実現するべく、世界最大級の地下ニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」の検出タンク内の純水にレアアースのガドリニウムを加え、観測感度を向上させたことを発表した。

  • スーパーカミオカンデ

    観測感度の向上が図られたスーパーカミオカンデ検出器 (C)東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設 (出所:スーパーカミオカンデWebサイト)

今回の強化は、スーパーカミオカンデを運営する中心機関である東京大学宇宙線研究所に所属し、スーパーカミオカンデ共同研究グループ代表者の中畑雅行教授らによって実施された。

スーパーカミオカンデ検出器は、岐阜県飛騨市神岡鉱山内の地下1000mに設置されており、その直径は39.3m、全高は41.4mという円筒形のタンクだ。その中に5万トンの純水を溜められており、タンク内を通過したニュートリノが水分子と衝突した際に生じるニュートリノ現象(チェレンコフ光)を、壁に設置した約1万3000本の高感度光センサーが捉えるという仕組みを有する。

先代のカミオカンデの後を引き継ぎ、スーパーカミオカンデは1996年から実験をスタート。現在は、東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設を中心に、世界の49の大学や研究機関から約190名の研究者が参加する国際共同実験となっている。これまで、太陽ニュートリノ、大気ニュートリノ、人工ニュートリノなどの観測を通じて活躍。2015年には、東大の梶田隆章博士らが「ニュートリノ振動の発見」の功績によりノーベル賞を受賞したときも大きな役割を果たした。

しかし、これまでのところスーパーカミオカンデも含めて人類が検出できていないのが、「超新星背景ニュートリノ」だ。超新星爆発では、爆発エネルギーの99%がニュートリノによって放出され、それが超新星ニュートリノと呼ばれている(電子、ミュー、タウの全種類のニュートリノと、その反粒子が発生する)。目に見える光の形で放出されるのは0.01%ほどであり、超新星爆発をより詳しく研究するには、超新星ニュートリノによる観測が必要とされていた。

しかし、距離的に観測しやすい天の川銀河内では、超新星爆発は30~50年に1度しか起きないと見積もられている。そこで重要となってくるのが、宇宙全体に存在しているはずの超新星背景ニュートリノの検出である。超新星爆発は、宇宙全体では毎秒数回の頻度で発生しているとされており、宇宙誕生から現在までの超新星爆発で放出されたニュートリノは宇宙中に拡散、蓄積していることになる。それらは超新星背景ニュートリノと呼ばれ、1秒間に手のひらを数千個が通過していると計算されてほど膨大なものと見積もられている。

ただし、遠方からの超新星ニュートリノとなると、それだけ検出が難しくなり、高感度が必要となる。これまでも、年間に数回程度のニュートリノ反応がスーパーカミオカンデのタンク内で起きていたと考えられてきたが、ノイズによる反応と判別がつかない状態だったという。そこで今回、ガドリニウムを導入することによる感度の向上が図られたこととなる。

ガドリニウムとは、ランタノイドに含まれる原子番号64のレアアースで、全元素中でも中性子の捕獲能力が優れていることが知られ、その能力は、水に溶かした場合、0.01%の濃度でも50%の確率で中性子を捕獲でき、0.1%の濃度になれば、90%の確率で捕獲できるとされており、この特性を活用することでノイズと超新星背景ニュートリノの切り分けを行うことが試みられることとなる。

今回の改修は、ガドリニウムに関しての環境基準、排水基準などの法的な規制はなく、MRI検査の造影剤として使用されているほか、日本の土壌中には3~7ppmの濃度で存在しているものの、一般的に河川にはあまり存在しない物質であることから、十分配慮して取り扱うことを目的に漏出を防ぐことを目的に、2018年より開始。2019年末までに注水した水の純水化が進められた後、2020年2月までに新開発の硫酸ガドリニウム水の循環純化装置で処理する試験を実施、その後、タンク内純水の透過率を元の純水装置と同レベルで保てることを確認したという。

さらに7月14日から8月17日までの35日間にわたって、13トンの硫酸ガドリニウム八水和物(Gd2(SO4)3・8H2O)が導入された。5万トンの純水に対する重量比は0.026%の濃度で、ガドリニウム単体の濃度だと0.01%になるという。太陽ニュートリノなど、従来の観測を妨げないようにする必要もあるため、極めて放射性不純物が少ない硫酸ガドリニウム八水和物が開発されたという。

なお、今回のガドリニウムの導入で中性子の捕獲効率は50%に到達。今後、数年かけて濃度をされに上げていく予定で、7~8年の観測で超新星背景ニュートリノの世界初観測を目指すとしている。

  • スーパーカミオカンデ

    反電子ニュートリノの反応とスーパーカミオカンデのタンク内で発生する信号(チェレンコフ光)のイメージ (C)東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設 (出所:スーパーカミオカンデWebサイト)