新型コロナウイルス(COVID-19)が各業界へ様々な影響を及ぼしている。株式会社ブシロード及び子会社である新日本プロレスリング株式会社(以下、新日本プロレス)は、2020年3月から6月にかけて開催予定だったイベント・試合を軒並み延期・中止した。現在は、「BanG Dream!」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「D4DJ」などのメディアミックスプロジェクトでは、自宅でも楽しめるコンテンツをオンラインで提供。新日本プロレスは無観客試合の配信、また観客数を抑えた形で試合を開催するなど、今のエンターテインメントの形を模索している。

今回は、ブシロード取締役の木谷高明氏と新日本プロレス所属のプロレスラー・棚橋弘至、「BanG Dream!」戸山香澄役や「D4DJ」山手響子役などを担当する声優の愛美による鼎談を実施。イベント・試合中止による日常の変化や、それぞれが考えるエンターテインメントの今後について訊いた。

  • 左から声優の愛美さん、ブシロード取締役の木谷高明氏、プロレスラー・棚橋弘至選手

それぞれのステイホーム

――2020年4月7日に政府から「緊急事態宣言」が発出されてから、自宅で過ごす時間も増えたかと思います。皆さんはどのように過ごされていましたか?

棚橋:試合ができない、トレーニングする場所も限られるという状況だったので、気分のアップダウンが激しかったんです。なので、映画を見たり、家族とゲームをしたりしながらモチベーションを下げないように心がけていました。

  • 棚橋弘至(たなはしひろし)。11月13日生まれ。岐阜県出身。新日本プロレス所属。大学時代からレスリングを始め、1999年に立命館大学を卒業後、新日本プロレスへ入門する。IWGPヘビー級王座戴冠やG1 CLIMAX優勝など輝かしいタイトル歴を誇る

愛美:私はYouTubeでアーティストさんのライブ映像を見たり、自分自身も同じ事務所の佐々木未来ちゃん・伊藤彩紗ちゃんとYouTuberデビューしたりと、YouTube漬けでした。YouTuberとしての活動は、もともと3人で何かやりたいと話していて、昨年くらいに案として出たものだったんです。それをこのタイミングで実現する形となりました。

  • 愛美(あいみ)。12月25日生まれ。兵庫県出身。響所属。主な出演は『BanG Dream!』戸山香澄役、『D4DJ Groovy Mix』山手響子役、『ロストディケイド』キャロライン役、『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』ジュリア役など

木谷:会社の体制としては、2月19日から出社を少なくして、緊急事態宣言が発出されてからはさらに減らして10%以下にしました。また、上の立場の人間はなるべく自家用車で来ることを徹底しましたね。私も4カ月で2回しか電車に乗ってないです。

――自家用車での出社をはじめ、仕事のスタイルが変わったと思いますが、プライベートでは何か変化がありましたか?

木谷:毎日のように出社しているので忙しさは大きく変わっていませんが、それでも夜の時間は空くようになりました。その空いた時間には、NetflixやU-NEXTなどの配信サービスをよく見ています。

  • 木谷高明(きだにたかあき)。6月6日生まれ。石川県出身。株式会社ブシロード代表取締役会長。山一證券株式会社を経て、1994年に株式会社ブロッコリーを設立。2007年株式会社ブシロードを設立、2019年東証マザーズ上場

棚橋:我が家もNetflixを利用しているのですが、みんなで同じアカウントを使っているので、例えば嫁がお風呂に入っていると、俺が見れなくなるんです。ある日、嫁がシャンプーをしているなというタイミングで、こっそりアニメを見ていたんですよ。そしたら、お風呂から「消して」という冷たいひと言が飛んできました。

愛美:(笑)。

木谷:私は映画を見たり、仕事で関わっている人のアニメ作品を見たりしました。最近は大河ドラマの「関ヶ原の戦い」シーンだけ何作も比較しながら見ています(笑)。

棚橋:時間があるからそういう見方もできますね。

木谷:それと、配信だと飛ばしながら見ることができるじゃないですか。だから、「関ヶ原の戦い」のシーンだけを一気に見ることができる。例えばどれが一番エキストラ多いとか、一番お金かかっていそうとか。その他、『翔ぶが如く』と『西郷どん』で明治維新以降の大久保利通の描かれ方が違うので、それも比較していました。色々とマニアックな楽しみ方が手軽にできるのは、配信ならではかもしれません。

棚橋:会長、めちゃくちゃ有効に時間を利用しているじゃないですか!

木谷:いやいや……!

棚橋:でも、自宅で過ごす時間が増えたこの期間は「インプットの時間」だと思っています。俺も映画やテレビ番組を見たり、本を読んだりと、とにかく情報を入れていましたね。

木谷:昔だったら本を買い込むことしかできなかったかもしれません。技術が発達していた今だからこそ、色々な楽しみ方ができるんだと思います。

明るい未来へ向けて

――3人とも悲観し過ぎず、ポジティブに色々なことに取り組まれていたんですね。しかし、仕事の面では、予定していたライブや試合が延期・中止となりました。実際に出演する側だった愛美さん・棚橋選手は、その知らせを聞いたときどんな気持ちでしたか?

愛美:残念な気持ちはもちろんありましたが、一番大事なのは皆さんの命。演者としては仕方ないな、という気持ちでいました。それでも、そのイベントやライブのために予定を空けてくださっていた方々のことを思うと、申し訳なさや悔しいという気持ちがあったのも正直なところです。ほとんどのイベントが延期となってしまいましたが、決してこれからできないという訳ではありません。だから、今は明るい未来に向けて頑張っていこうと思っています。

棚橋:新日本プロレスは2020年1月4・5日に東京ドームで初めて2連戦を行いました。2日間で70,000人以上が来場してくださって、「新日本プロレスがすげーところまできた」と思っていたんです。そんなときに、新型コロナウイルス感染拡大のニュース。予定していた試合も中止となり、「あー、俺のキャリアって何だったんだろうな。新日本プロレスを盛り上げて、業界全体が盛り上がってきたのに」と、落ち込みました。業界全体が明らかに盛り下がっていくのを見るのも辛かった。

――いつまた以前のようにたくさんのお客さんを入れることができるか、不透明なのも辛さに拍車をかけている気がします。

棚橋:それでも、プロレスを好きになって、ファンになってくださった方々に離れていってほしくなかった。だから、ファンの方々に何か楽しんでもらえればと思い、SNSの更新頻度を増やしたんです。

そういう活動を続けていき、プロレスの火が絶えていないことを伝えていれば、きっとファンの人たちは会場に戻ってきてくれる。今はまだ3割程度のお客さんを入れた試合しかできませんが、満員の会場とお客さんの顔を思い浮かべるだけで、頑張れます。むしろ、俺が20年のキャリアをかけて少しずつ、1席ずつ増やしていったものを早回しで再体験できるかもしれないので、今はワクワクしていますね。

木谷:3月以降予定されていた様々なエンターテインメントのイベントは、ほぼできなくなりました。当社も予定していたイベントは延期・中止の判断をしています。それでも、お客さんを入れてのライブができなくなったら無観客配信ライブを実施するなど、とにかくコンテンツの供給が途切れないようにすることは意識しました。

当社だけでなく、エンターテインメントを提供する企業が様々な取り組みをやっています。今はまだライブエンターテインメントに関しては制限がかかっている状態ですので、我慢が必要だと思います。しかし、その中で頑張っていたところは、タガが外れたらこれまで以上の楽しみを提供してくれると思いますよ。今の企業努力は、1年後・2年後に成果として現れるんじゃないかな。