ゲームを競技化した「eスポーツ」は、大規模な大会の開催や対戦動画の世界的な配信などで、近年スケールを急激に拡大させている。国際的なスポーツ大会の「アジア競技大会」では、eスポーツがデモンストレーション競技に採用されるなど、もはや“スポーツそのもの”と言っても過言ではないだろう。
だが、eスポーツが急成長を遂げるなか、突如現れた新型コロナウイルスは、スポーツやエンターテインメントに多大な影響を及ぼしている。日本のeスポーツは新型コロナウイルスにどのような影響を受け、どのように変化しているのか。eスポーツ大会の運営や動画配信を手がけるRIZeST 代表取締役の古澤明仁氏と、同社が運営するeスポーツ施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」で店長を務める疋田力也氏に話を聞いた。
自粛期間で活気づく、eスポーツの新形式
「緊急事態宣言が発令され、在宅時間が増えたことで、ゲームの需要が高まったと話題になりました。eスポーツ業界も例外ではありません。コロナ禍以前よりeスポーツは、大会の様子をライブ配信し、それらに付随するオンラインコンテンツを充実させてきました。これらの視聴時間は自粛期間中に飛躍的に伸びています」
新型コロナウイルスによる影響を、古澤氏はそう振り返る。
「野球、サッカー、バスケ、テニスといったリアルのメジャースポーツの興行が軒並み中止になったなか、遠隔での対戦が可能なeスポーツのイベントはむしろ増加しており、災害などに耐性があるスポーツとして国内外から注目を集めています。リアルスポーツのアスリート同士が、ゲームで対戦することもあったんですよ」(古澤氏)
F1がその一例だ。モナコグランプリをはじめ、世界選手権が立て続けに中止・延期となるなかで、レーサーたちの空いたスケジュールを埋めつつファンの期待に応えようと、「レーサーによるeスポーツ大会」が開催された。近年のレーシングゲームは、車両から天候のコンディションまで、限りなく現実に近い設計が施されており、視聴者・プレイヤーともに、本場さながらの臨場感を大いに楽しんだ。
「弊社では、プロサッカーチーム同士がサッカーゲームで交流戦を行う『e-Stadium At Home DMMゴールデンマッチ』の運営に協力させていただきました。大分トリニータや北海道コンサドーレ札幌といったJリーグのクラブチームが、ベルギーリーグ1部のシント=トロイデンVVと戦う大会で、各チームの代表1名がプレイします。サッカー界では当時、サポーターがスタジアムで選手の躍動に触れることができず、協賛社側もブランド掲出、露出の機会がありませんでした。そうした課題を解決しようと企画したのがこの大会。非常にいい手応えを感じています」(古澤氏)
両チームの戦いはオンラインで動画配信されるが、プレイヤーは自室などプライベートな空間でプレイする。両選手はゲーム開始前に「勝負は勝負」と意気込みを語るものの、試合はどこかのんびりとした雰囲気が漂うからおもしろい。
「クラブチームの公式SNSで配信したこともあり、視聴者のほとんどは普段eスポーツに触れないようなサッカーのファンでした。ほかのeスポーツタイトルと比べ、ゲームのルールが明確なスポーツゲームだからこそ実現できたと思います。また、オフラインではなかなか見ることのできない日本と欧州の対決を届けることもできました。こうした方式はどのスポーツにも応用できるでしょう」(古澤氏)
リアルスポーツではできないことを、eスポーツが可能にする。コロナ禍では、このような新たなeスポーツの形式が生まれているのだ。