半導体市場調査・分析会社である米Semiconductor Intelligenceは、7月23日付けの調査レポートで、2020年の世界半導体およびアプリケーション(スマートフォンやPCなど)市場に関してほかの調査会社とは一線を画す見解を公表した。

楽観論が漂い始めた2020年の半導体市場

2~3か月前、ほとんどの市場調査会社は2020年の半導体市場の成長率について前年比でマイナスとなると予測していた。しかし、世界半導体市場統計(WSTS)が6月に春季予測として前年比3.3%増という数値を出して以降、多くの調査会社も予想を上方修正した。例えば、米IC Insightsは、2020年のIC市場の成長率を4月には同4%減としていたものを7月に同3.0%増に修正している。そのほかの多くの調査会社も上向きの予想に修正しているが、こうした半導体業界に漂う楽観論は2020年1月~5月の半導体市場が、前年同期比6.4%増となったWSTSのデータを元にしたものと言える。

しかし、ほとんどの主要半導体企業は、まだ2020年第2四半期の業績発表を行っていない。すでに終えた企業、例えばMicron Technologyは、5月に終えた2020年度第3四半期決算にて、同四半期の売り上げが前四半期比13.4%増となり、事前ガイダンスの上限を上回る結果を示したほか、次四半期(6-8月)の収益について同6%〜15%増との予想を打ち出している。またTexas Instrumentsは2020年第2四半期の売上高について、前四半期比2.7%減と発表したが、事前ガイダンスでは同4.2%減としていたため、予想よりも良い結果となり、第3四半期についても同1~9%増との予想を打ち出している。

本当に2020年の半導体市場はプラス成長になるのか?

しかしSemiconductor Intelligenceは、こうした楽観論は時期尚早かもしれないとの見方を示している。新型コロナウイルスの影響を年間通して予測することはほとんど不可能に近いからだ。ジョンズホプキンス大学によると、2020年7月23日時点での世界の新型コロナ感染者数は累計で約1530万人であり、5月末の620万人の2.5倍に増えるなど、収まる気配がないためである。

また、近年の半導体消費の最大市場であるスマートフォンは、生産の中心地である中国が新型コロナの感染拡大を防ぐために多くの工場の操業を一時的に停止させたこともあり大きな打撃を受けている。例えば2020年第2四半期の携帯電話出荷数は前年同期比22%減(一方のPCは同17%増)となった。中国の電子機器生産量は1月、2月がもっともダメージが大きく、抑え込んだとされる第2四半期には前年同期比12%増まで回復しており、仮にこのままの調子が第4四半期まで続くことができれば、1年前の生産量に戻ることができる可能性があるが、もしそうなったとしても、通年の携帯電話出荷数量は前年比約15%減程度に留まるとSemiconductor Intelligenceでは予想しているためだ。

  • 中国の電子機器全体、およびPCとスマートフォンの生産額の前年同期比増減率推移

    中国の電子機器全体、およびPCとスマートフォンの生産額の前年同期比増減率推移 (中国政府の統計に基づきSemiconductor Intelligenceが作成)

2020年第2四半期のスマートフォンの出荷数量はまだ公表されていないが、各社の調査データからは弱含みの動きが見える。例えばCanalysは、2020年第2四半期の中国のスマートフォンの出荷台数を、前年比22%減と推定している。またインドも多くの小売店が休業を余儀なくされたため出荷数量は同48%減となった。さらにCounterpoint Researchによると、米国でのスマートフォンの販売率が同25%減との推定値を出している。この3か国で、世界のスマートフォンの購入数の約半分を占めており、これだけの落ち込みが事実だとすれば、決して楽観視することはできないというのがSemiconductor Intelligenceの見方である。

ちなみに通年のスマートフォン市場の最新の予測としては、IDCが前年比11.9%減、Fitch Ratingsが同16%減とマイナス成長が示されている。もし、2020年第2四半期のスマートフォンの出荷数量が予想よりも弱い場合、これらの予測はさらに下方修正される可能性が高く、Semiconductor Intelligenceでも2020年のスマートフォン市場は前年比20%減となる可能性があるとしている。

一方、スマートフォンに次ぐ半導体消費市場であるPCはリモートワークや在宅授業の増加により調子が良い。IDCによると、2020年第1四半期のPC出荷台数は前年同期比10%減となったが、同第2四半期には同11%増とリバウンドしており、2020年上期の出荷台数は結果として前年同期比1.2%増とプラス成長を記録している。PCの出荷台数は過去8年中6年がマイナス成長を記録していることを考えると、2020年上期のプラス成長は希望を持てる結果といえるだろう。

2020年の半導体市場はマイナス成長なのか?

Semiconductor Intelligenceは、5月に2020年の半導体市場を前年比6%減とする予測を公表したが、いまのところこの予想を上方修正する動きを見せていない。おそらく半導体企業各社が第2四半期の業績を発表し終えた8月に修正を発表するものと思われるが、すでに世界の多くの国で失業率が上昇し、その規模は2008年の起きたリーマンショックと同等かそれ以上ともいわれるようになっている。

すでに複数の製薬メーカーが新型コロナ向けワクチンの第3相臨床試験に入っているが、一方でロシュが新型コロナに対する抗炎症薬の第3相臨床試験で芳しくない成果しか得られなかったことを明らかにするなど、ワクチンや治療薬が簡単にできるものではないことを示す結果もでてきているほか、WHO(世界保健機関)の専門家も少なくとも2020年中はワクチンが広く一般に摂取できる状況になることはないとの見通しを示しており、世界的に各家庭が支出に対してより厳しくなる可能性がある。

また、一部のエレクトロニクス企業はサプライチェーンへの懸念から、半導体在庫を積み増しているという話もあるが、もし2020年下期も最終製品市場の動きが弱いままであれば、在庫がさばけないため、そうした積み増した企業は半導体の購入を控え、在庫レベルを調整する可能性もあり、こうした問題を考えると、決して楽観視はできるものではないとSemiconductor Intelligenceはコメントしている。