ソフトバンクグループは6月25日、第40回定時株主総会を開催しました。新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大防止の観点から、株主を招集せず、すべての議事はライブ配信により進められています。株主からは「株の配当額が低い」「役員報酬が高い」「会長は報酬を返上すべき」といった厳しい意見が寄せられました。

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    ソフトバンクグループは25日、第40回定時株主総会を開催。ソフトバンクグループ代表取締役会長 兼 社長の孫正義氏が登壇しました

営業利益が赤字になることは、大した問題ではない

ホームページおよび公式SNSアカウント(Twitter、YouTube)でライブ配信された今回の株主総会。冒頭で10分ほど、ソフトバンクグループ 2019年度の事業報告が行われました。

その内容は、営業損失が1兆3,646億円(前期比3.4兆円の悪化)、純損益が9,616億円(前期比2.4兆円の悪化)だったこと、新型コロナによる不確実性から2020年度の配当金は未定の方針であること、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以後、SVF)の累計投資損失が0.1兆円になったこと、米国の通信事業者 新Tモバイル(スプリントとTモバイルの合併により誕生)が持分法適用 関連会社になったこと、大規模な株主還元と財務改善を目的に保有資産を売却・資金化することで最大4.5兆円を得るプログラムを発表したこと、など。大きな損失を計上しており、従来のようなスタイルの株主総会であれば、ここで株主から野次が飛んだかもしれません。

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    営業損失は1兆3,646億円(前期比3.4兆円の悪化)

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    純損益は9,616億円(前期比2.4兆円の悪化)

続いて、今後の事業戦略に45分をかけました。そこで語られたのは、コロナ危機により加速するデジタルシフトをソフトバンクグループが牽引していく、という内容でした。

オンライン会議を始め、デリバリー、教育、診療、ショッピング、エンタメなどあらゆる分野に浸透しはじめたオンラインサービスですが、それを担う企業を投資しているのがソフトバンクグループである、と説明します。

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    ソフトバンクグループがデジタルシフトを牽引していく

ここで「株主の皆様の関心事は、ソフトバンクは大丈夫か、ということだと思います。史上最大の赤字を出したので、ごもっともな心配事です」と孫氏は切り出します。

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    ソフトバンクは大丈夫か?

そのうえで「ソフトバンクグループはさまざまな事業者を傘下に持つ『戦略的持株会社』に生まれ変わりました。したがって、最重要指標は(赤字を出した)営業利益ではなく、株主価値にこそあります」とあらためて強調します。

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    最重要指標は、営業利益ではなく、株主価値にこそある

そして直近のデータを紹介し、「営業利益が赤字になる、ということは私にとって大した問題ではありません。保有している株式の価値について、今日現在、だいぶ改善してきたことをお伝えしたいと思います」と、コロナ前と比較して、株主価値が増えていることをアピールしました。

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    2020年6月24日現在のソフトバンクグループの株主価値は23.3兆円

質疑応答では配当金や役員報酬について回答

最後に、株主からの質疑応答に35分をかけました。寄せられた質問のなかから、株主の関心が高そうなものを孫氏が選び、回答していきました。

――以前から60代で会社の経営から退くと話していたが本当か。

孫正義氏(以下、孫):その気持ちに変わりはありません。いま私は62、63歳くらいでしたっけ。だから、あと7~8年は残っています。

まぁ、69歳くらいになったら、そのときは医学も進んでいますから、もしかすると少しオーバーするかもしれません(笑)。厳密に、69歳の誕生日を過ぎたときに「もうお前は退場。だって約束していたじゃないか」とは、言わないでいただきたいですね。概ねそんな感じで約束したと修正しておきたい。

私の健康状態、会社の状況にもよるので、もしちょっと違っても責めないでください。いまのうちに予防線を張っておきます。

――経済環境が目まぐるしく変化するなかで、社長個人の能力に頼るのも限界があるのでは?

孫:私の能力についてですが、まぁ正直に申し上げて、結構、自信があるんです(笑)。自信過剰で、よく「孫なのに不遜だ」とお叱りをいただく。自信がありすぎて、ワンマンと批判されるんですが、自信は大事だと思うんです。

これだけ多くのグループを率いるとなると、個人の能力が限界になってはいけない。だから多くの社員、幹部の諸君には最大限の力を発揮してもらい、それを結集している。

マルセロ・クラウレ、ラジーブ・ミスラ、後藤芳光(それぞれ功績を紹介しつつ)――。彼らがいなかったらソフトバンクは大変苦しんでいた。心から感謝している。1人ひとり挙げていくと、あと20時間くらいは必要になるので、このあたりにしておきますが、これからも総力戦で伸ばしていきます。

――配当額があまりに低い。

孫:配当がないかもしれないことは、3月末の時点で発表いたしました。当分、配当などは期待しないでほしい、というのが正直な気持ち。

もちろん、いつかは配当を出したい。4.5兆円を資金化しましたが、配当に回すよりも株主還元としての自社株買いを発表しました。株主還元は2.5兆円の規模になり、これは日本市場、最大じゃないかと思う。世界でも類を見ない。こちらを中心に、株主還元を慎重に行っていきます。

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    大規模な株主還元と財務改善を目的に、最大4.5兆円を資金化

――役員報酬が高い。

孫:これからも、役員報酬は大いに払っていきたい。むしろ増やしたい。うちの幹部が期待するので、言うのもほどほどにしますが。会社の企業価値を伸ばすために、死にものぐるいで働いたら、そして株主の価値が増えたなら、その何%かは貢献した社員、幹部に気前よく払っていきます。

それが私の考えかた。そうすれば、株主価値も元気に伸びていくはず。だから見返りは、幹部にドシドシ払っていきたい。日本の企業は、役員報酬が少なすぎる。総サラリーマン化しており、大企業がどんどん力を失っている。

そのあたり、報酬体験と連動していると思うんです。日本人は、真面目に細かく積み上げていき、リスクを取らない。怖がる。借金が怖い。でも金は余っている。何でリクスを取らないんだ、リスクを取らない会社が伸びるわけないだろ、と言いたい。青年の主張であります。もう青年じゃありませんが、心は青年。スプリントを買収したとき、現金は4,000億円しか持っていなかった。でも2兆円を超える借り入れをして、攻めていった。途中で船は沈みそうになったけれど、無事に岸に到着した。そうしたら持っていた4,000億円が、5倍くらいになったじゃないか。

乗り越える自信があったら、リスクを取りに行くべき。そうしないと、成果は得られない。リスクを取ってきた死にものぐるいの幹部には、その成果が出たとき、役員報酬を分配していく。そうすることで、次のリスキーな航海にも乗り出せるんです。

すみません、演説しだすと止まりませんね、次にいきましょう。

――コロナショックのときこそ明日を担う企業に傘を貸すべきでは。

孫:雨が降ったときに傘を貸さない銀行はけしからん、という表現がありますね。そのことをソフトバンクにも言いたいんだと思います。

ですが、我々は貸金業ではありません。我々はベンチャー企業に投資する。担保を元にしてはおらず、企業の将来性を見て出資している。

だから、よりリスクを伴っている。それでも、絵に描いた餅のようなビジネスプランを持ってくる企業に投資はしない。それは無茶な話。一歩、間違えるとWeWorkのようになる。いまWeWorkは必死に立ち上がろうとしており、良い方向に進展していますが。少なくとも、会社を救済するために現金を出すことはしたくない。伸びるから投資する。晴れがもうすぐ見える、だから傘を提供する、ということは大いにあると思っています。

――SVFの企業に対して、将来的には経営の決定権を持つのか、グループ会社とするのか、それとも株を売却するのか。

孫:原則として、SVFでは株式を売却します。投資期間は12年、延長しても2年という契約。それまでに投資した資金は、株式の売却によって回収する。なかには、いくつかの企業はグループの中核会社とすることも例外的にはあり得ます。それがベンチャーキャピタルの基本的な考えかたです。

――自社株買いの方針は?

孫:3月23日に発表の通り、2.5兆円の自社株買いを発表しました。そのための、4.5兆円の軍資金の8割の現金はすでに手に入れた状態。残り2割も目処が立っています。

――投資先とのシナジーをもっと追求してほしい。

孫:シナジーは強制できるものではありません。あくまで20~30%の株式を保有している、ということです。アリババの株も25%くらい持っていますが、アリババに対して1度もシナジーを強制したことはありません。

でも、強制しなくても素晴らしい会社なら立派に伸びていく。シナジーが出る業務提携を何度も行うと、その成果が至るところに出てきます。何となく促す、ということですね。

血は水より濃いと言いますが、彼らは、大株主としての我々がハッピーになるように慮ってくれる。そこには良い意味での忖度がある。これがファミリーカンパニーということだと思います。

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    アリババのジャック・マー氏と孫氏

――We Company(ウィーカンパニー)、OneWeb(ワンウェブ)で巨額の損失を出した責任をとって報酬を返上すべき。

孫:最大の責任は私にあります。WeWorkのときも、幹部や社員、たくさんの人が最初から反対していた。怒り狂った人もいた。私も言い返しながら、最終的にはみんなで合意して投資した。反対を押し切った私に最大の責任がある。だから、ソフトバンクからの報酬は減俸しています。

人事から、報酬の相談を受けたときに『俺はゼロでも良い』と伝えたけれど、いろんな問題があるということで、1億円くらいにした。それまでは2億円くらい。たしか、そんなことでした。

また、この1億円くらいは、全額寄付しています。だからソフトバンクからの報酬は、事実上ゼロになりました。ならば、それ以上の減俸はありません。

では、どうやって罰するか。ソフトバンクの株価が下がることが、私にとって最大級の減俸になります。株主の皆様にもご迷惑をかけるし、私への最大の罰ですね。投資家の皆さまが「あいつを、もっと懲らしめよう」というのであれば、もっと株価は下がる。別のもので成功した部分が大きい、と思ってもらえれば逆にあがる。株主の皆さんに、毎日ご判断いただいています。

――このようなライブ配信による質疑応答では、株主総会の透明性が疑われる。

孫:新型コロナにより、人々が集まるのが難しい状況です。収束したら、直接、株主の皆さまにお会いしてランダムで意見を伺う場を持てるようになるでしょう。同じ部屋で、同じ空気を感じながら。ぜひ、そうした時期が早く来ることを願っています。

ソフトバンク、ヤフーでも株主総会をオンラインで配信しましたが、同時視聴者が4万人くらいでした。これだけの人が同時に集まって、質問をする機会はこれまでありませんでした。完全オンラインは初めての試みでしたが、インターネットにより多くの人が参加できたと思います。