本格的なスピーカーやアンプを家に置けないという人でも、シンプルな構成で良い音を楽しめるのがPCオーディオの醍醐味。手持ちのヘッドホンをノートPCなどのヘッドホンジャックにそのまま挿すのではなく、USB DAC内蔵ヘッドホンアンプを組み合わせると、スマートフォンとワイヤレスイヤホンなどで聴くのとは違った音楽体験が楽しめます。今回はFiiO Electronics(フィーオ エレクトロニクス)の卓上ヘッドホンアンプ「K5 PRO」の音を、手持ちのヘッドホンで聴いてみた印象をお伝えします。

  • K5 PRO

    K5 PRO(左)に密閉型モニターヘッドホン「SW-HP11」(右)を組み合わせたところ

家で仕事をする時間が長くなると、どうにもパソコンの音質が気になります。オンボードのサウンド機能はひと昔前より良くなっており、有名オーディオブランドとコラボレーションしたスピーカーを搭載したノートPCなども増えていますが、仕事用のパソコンは最低限のオーディオ性能しか備えていない……ということも珍しくありません。

そんなパソコンに組み合わせて使いたいのが、USB DAC内蔵ヘッドホンアンプです。机の上に置いて使う据え置き型から、スマホと一緒に持ち歩けるポータブル型までさまざまなバリエーションがありますが、物量を投入できる据え置き型はポータブル型よりも余裕のある作りになっているのが一般的。繊細な音を表現できる一方で、駆動にパワーを必要とするヘッドホンを鳴らせる製品もあります。

  • K5 PRO

国内外のメーカーからさまざまな機種が出ていますが、5月19日にFiiO Electronics(フィーオ エレクトロニクス)が発売した「K5 PRO」は、直販24,444 円(税別)と手ごろな価格設定ながら、高音質設計をコンパクトなボディに詰め込んだ見どころの多い製品です。主な特徴は以下の通り。

  • 旭化成エレクトロニクス製ハイエンドDACチップ「AK4493EQ」搭載
  • USBコントローラーにXMOS製「XUF208」を採用
  • DSD512(22MHz)ネイティブデコード対応、PCMは768kHz/32bitまで対応
  • アナログアンプ部で左右チャンネルを独立処理、完全差動オーディオ出力に対応
  • 強力な出力で「さまざまなインピーダンスのヘッドホンを楽々と駆動」
  • 細かい音量調整ができるADCボリュームコントロール
  • DCフィルター採用の外部電源採用
  • 光デジタル/同軸デジタル入力、RCAライン出力搭載

ポータブルオーディオを趣味としてたしなむ人には、FiiOという企業の名前はおなじみでしょう。2007年に中国で設立され、広州に本社を置くメーカーで、現在も精力的に国内市場へ新製品を投入。同社のポータブルアンプやハイレゾプレーヤーには国内外のポータブルマニアが注目しています。個人的には、ポータブル製品のトレンドをいち早く採り入れながらさまざまな機能を盛り込み、コストパフォーマンスに優れた製品を多数世に送り出してきたメーカー、というイメージがあります。

そんなFiiOの新製品「K5 PRO」は、最大768kHz/32bitのPCMや22MHzまでのDSD再生に対応するなど、2万円台と比較的手の届きやすい価格帯ながらかなり高い性能を持っており、弊誌でもニュース記事が大きな注目を集めました。さすがに768kHz/32bitや22MHzのファイルは配信では見たことはありませんが、このスペックならあらゆるハイレゾファイルを変換で音質を落とさず再生できそうという安心感につながりますし、毎日向き合うPCに音の良いヘッドホンアンプを足せば、仕事の質やQOL(生活の質)の向上も期待できる、かもしれません。

K5 PROの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。ということで今回は、筆者の手持ちのヘッドホンと組み合わせて、K5 PROの使用感や音質などをチェックしてみました。

なお、K5 PROは国内代理店としてFiiO製品を取り扱うエミライの直販サイト専売モデルとなっており、執筆時点では残念ながら売り切れてしまっていますが、再入荷のお知らせをメールで受け取れるフォームが用意されているので、興味をもった人は登録すると良いでしょう。

シンプルな見た目に、パワフルなオーディオ回路

では実際にK5 PROを見ていきます。本体はアルミニウム素材にアルマイト処理とサンドブラスト加工を施しており、さらっとした手触りの良い仕上げになっています。角を丸めたシンプルなデザインで、大きさは120.5×130×55mm(幅×奥行き×高さ)。自作PC派の人には「NUC」の本体を少し大きくしたくらいのサイズ、といえばイメージが伝わるでしょうか。

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    K5 PROの上面(左)。右はサイズ比較用のiPhone XS。本体のコンパクトさが分かる

カラーがブラック1色なので、卓上に横置きにすると存在感があってやや目立ちますが、付属のゴム足を側面に貼り付けて縦に置き、設置面積を小さくしてコンパクトに置くこともできます。重さは約436gで、指で軽くつついたくらいではズレないくらい重厚です。

前面にはヘッドホン出力と、金属製の大型ボリュームノブ、入力の選択とゲイン調整を行うレバースイッチを装備。背面には入力端子としてUSB-B、光/同軸デジタル、アナログRCAを各1系統備えています。

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    前面

ヘッドホンジャックは6.3mm標準ステレオで、3.5mmステレオミニのヘッドホン/イヤホン用の変換アダプタも付属します。最近のポータブル製品でよく見かけるバランス出力端子は備えていません。「せっかくなのでバランス出力が欲しかった……」という声もあるとは思いますが、内部のオーディオ回路で左右のオーディオチャンネルを独立処理し、完全差動オーディオ出力に対応させるといった設計を採用しており、あえてアンバランス出力を選んで高音質化を突き詰めた感があります。

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    背面

32Ω負荷時に最大1.5W、300Ω負荷時に最大20Vp-pと強力な出力を実現し、「さまざまなインピーダンスのヘッドホンを楽々と駆動できる」のもK5 PROの特徴です。ヘッドホン出力のインピーダンスは1.2Ω以下。電源は、DCフィルター採用のDC 15V外部電源方式で、安定性の高い低ノイズの電力供給が可能としています。

なお、付属品でひとつ注意点があり、同梱のACケーブルは海外製のノートPCなどで見かける3極ピンといわゆるミッキータイプのコネクタに対応したものになっています。このままでは壁のコンセントには挿せないので、3極→2極の変換アダプタも付けてもらえるとありがたかったのですが……。

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    同梱のACケーブルは3極ピンといわゆるミッキータイプのコネクタを備えたタイプ。壁のコンセントには挿せないので、対応する電源タップか3極→2極の変換アダプタが必要だ

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    K5 PROの製品内容

RCAのアナログ出力を背面に備えており、別売のアクティブスピーカーなどのオーディオ機器にK5 PROの音を出力できます。限られた卓上スペースでヘッドホンとスピーカーの両方を良い音で楽しめるかも、ということで、試しにK5 PROを手持ちのフォステクス製アクティブスピーカー「PM0.3H」と組み合わせると、ミニコンポ風のコンパクトオーディオシステムとして使えました。K5 PROもスピーカーもシンプルなデザインなので、見た目も思った以上にマッチしています。

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    K5 PRO(中央)をフォステクスの小型アクティブスピーカー「PM0.3H」(左右)と組み合わせてみた。意外にマッチする

K5 PROのライン出力は固定ではなく、ヘッドホンと同様に音量を前面のダイヤルで変えられます。ボリュームは1ステップ0.5dBという細かな音量調整が可能なADCボリュームコントロールを採用しており、左右の音量バランスは小音量でもほとんど崩れません。PM0.3Hのボリュームはアナログ方式で、筆者が持っている個体は音量を絞ったときに左右のバランスが崩れるギャングエラーが起きやすいのですが、K5 PROに音量コントロールを任せるとストレスのない音量調整ができました。

なお、このライン出力は最大2Vrmsまで調整可能で、さまざまなアクティブスピーカーや外付けアンプと組み合わせて使えるそうですが、FiiOではライン出力を使用するときは過大入力を防ぐために、ヘッドホンを外すよう案内しています。ユーザーが注意して使えば済む話ではありますが、万が一ということもあるので、できれば設計上何らかの工夫をしてほしかったところです。