コロナ禍の副産物とでも言えばいいのか、外出自粛の影響を受けて”巣ごもり消費"が急伸しています。特に熱いのが「オーディオ」。映画を大迫力で楽しもうとサラウンドシステムを用意した、などという声をよく耳にします。そしてもうひとつ、熱いジャンルが「パワードスピーカー」。その極北(?)ともいえるソニーの「SA-Z1」(6月20日発売、税別78万円)をレビューします。
SA-Z1はどこがスゴいのか
一般的にオーディオシステムといえば、ディスクやファイルなどの音源を再生しオーディオ信号に変える「プレーヤー」、そのオーディオ信号を増幅する「アンプ」、増幅した信号を受けて振動板を駆動し音を出す「(パッシブ)スピーカー」が構成の基本です。しかし、このSA-Z1はアンプ内蔵の「パワードスピーカー」。パワードスピーカーといえばレコーディングスタジオのモニターといった業務用から、Bluetoothスピーカーなど気軽さが売りの小型スピーカーまでさまざまな商品がありますが、当然SA-Z1開発陣は意図してパワードにしたと考えられます。
なぜなら、パワードスピーカーには音質上有利な点が多いからです。アンプとスピーカーの接続距離がごく短く信号の劣化が少ないうえ、アンプをそのスピーカー専用にチューニングできます。チャンネルデバイダーを用意すれば、ネットワーク(アンプからの信号を低域/高域などに周波数帯域を分割する装置)も自在に調整できます。
とはいえ、パッシブスピーカーとアンプは選択肢が豊富で、組み合わせの妙という楽しみがあります。オーディオメーカーは専業指向が強く、スピーカーメーカーはアンプの、アンプメーカーはスピーカーの高度なノウハウを持ちません。理屈ではわかっていてもパッシブスピーカー主流の状況を変えられなかった、という部分もあるのではないでしょうか。
しかし、このSA-Z1は違います。スピーカー部/アンプ部とも気合いの入った設計がうかがえ、モニター用途・カジュアルリスニング用途とみなされがちだったパワードスピーカーのありかたに一石を投じる製品に仕上がっています。
“鼓”構造から内蔵アンプまで、SA-Z1の見どころをチェック
SA-Z1には、「これでもか」というほど高水準の技術・新機能が盛り込まれているため、筆者なりの視点で注目箇所をかんたんにまとめてみました。詳細なスペックについては、『ソニー、超ド級卓上パワードスピーカー「SA-Z1」78万円で6月20日発売』を参照してください。
まずはスピーカー部。片側ウーファー2基とツイーター3基からなる2ウェイ5スピーカー構成ですが、ウーファーは真鍮製の支柱で結合のうえ対向配置された「鼓構造」を採用し、不要振動を抑えつつ側面の音道から低音を横へ放出するという凝ったつくり。高精度なシミュレーションに基づき、3基のツイーターを相互干渉しないよう配置したという「I-ARRAY System」を採用、それをウーファーの中心と同じ軸上(精度はミクロン単位)に配置するという離れ業をやってのけます。
アンプ部にも妥協はありません。ソニー独自のフルデジタルアンプ「S-Master HX」にアナログアンプを組み合わせた「D.A.ハイブリッドアンプ」を1チャンネルにつき4基搭載、各ドライバーユニット(メインツイーター/アシストツイーター/メインウーファー/アシストウーファー)で計16ch分を独立駆動することだけでも目を見張りますが、さらに各ユニットへの出力タイミングをFPGAで緻密にコントロールするという徹底ぶり。時間軸でも可能なかぎり音を制御しようというわけです。
6枚の厚いアルミ板で構成されるというエンクロージャーは、日本の伝統的な木造建築技術「木組み」から着想を得ているそう。木組みといえば、釘などの金属を使わずに接合部を加工し互いをはめ合わせる技術ですが、筐体の振動・共振を可能なかぎり抑えるために導入したのでしょう。背面のヒートシンクも、不要共振を防ぐために切れ目のない煙突構造にしたそうで、恐ろしい念の入りようです。
個人的に強く惹かれたのは「GaN-FET」。一般的に、デジタルアンプの最終出力段にはMOS-FETを使うものですが、「D.A.ハイブリッドアンプ」には窒化ガリウムベースのGaN-FETが採用されています。スイッチング性能でMOS-FETより優秀となると、音の立ち上がり/立ち下りのすばやさ、音像定位や明瞭度に大きく影響してくるはずだからです。