いざ試聴! 目に見えるような音像定位に驚く
能書きはこのくらいにして、いざ試聴。デスクトップ/ニアフィールドスピーカーという製品の性格を考慮して、プレーヤーにはパソコン(MacBook Pro)を利用しました。ソースはストリーミング音楽配信サービス「Amazon Music HD」を選び、オーディオ再生に特化した排他モードに設定して再生しています。
まずはドミニク・ミラーの「Silent Light」をチョイス、Stingのカバー「Fields Of Gold」を再生すると、軽い衝撃を感じました。ただアコースティックギターの音が聞こえるというのではなく、弦が振動しブリッジボードから表板全体に伝わりボディに共鳴する一連のプロセスがわかる、とでも言えばいいのでしょうか。弦を爪弾く微妙なニュアンスまで伝わり、これまで何度となく聴いた曲も印象が一変します。
続いては、同じECMレーベルのパット・メセニー・グループ「OFFRAMP」。このアルバムで一番好きな「Au Lait」を再生すると……ギターの音が左右スピーカーの中間、MacBook Proのキーボード上あたりにピタリ定位します。小さくなったPat Methenyがギターを弾いているような印象もありますが、パーカッションやピアノには浮遊感があり、音場がスケールダウンしているわけではありません。音像が明確になり、それがSA-Z1独特のリアリティある音につながっているのでしょう。
SA-Z1はUSBのデジタル入力に対応しており、DSDは最大22.4MHz、PCMは最大768kHz/32bitまで(ウォークマン/Xperia入力端子ではPCM 384kHz/32bitまで)再生できますが、入力されたすべてのPCM音源を11.2MHz相当のDSD信号に変換する「DSDリマスタリングエンジン」を搭載しています。先ほどの「OFFRAMP」は44.1kHz/16bitのCD品質ですが、音源としてのクオリティ不足を感じさせません。
とはいうものの、気になったのがプレーヤー役のMacBook Pro。SA-Z1の左右ユニットの中央でMacBook Proのディスプレイを開いた状態だと、ディスプレイが音の回折に悪影響を及ぼしているはずで、取り除いたほうがより正確に音像定位させられるに違いありません。
(編注:回折とは、スピーカーユニットから前方へ放出された音がエンクロージャーの側面・後方に回り込むこと。そのため、ステレオスピーカーの間にテレビなど音を反射するものが置かれていると、音像の明瞭さや音の定位感に影響することがある)
そこで手もとにあった、手のひらサイズのポータブルオーディオプレーヤー「Shanling Q1」(実売16,280円前後)をUSBケーブルでSA-Z1につなぎ、Pat Metheny Groupの同じ曲を再生してみると、予想は的中。今度はファイル再生(FLAC 44.1kHz/16bit)ですが、音場がより自然にまとまります。音場の奥行きも増し、左右のユニットの間に演奏ステージが登場したかのようです。
超ド級スピーカーのさらなる進化に期待
このように、SA-Z1は「ソニーが本気で作ったパワードスピーカー」と言って差し支えない実力を持ちますが、いくつか注文が。
ひとつは、本体のサイズと重さ。片側1台あたりA4用紙をやや大きくした程度の設置面積(占有スペース)と10.5kgという重さは、デスクトップ/ニアフィールドスピーカーとしては場所を選びます。78万円(税別)という価格もさることながら、オーディオルームに置くではなし、かといってリビング用スピーカーとしても扱いづらい、微妙な立ち位置とならざるをえません(本気のオーディオ機器に対して言うには野暮ですが)。
もうひとつは、入力端子。USB、光デジタル、XLRなどと一通りそろってはいますが、徹底的にやるなら「I2S」(Inter-IC Sound、オーディオ信号の伝送に利用される標準的なデジタル伝送フォーマット)に挑んでほしかったと思います。端子やケーブル長、アイソレーションなど課題は多いうえ、S-Master HXの都合もあるでしょうから、むやみなことは言えませんが、ここまでの音を聴いてしまうと……さらなる可能性に考えがおよぶのはマイルストーン的製品にはつきものということで、どうかひとつ。