続いてIIJの佐々木氏より、「IIJのモバイル業界における活動とVMNO構想について」と題して、IIJと業界団体の関係や昨年のモバイル業界におけるホットトピックの解説、および「VMNO構想」についての説明が行われた。
まず通信事業における業界団体についてだが、銅線や光ファイバー網などを持つ旧第1種電気通信事業者の団体である「電気通信事業者会」(TCA)、プロバイダなどの第2種電気通信事業者の団体である「テレコムサービス協会」(Telesa)、インターネットサービスプロバイダの業界団体「日本インターネットプロバイダ協会」(JAIPA)、そしてCATV事業者による「日本ケーブルテレビ連盟」の4つがある。このうちIIJは「テレコムサービス協会」にのみ加入している。
テレコムサービス協会の会長にはIIJの鈴木会長が就任しており、また協会に置かれた6つの委員会のうち、MVNO委員会の委員長にIIJの島上取締役が、さらに2つの分科会のうち運営分科会の主査を佐々木氏が請け負っている。MVNO委員会の発足した2013年から、IIJはメンバーの一因として、数々の勉強会や政策提言といった活動に積極的に参加してきたという。接続料の見直しや端末と通信の分離、レイヤー2接続機能の提供義務付け、eSIMの実現など、さまざまな提言が実現して、現在のMVNO業界があるわけだ。
さて、そんなMVNO業界が現在注力しているのが、5G時代のMVNOのあり方である「VMNO構想」だ。 VMNOは「Virtual Mobile Network Operator」の略称で、MVNOとは1単語入れ替わっただけなのだが、考え方はまるで異なる。
現在のネットワークでは物理的な機器が占めているコアネットワークが、5G(スタンドアローン)では仮想化が進み、外部向けに提供されているAPIを使ってサービスを構築できるようになる。こうなると、仮想通信事業者には、MNOが提供するAPIのみを使って事業を行う「ライトVMNO」と、自前で仮装基盤を作り、MNOからは物理設備(回線、基地局など)だけを借りて事業を行う「フルVMNO」の2種類が出てくると予想されている。
ライトVMNOは現在のMVNOに似た形態になるが、フルVMNOの場合は複数キャリアの無線アクセスネットワーク(RAN)をまたいだり、ローカル5GやLoRa、Wi-Fiといったネットワークと5G網を活用した「ヘテロジニアスネットワーク」を構築することも可能になる。SIMひとつでドコモ網・au網・ソフトバンク網・楽天網の全てにアクセスできる契約や、自宅ではWi-FI、会社ではローカル5G、外では5G網と、異なるネットワークの中で最適なものに切り替えていくような契約もVMNOなら可能になるかもしれないというわけだ。
MVNO委員会は海外に向けてもこのVMNO構想を提唱する活動をしており、VMNO構想を実現するべく、広く賛同を得るよう、今後も提言を行っていくとのこと。速度以外にあまり具体的なメリットが見えてこない5Gだが、案外最もメリットがわかりやすくなるのは、MVNOなのかもしれない。