最後に、IIJの大内氏より、「5G NSAについて」と題して、3月からスタートしたMNOの5Gサービスについての解説が行われた。

  • かなりディープな技術解説でしばしば登場される大内氏。最近では2018年開催のIIJmio meeting #19でフルMVNOの技術解説を担当された

まず「5Gとは何か」という問題から。5Gでは「超高速」「IoT多数同時接続」「高信頼/低遅延」という3つの機能を実現することに目標を置いて開発が進められてきた。この3つの機能を1つのネットワークで実現するべく、5Gでは「スライス」という概念が取り入れられている。各スライスは目標となる機能を1つずつ受け持つ形となる。

  • 要するに「超高速で低遅延」ではなく、「速度最優先」のスライスと「高信頼性・低遅延」のスライスはそれぞれ別に実装される。目的ごとに3つのネットワークが共存するのが5Gということになる

5Gの全機能を実装したものを「5G SA」(SA:Stand Alone)と呼ぶが、仕様が策定されて、4Gを駆逐して5Gにすべてのネットワークが入れ替わるには大変長い時間がかかる。例えば4G LTEは導入からほぼ10年が経過したが、いまだに3Gは停波していない(NTTドコモでは2026年停波予定)。

そこで、まずは「超高速」に機能を絞り、4Gも利用することで5Gを早期に一部実現したのが、現在の5Gネットワーク「5G NSA」(NSA:Non-Stand Alone)だ。5G単独(Stand Alone)ではないのでNSA、というわけだ。現在日本で提供されている5Gはすべてこの5G NSAで提供されている。

  • 4Gを利用し、5Gの一部の機能だけをカバーしたものを「5G NSA」と呼んでいる

5Gでは4Gよりも、利用する周波数帯域を大幅に拡張している。LTEではFR1(Frequency Range 1)と呼ばれる、6GHz以下の帯域しか使わないが、5GではFR2とよばれる、24.25GHz~52.6GHz帯(いわゆるミリ波)も使用する。

さらに1つのチャネルが使用する周波数の幅(コンポーネントキャリア:CC)が、FR1では4Gの20MHz幅から100MHz幅へと5倍、FR2ではなんと20倍の400MHz幅に拡張されている。そして複数の周波数を束ねる「キャリアアグリゲーション」(CA)は最大16個、アンテナを大量に束ねて高速通信を行う「Massive MIMO」といった新技術も導入することで、4Gbps超という光回線並の高速通信が可能になる。

5G NSAでは4Gコアネットワークを使って5Gを利用するために「EN-DC」(E-UTRA NR Dual Connectivity)という方式を採用している。簡単に説明すると、基地局の報知は4Gの基地局が行い、データ通信は5Gの基地局が行うという方式だ。4Gの基地局は通常通りネットワークとの接続やSIMの認証といった接続手続きを行い、続いて隣にある5Gの基地局に接続できることが確認されたら、5G基地局に切り替えて高速通信を開始するという仕組みになる。

やや力技な感もある5G NSAの接続方式だが、これで問題になるのがアンテナピクト、すなわちスマホの電波表示のアイコンだ。5G NSAの端末は4Gと5Gの基地局に接続する場合、5パターンの状態があり得る。この仕様はキャリア内では統一されているようなのだが、SIMフリー端末では端末ごとに実装が異なる可能性があるため、注意が必要だ。

  • アンテナピクトは少なくとも5パターンの組み合わせに対応しなければならない

また、大内氏は4Gと5Gの周波数の組み合わせが非常に多岐にわたるため、やはりSIMフリー端末では対応しきれない製品が出てくるのではないかと危惧する。ある場所では接続できるが、別の場所では5Gが使えない、といった事態が発生する可能性が出てしまう。

  • 4Gと5Gの組み合わせ一覧。現在日本で発売中の端末でもサポートする周波数帯が限られていることを考えると、低コストな端末ではすべての組み合わせをサポートしないということも十分考えられる

そして最後にエリアの問題だ。LTEも開始当初はごく一部のエリアでしか展開していなかったが、5Gも現時点では極めて限定された場所でしか使えていない。しかもミリ波を使うようになると、ミリ波の特性上、障害物などに大変弱いため、主に屋内での配置がメインになる。

さらに、5Gで使われる周波数帯の中には、固定衛星通信や航空機電波高度計と干渉する帯域があり、これらの通信に干渉しないようにすると、都心部ではほとんど設置できず、郊外中心になってしまうという。

  • 赤い点が衛星通信の地上局、緑の点が5G基地局を置いても干渉しない場所の位置。都心部は空洞化してしまうのがよくわかる

こうした問題を解消するために、4Gで使用している帯域を5G向けに転用することも検討されているが、5Gの高速通信を実現するには広い帯域が必要で、4G用の電波を転用してもそれだけの帯域が確保できず、4G並みの性能しか出ない「なんちゃって5G」になってしまうという。エリアを取るか性能を取るか、悩ましい問題だ。

5G SAは、世界では今年中、日本でも2021年にはスタートする見込みだが、そうなれば高信頼/低遅延や同時に超多数の接続が可能になり、小消費電力な仕様の策定も進められるため、いよいよIoT機器が直接5Gで通信する世界が実現する。IIJも5Gを利用したMVNOサービスの開発を加速させていくとのことなので、前のセッションで触れられたVMNO構想と合わせて、IIJmioをはじめとするMVNO各社が5Gで実現するサービスの数々に期待したい。

初のオンライン開催となったIIJmio meeting #27だったが、これまでも同時中継自体は行われていただけあって、滞りなく終了した。残念ながら、次回開催の予定ははっきり決まっていないながらも、秋ごろに再びオンラインでの開催を予定しているとのこと。また、前述したように今回IIJのエンジニアによる公式ブログ「てくろぐ」で、各セッションの配信動画が公開されている(従来は非公開)。ぜひ一度ご覧になって、雰囲気を掴んでみてはいかがだろうか。