オフライン大会の舞台に立てたことが、大きな経験に

――これまでに出場された高校生大会について、先生の目線で振り返るといかがですか?

鈴木:これまで、城北つばさは「全国高校eスポーツ選手権」の第1回と第2回、それから「STAGE:0」に、どちらも『LoL』部門で出場しました。

大会が始まる前は、逆にこっちが緊張してしまうくらい、ピリッとした空気になっていましたね。試合に勝ったときはものすごく喜んで、仲間とハイタッチする姿もありました。普段ハイタッチなんて、まったくしなさそうなタイプの子たちなのですが(笑)。

試合に勝って喜んだり、負けて悔しがったり――、そこは運動部と一緒で、高校生にとってすごく大事な経験。生徒たちがやってきたことを発揮できる場があってよかったと感じます。

――実際に大会に出場した経験を振り返って、ラハトさんはどう感じていますか?

ラハト:僕はeスポーツ部に入る前から、ほかのタイトルのオンライン大会に出たことがあったんですが、「STAGE:0」の中部ブロック代表決定戦で、人生で初めてオフライン大会に出場しました。あのステージに立てたことが、すごくいい経験だったと思います。

オフラインの舞台に立つことで、自分が活躍できる高揚感を味わえたと言いますか。あの場で勝つことができなくとも、決して簡単には上がれないステージに立てたこと自体に、大きな価値があったと思っています。

――大会に出場したあと、周囲からの反応はどうでしたか?

鈴木:「全国高校eスポーツ選手権」はどちらも予選で敗退してしまったのですが、「STAGE:0」はオフライン大会まで進めました。中部ブロックで準優勝できたこともあり、反響は大きかったですね。

テレビの特集番組でも、ラハトをかなりフォーカスする内容で取り上げていただいて。ほかの学校からは「うちでもeスポーツ部を作りたいので、見学させてもらえますか」という連絡も多くいただきました。

ラハト:まわりの同級生は、どう反応していいかわからないという人が多かったです。まだeスポーツ自体が、高校生にあまり浸透していないので……。

例えば、陸上の大会で優勝したと言ったら「すごいね」となりますが、eスポーツの大会で優勝したと言っても、まだそのすごさがわかりづらい。ほかのスポーツと同じような反応をもらえるようになるのは、もう少し先かなと思います。

――ラハトさんはeスポーツ部の活動がきっかけで、エンターテインメントサービス企業のワンダープラネットへ就職が決まったと聞きました。どんな経緯だったか教えていただけますか?

ラハト:僕がオフライン大会に出たときの写真を学校のFacebookに投稿したら、たまたまそのワンダープラネットのかたが見つけて、学校に連絡をくださったんです。僕自身、もともとゲームに関連する仕事がしたいと思っていたので、ワンダープラネットへ就職することを決めました。2020年3月に城北つばさ高校を卒業するので、4月からはゲームのプランナーとして働きます。

それから、ワンダープラネットがスポンサーになっているプロサッカークラブ「名古屋グランパス」に、eスポーツアンバサダーとして所属することが決まっています。大会やイベントに出たり、所属しているプロ選手を支えたりしながら、eスポーツをもっと盛り上げていくための役割を担います。

親世代のゲームへの理解は、どうすれば得られる?

――eスポーツ部での活動に関して、親御さんからの反応は何かありましたか?

鈴木:保護者面談のときに何か言われるかなと思ったんですが、特にありませんでした。学校でスマホやゲームへの依存に関するアンケート調査を取ったときも、うちの部員はほかの生徒に比べて、依存度が低いという結果が出たんです。

生徒に聞くと、『LoL』は集中してプレイすると疲れるから、前よりダラダラと長い時間ゲームをやらなくなったそうです。当初は少し心配していたのですが、むしろゲームに対してメリハリをつけられるようになったようで、そこは安心しました。

――もしゲームに対してネガティブな印象を持つ親御さんがいた場合、どのように理解してもらうのがいいと考えますか?

鈴木:言葉で説明するのは難しいでしょうね。どうしてもゲームの説明になってしまうので、やっぱり現場を見てもらうことが一番かなと。生徒たちがいかに集中して、頭を使って難しいことをやっているのかを、生で見ていただくのが最も伝わりやすいと考えています。

実際に城北つばさでは、体験入学でeスポーツ部を見学できる機会を作ったのですが、そのときは中学生とその保護者で50人くらいのかたが来てくださいました。そういう場を設けて、まずは実際に見ていただくことが、学校としてできることだと思います。

――ラハトさん自身は、ご両親からどのような反応がありましたか?

ラハト:就職に関してはすごく喜んでくれていますけど、ゲームに関してはあまりよくわかっていないと思います。僕が高校に入ってアルバイトをするようになってから、否定的な言葉はなくなりましたが、ゲームの活動を理解しているわけではないかなと。

家族は、僕を含めて全員がバングラデシュ出身。日本に来たのは10年前です。両親は向こうの言葉を使っていますし、バングラデシュではまだeスポーツがあまり浸透していないので、eスポーツがどういうものか言葉で伝えるのは難しいですね。

――大きなオフライン大会に出場したり、賞金を獲得したりして、やっと両親にゲームでの活動を認めてもらえたという話をよく聞きます。実績を作ることが、理解につながる面もあると思いますか?

ラハト:自分も親から「ゲームをして何が生まれるの」と言われたことがあります。親世代からすると、そういう感覚なんだろうなって。だから、賞金を獲得して認めてもらえた人は、ゲームでお金を得たことを示したから、理解されたんだと思うんですよね。チームメイトでも、最初から親に理解されながら活動していたメンバーは1人もいません。オフライン大会まで行って、ようやく認めてもらえたメンバーもいました。

でも、僕らが「STAGE:0」でオフライン大会まで行けたのは、奇跡的というか、実力も運もあっての結果。そこまで行ける人は、限りなく少ないんです。

例えば、プロサッカー選手の1日の練習時間は4時間くらいと言われていますが、プロゲーマーの練習時間は8~10時間くらい。プロまではいかなくとも、大会で結果を出すためには、かなりの練習時間が必要です。

学校が終わったあとに、勉強やアルバイトをしながら、ゲームの練習時間を確保するのは、かなり大変なこと。だから、親に理解してもらえるような実績を作ること自体のハードルが高くて、難しい問題だと思います。

eスポーツ部、そしてラハトさん自身の今後の目標

――今後eスポーツ部として目指したいこと、もしくは学校でeスポーツを使った取り組みとしてチャレンジしてみたいことがあれば教えてください。

鈴木:eスポーツ部としては、東京のオフライン大会に出るのが目標ですね。中部地区のオフライン大会は名古屋で開催されるので、あまり外に出た感じがしなくて(笑)。

それから、学校でeスポーツを使った取り組みとしては、いつか体育祭の種目の1つをeスポーツにできたらいいなと。クラスで100メートル走やリレーなど、いろいろな種目に出る子がいるなかで、ゲームが得意な子がeスポーツで活躍できたらおもしろいんじゃないかなと思っています。

――eスポーツ部に興味を持たれている先生や、eスポーツ部を立ち上げたい高校生に伝えたいことがあればお願いします。

鈴木:城北つばさ高校で、eスポーツ部が生徒たちの居場所になったことは間違いありません。学校によっては、さまざまなハードルがあると思いますが、eスポーツ部のある高校が増えれば、お互い切磋琢磨して盛り上げていけると思うので、ぜひ検討してくださればと思います。

高校生に向けては、これはラハト達にも言ったことなんですけど、「最初に何かをやる」のは、一歩踏み出すのが大変で、勇気も必要です。でも、1から何かを成し遂げた経験は、今後の人生で大きく活きると思うので、諦めずにチャレンジしてほしいですね。

――それでは最後に、ラハトさんが今後の活動で目指したいことを教えてください。

ラハト:いまは「ワンダープラネット」と「名古屋グランパス」のかたをはじめ、いろいろな人にサポートしてもらいながら、eスポーツに携わる活動をしています。今後もそうした活動を通じて、「eスポーツって楽しいんだよ」ということを広く伝えていきたい。もっと多くの人にeスポーツを楽しんでいただけるように、シーンを盛り上げられる人になることが、僕の目標です。

――鈴木先生、ラハトさん、本日はありがとうございました!