◆消費電力(グラフ76~83)

  • グラフ76

  • グラフ77

  • グラフ78

  • グラフ79

  • グラフ80

  • グラフ81

最後に消費電力である。今回はアプリケーションベンチとして、IntelBurnTestのものも追加してみた。まずグラフ76がSandra 20/20のArithmetic Benchmark、グラフ77がCineBench R20のMP、グラフ78がTMPGEnc Mastering Worksで4streamエンコードの最初の150秒間、グラフ79が3DMark Firestrike Demo、グラフ80がFarCry New Downの2K、そしてIntelBurnTestのStandard(1GB)を1回だけ行った結果がグラフ81である(これのみ、Ryzen 9は測定していない)。

  • グラフ82

  • グラフ83

ここから消費電力の平均値を取ったのがグラフ82、待機時との差を算出したのがグラフ83となる。

こうしてみると、消費電力の絶対値そのもので言えばやはり圧倒的にThreadripperが大きく、Core i9-10980XEは多いもの(例えばCineBench)もあれば少ないもの(例えばTMPGEnc)もあるという、ちょっと不思議な構図である。

  • グラフ84

ただ、例えばDhrystone/Whetstoneの性能/消費電力比を求めるとグラフ84の様になる。12nmのRyzen Threadripper 2990WXがDhrystoneでは一番効率が悪いが、WhetstoneではCore i9-10980XEが更に下回る、というのはAVX512をフルに使っていないから(AVX2どまり)という話はあるにしても、やはりCore i9-10980XEの動作周波数が高めに設定されており、性能効率という観点ではややバランスが悪くなっているからだろう。

あるいはTMPGEnc Mastering Works 7の消費電力とエンコード性能から効率を算出すると表2の様になる。ここでは1fpsの処理に要する電力なので、数字が少ないほど良い。一番いいのがRyzen 9 3950X、次いでRyzen Threadripper 3970X、その次がCore i9-10980XEである。勿論猛烈に効率の悪いRyzen Threadripper 2990WXに比べればどれもずっとマシ、という見方もあるのだが。

■表2
実効消費電力差(W) 処理フレームレート(fps) 効率(W/fps)
Ryzen 9 3900X 158.6 16.1 9.9
Ryzen 9 3950X 158.7 21.1 7.5
Ryzen Threadripper 2990WX 218.5 10.2 21.4
Ryzen Threadripper 3960X 322.6 32.9 9.8
Ryzen Threadripper 3970X 334.6 39.0 8.6
Core i9-10980XE 163.2 17.8 9.2

これはCineBenchも同じである。グラフ77で判る様に、製品毎に処理時間が大幅に違うから、単純に平均消費電力差を比較してもあまり意味が無い。そこで平均消費電力差と消費時間、その積である電力量をまとめたのが表3になる。これが小さいほど、効率よく1枚のレンダリングが可能になるという訳だが、最も効率が良いのがRyzen 9 3950X、次いでRyzen Threadripper 3970Xが続き、Ryzen Threadripper 3960X、Ryzen 9 3900X、Ryzen Threadripper 2990WXと来て、一番消費電力が多いのがCore i9-10980Xとなる。

■表3
実効消費電力差(W) 経過時間(秒) 電力量(W・秒)
Ryzen 9 3900X 157.5 40 6300.0
Ryzen 9 3950X 150.5 30 4515.0
Ryzen Threadripper 2990WX 319.0 22 7018.0
Ryzen Threadripper 3960X 316.9 19 6021.1
Ryzen Threadripper 3970X 326.0 15 4890.0
Core i9-10980XE 260.1 31 8063.1

処理時間がテストによって大きく違うのはグラフ81のIntelBurnTestも同じである。そこで演算性能と実効消費電力差、所要時間から電力量とその効率(1GGLOPSあたりの電力量)をまとめたのが表4である。Ryzen Threadripper 3970Xは48W・秒/GFLOPSと一番効率が良く、Core i9-10980XEと比べても4割ほど高効率である。一番効率が悪いのはRyzen Threadripper 2990WXで、Ryzen Threadripper 3970X比で3.5倍も効率が低い。逆にゲーム系(FireStrike Demo、Far Cry New Dawn)ではCore i9-10980XEが相対的に効率が良い(というか、省電力)であるが、こちらはRyzen 9と比べると性能の消費電力の両面で概ね同程度であり、決定的なアドバンテージとはならない感じだ。

■表4
演算性能
(GFLOPS)
実効消費電力差
(W)
経過時間
(秒)
電力量
(W・秒)
効率
(W・秒/GFLOPS)
Ryzen Threadripper 2990WX 124.31 293.3 71 20824.3 167.5
Ryzen Threadripper 3960X 203.88 251.6 48 12076.8 59.2
Ryzen Threadripper 3970X 242.72 265.0 44 11660.0 48.0
Core i9-10980XE 178.60 200.6 59 11835.4 66.3

◆考察

冒頭にも書いたが、Core-Xの下位モデルも出来れば試してみたかったところだがちょっと叶わなかった。価格性能比で考えると、Core i9-10980Xはやや割高であり、もう少し下のCore i9-10940Xあたりが国内だとぎりぎり10万を切るかかくで販売されており、このあたりが現実的な線かな、とは思っていたのだが。

それはともかくとして相ざらえさせて頂いた結果で言えば、

  • ビジネスでRyzen Threadripper 2990WXを利用しているユーザーは、環境的に許されるなら速やかにRyzen Threadripper 3970X/3990Xにアップグレードすべきである。コストパフォーマンス(単に初期コストのみならず、運用コストも含めての話)が格段に良くなっており、利用頻度にもよるが元を取るのにそう時間は掛からないだろう。それほどのインパクトがある。
  • ワークステーション向けのUsageで言えば、確かにCore i9-10980XEも健闘はしているが、Ryzen Threadripper 3960X/3970Xに競合するのはかなり厳しい。
  • ゲーミング向けで言えば、Ryzen Threadripper 3960X/3970Xは殆どの場合に「普通に使える」。ただ性能面でのアドバンテージは(エンコードとかレンダリングを除くと)ほぼ無い状況で、Ryzen 9 3900X/3950Xで十分である。

というあたりであろうか。この後、Deep Dive内部解析(Cascade LakeのRMMAでの解析、それとCascade Lake/ThreadripperのcIoDのLatency周りの解析が主体となる)をお届けする予定だが、こちらは余禄というかおまけであって、製品としての評価は今回でほぼ固まったと思う。

2020年もIntelは色々大変そうだ。というのは、Ryzen Threadripper 3990Xが2月発売となり、しかも$3990という爆裂価格での提供だからで、Intelは短期的にこれに対抗できる弾を持ち合わせていない。次のCore-XがCooper LakeになるのかIce Lake-SPになるのか現時点では不明だが、とりあえずコア数で競合するためにはCooper Lakeでは厳しいところ。その意味ではIce Lake-SPの公算がちょっとだけ高まった感じではあるが、IPCこそ改善されているものの動作周波数が上がりにくそうなIce Lake-SPでどこまで対抗できるか、ちょっと心配である。

コンシューマ向けも、Comet Lakeで現在のRyzen 9 3900Xとか3950Xに対抗するのは厳しい様に思える。現実問題としては、Ryzen 7 3800Xあたりに対抗、というシナリオを取ってくるかもしれない。それもそれでまた悲しい話ではあるのだが。