今のGoogleはもう1つ、同社の企業倫理を巡る社員との対立という問題も抱えています。

きっかけはAndroid事業を率いていたAndy Rubin氏がセクハラを理由に退社した際に、莫大な退職金を受け取っていたという2018年の報道でした。それを知ったGoogle社員が反発の声を上げ、数万人規模のウォークアウトが実施される騒ぎになりました。過去のセクハラ問題について公表するなど、Googleが対応に努めたことで一度は収束に向かいました。ところが、ウォークアウトを主導していた社員や人権保護を主張してきた社員に会社が圧力をかけていた疑いが明らかになって対立が再燃、泥沼化しています。

これは表面化している騒動よりも根深い問題です。「邪悪になるな (Don't be evil)」という非公式モットーを掲げた創業間もないGoogleは誰からも好かれる新進気鋭のシリコンバレー企業でした。そのイメージのままのオープンな企業文化、社員の自立性を尊重した組織で、世界中から優秀な人材を集め、それを成長の原動力にしてきました。しかし、今やAlphabet (Googleの持ち株会社)の社員数は11万人を超え、Googleは強大な影響力を持つ企業として大きな社会責任を負うようになり、スタートアップ企業とは異なる管理、経営のアプローチを必要としています。

社員とGoogleの対立には、「邪悪になるな」の頃のままの企業文化を求める社員と、開かれた企業を重んじながらも2018年に「邪悪になるな」の看板を下ろした今のGoogleの企業文化を巡る対立という側面があります。人権、AIの軍事利用、検閲制度のある中国での事業展開など、様々な衝突に広がっています。

このままGoogleは企業として大人になっていくべきなのか、それともかつてのGoogleらしさを取り戻すべきなのか。答えは明らかです。

2019年12月、Googleの創業者デュオであるLarry Page氏とSergey Brin氏が揃って経営の一線から退きました。Alphabetの役職を返上し、今後は取締役としてのみ関与します。「A letter from Larry and Sergey」というメッセージの中で2人は次のように退任を説明しています。

「今日は2019年だ。会社が人間だったら21歳のヤングアダルトであり、巣立ちの時だ」

Google創業者らしい表現ですね。でも、このメッセージは同時にそんな遊び心を持ったGoogleの巣立ちを意味します。

  • 2006年にCESでGoogleが基調講演を行った際のLarry Page氏、白衣という"らしい"格好で講演

2人の退任はGoogleの次のステップとして評価されています。2015年にAlphabetを持ち株会社とする体制に移し、Page氏がCEOに、Brin氏が社長に就任してから、2人はそれぞれが関心を持つ領域に活動を絞り込み、傘下企業の経営からは距離を置いていました。それでもAlphabetのトップであり続ければ、Googleを含む傘下企業の舵取りを期待されます。何もせずとも進んでいく追い風の時ならともかく、逆風に直面している今は実際に舵を握る人に任せるべきです。だから、伝説的な創業者の引退宣言にも関わらず、退任発表がAlphabet株に影響することはありませんでした。

  • 12月3日、創業者の突然の退任発表でもAlphabet株はまったく動揺せず、6月から続く上昇を継続

昨年秋のAndroidのメジャーアップデートからGoogleは、スイーツの名前を付けるのを止めて、シンプルに「Android 10」としました。CupcakeやMarshmallowといったお菓子の名前は遊び心に溢れているけど、どれが新しいバージョンなのか名前から判断しにくくて非効率です。遊び心がGoogleから薄れていくのは惜しい気もしますが、そんな細かいところにまでGoogleのヤングアダルトから「大人の企業」への成長が浸透しています。企業倫理を巡る社員との対立についても、しばらく時間がかかると思いますが、今のGoogleの企業文化の確立・浸透で解決していくことになるでしょう。