東工大の小型トカマク装置「PHiX」

フランスではITER、国内では那珂核融合研究所JT-60SAと、大型のトカマク装置が建設中だ。トカマク型の容器内はがらんどうとしており、そこでトカマク放電が起きるのは分かるが、実際に見たいと、原始的な興味本位で東京工業大学 科学技術研究創成院 先導原子力研究所 飯尾・筒井研究室を訪ねてみた。

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    同研究室にある小型トカマク装置「PHiX」

小型トカマク装置「PHiX」は、Plasma with Helical Initiative eXperimentsの略称で、磁場閉じ込め方式による核融合基礎研究のために制作された。トカマク型の課題として、プラズマが上下に動きやすく、飯尾・筒井研究室ではPHiXを使用して核融合プラズマの縦長断面と垂直位置安定の両立を実証を研究目的としている。ファーストプラズマは2014年。

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    PHiX外観。トロイダル磁場コイルとポロイダル磁場コイルを確認できる

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    トロイダル磁場コイルは16基

設計パラメータはプラズマ電流<5.0kA、トロイダル磁場<0.3T、プラズマ大半径33cm、プラズマ小半径9cm、楕円度<1.8、放電時間20ms。電子密度計測には小型マイクロ波干渉計を用いている。トロイダル磁場コイルはメーカーに製作を依頼し、ポロイダル磁場コイルは学生による手巻き。巻き方で結果に大きな差が生じるため、巻き直しがあったそうだ。また都度、電源の改修を行なうなどして性能を向上させつづけている。

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    飯尾俊二教授とPHiX。小型は小型だが、けっこうデカい

放電に伴う磁場の影響を身をもって体験

外観で特徴的な部分として、観測用の縦長の窓があり、ここに高速度カメラを設置し、プラズマの形状と位置を観測する。撮影にあたり、何度も放電を行なっていただいたが、ショットごとにプラズマは上下していた。またこの縦長窓は、容器内からマイクロ波を出すための目的もあり、マイクロ波干渉計を使用して、大半径方向の電子密度を計測する仕組み。また多チャンネル仕様でもあり、受信機の増設が予定されている。

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    大きな窓が目立つ

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    容器内。中央に見える導波管からマイクロ波を出す

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  • ショットごとに位置が変動していた。また見た感じはこれくらいでもあった

YouTubeには高速度カメラの動画がアップロードされており、プラズマのうねうねが分かる

縦長窓による影響もあるが、ノイズ対策はあまりしておらず、東工大にある機器でもっともノイズを出す装置かもしれないそうだ。それもありカメラは、トカマク放電が起きると頻繁にエラー落ちをした。応急処置をしてもあまり効果はナシ。ソニー・イメージングプロサポートの調査によると、磁場エラーによるもので、本体のログにその記録があったそうだ。なお、磁場ピーク時にほどよくシャッターモジュールが動作していると、エラーを無視して撮影を続行することを現地で発見し、強引に撮影した結果が今回の掲載データになる。

さらなる進化に向けて改良が進行中

取材時には、簡易ヘリカルコイルを追加する準備が行われていた。平均磁場を生成することで、プラズマ着火時の幅広電流分布生成とプラズマ電流が突然切れる現象(ディスラピション)が起きた際の放電停止回避に役立つものとのこと。これにより、冒頭でも触れた縦長断面と垂直位置安定の両立を目指す。

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    写真のような配置で、簡易ヘリカルコイルがPHiXに追加される。また真空容器内に増設ではなく、現状のPHiXの外殻に追加するだけだそうだ

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    コイルを巻いている様子。ちょっとたのしそうな雰囲気だった