「インクがすぐなくなる」「インクカートリッジが高い」といったネガティブなイメージを持つ人が多いインクジェット複合機。その欠点を払拭すべく登場したのが、セイコーエプソンの大容量インクタンクモデル「エコタンク搭載モデル」です。今年は、税込み2万円台で購入できる意欲的な低価格の新製品「EP-M552T」を投入したのがトピックで、インクカートリッジ式モデルからの移行を狙おうとしています。機能や使い勝手、印刷品質など、価格以外も満足できるのかチェックしてみました。

  • 実売2万円台で買えるコンパクトなエコタンク搭載プリンター「EP-M552T」。「金食い虫のインクジェットプリンターはもうこりごり」と手放した人も、再び入手する価値があるモデルに仕上がっているか

スキャナーに特徴あり

エコタンク搭載モデルの最新機種は、カラリオの売れ筋モデルに迫る装備を持つ上位モデル「EW-M752T」(実売価格は税込み3万9000円+ポイント10%)と、装備を簡略化した低価格モデル「EP-M552T」(実売価格は税込み2万9000円+ポイント10%)の2機種。今回は、税込み2万円台で購入できるEP-M552Tをレビューしてみます。

  • フラットベッドスキャナーやタッチパネル液晶を搭載するオーソドックスな作りの上位モデル「EW-M752T」(左)と、一部の装備を簡略化したEP-M552T(右)。EW-M752Tは本体が少し大柄で、価格もお高め

角が丸く落とされたEP-M552Tの外装はどことなく「無印良品」を連想させる仕上げで、シンプルながら安っぽさは感じません(プリンターを持つと意外なほどの軽さに驚かされますが)。液晶パネルは1.44型とちっぽけですが、コピーやデジカメプリントなどの操作は専用のスマホアプリでできるため、さほど不満は感じません。スマホを使わず、液晶パネルや操作ボタンでコピーなどの作業をする際も、意外とキビキビ作業できました。

  • シンプルなデザインのEP-M552T。本体の高さは約16cmに抑えられているが、用紙をシートフィーダーに給紙する関係で上方にもっとスペースが必要となる

  • 角度調整機能を備える表示&操作パネル。液晶パネルは1.44型と小さいが、それほど不満なく使える。各ボタンはタッチセンサー式ではなく、明確なクリック感のあるボタンとなっている

EP-M552Tで特徴的なのがスキャナー。コピー機のようなガラスが張られたフラットベッドスキャナーではなく、書類を1枚ずつ通して読み込むシートフィーダー式のスキャナーを採用しています。

  • 後方のカバーを開けるとシートフィーダー式のスキャナー(手前)と給紙トレイ(後方)が顔を出す

  • スキャンやコピーの際は、用紙を手前から給紙する。複数枚の場合、スキャンが終わり次第、手で次の用紙をセットする必要がある

本などの冊子はこのスキャナーに通せないため、専用アプリを使ってスマホカメラで撮影→四角く補正→色補正をしてスキャンやコピーをする仕組みになります。A3判など大きなサイズの用紙も読み込めるメリットはありますが、通常のフラットベッドスキャナーよりも解像感は劣るうえ、照明の影響で白飛びすることもあり、コピーのクオリティはいまひとつ。問題集や教材などの冊子をコピーする機会が多い人は、フラットベッドスキャナーを搭載するEW-M752Tのほうがよさそうです。

  • 冊子や大きな紙のコピーやスキャンは、スマホアプリの機能を利用する

  • 机の上などに置いた冊子を撮影し、四隅を指定すればよい

  • スキャンした画像。文字は判別できるが、写真の再現性はいまひとつ。文字の裏写りも気になる

EP-M552Tでもう1つ気になったのが、用紙の給紙方法です。本体の底面には給紙カセットがなく、用紙はすべて背面のオートシートフィーダーにセットします。しょっちゅうプリンターを使う人ならば問題ありませんが、あまりプリントしない人は用紙にホコリが付着してしまうので、プリントするごとに必要な分だけ用紙をセットするのがよいでしょう。用紙が上部に出っ張ることから、棚などでは上方にスペースを確保しなければならないのも留意点といえます。

  • 給紙トレイは最大100枚の用紙がセットできる。用紙が斜めになるので、上方にある程度のスペースを確保する必要がある

デジカメプリントは満足の品質、印刷コストは以前より上昇

スキャナーや給紙はいくらかの制約が見受けられたEP-M552Tですが、肝心のプリントは上々の印象でした。

デジカメプリントは、染料ブラックインクを含む4色の染料インクでプリントします。ライトシアンやライトマゼンタなどのライトインクを含む6色インクを使うカラリオと比べれば階調の表現力はいくぶん劣るものの、染料ブラックインクを搭載していることから、十分な精細感やコントラストを持つ不満のないクオリティだと感じました。普通紙への文書プリントは、顔料ブラックインクがないために若干文字のにじみが感じられるものの、一般家庭で使うには問題ないレベルです。

  • デジカメプリントは、専用アプリを使えば簡単にできる。しいていえば、Googleフォトにアップロードした写真に直接アクセスできる機能が欲しいところ

  • アプリの使い勝手はおおむね良好。色補正機能できれいに仕上がる

  • 写真用紙へのプリントは精細感やコントラストがあり、クオリティは不満がない。印刷速度はまずまずといった印象

プリントの際に気になったのが、前面のカバーを開けて、さらに排紙トレイを手作業で手前に引き出す必要があること。いつまで経っても印刷が始まらず、液晶パネルに表示されたアラートでトレイを引き出していなかったことに気づく…ということがありました。慣れないうちは手間に感じるかもしれません。

  • この排紙トレイを引き出さないと印刷が始まらない。液晶にアラートは表示されるが、警告音が鳴るわけではないので、初めのうちは気づかず放置してしまいがち

印刷コストは、L判のデジカメプリント時はカラリオが約20.6円なのに対してEP-M552Tは約8.4円と、半額未満で済みます。カラーのA4文書印刷も1枚約2.7円にとどまるので、50枚印刷しても印刷コストは100円ちょっと。A4カラー文書印刷が1枚1円前後で済んだ従来のエコタンク搭載モデル(EW-M630T)よりは高いのが残念ですが、Webサイトでダウンロードできる学習用教材もインク代を気にせずプリントできるでしょう。

ちなみに、最新エコタンク複合機の2機種のみ、新たに登場したスクエアタイプの写真用紙に対応しています。この用紙はなぜかカラリオには対応していないので、ましかくプリントを安く楽しみたい人は注目です。

  • 1:1のスクエア写真がプリントできる「写真用紙」のスクエアタイプ(127×127mm、20枚入りの実売価格は税込み440円)。対応機種は、いまのところEP-M552TとEW-M752Tの2機種のみで、カラリオシリーズには対応しないのが興味深い

キャッシュバック適用中に買うべし

最新のインクジェット複合機として見ると、EP-M552Tの満足度は「70点」といった印象で、主役をカラリオから奪うまでには至っていないと感じます。プリントの品質は全般に良好なうえ印刷コストもそこそこ安く、スマホアプリの使い勝手も良好ですが、制約のあるスキャナーの構造から考えると、複合機というよりは「シートフィーダー型スキャナーが付いたプリンター」と考えておいたほうがよさそうです。

手放しで「誰にでもオススメ!」と薦められる製品ではないのは確かですが、プリンターの本体の価格をジックリ吟味すると心がグラグラ動かされます。

量販店での実売価格は税込み2万9000円前後(+ポイント10%)で、ポイントを考慮すれば実質2万6000円前後で手に入ります。補充用インクが安いエコタンク搭載モデルとしてはこれでも画期的な価格なのですが、2020年1月6日まで実施しているキャッシュバックキャンペーンの存在を見逃してはいけません。

キャンペーンでは、税込み2400円前後(+ポイント10%)の交換インク4色パック「TAK-4CL」をEP-M552Tと一緒に購入すると、なんと8000円ものキャッシュバックが受けられます。これを考慮すると、プリンター本体は実質2万1000円前後の計算になり、圧倒的に値ごろ感が増します。これまでのエコタンク搭載モデルは、交換インクで利益を得ることが難しかったため、プリンターの価格は高めに設定されていました。それを考えると、EP-M552Tは新製品にもかかわらず大盤振る舞いなのです。

スマホで撮ったお気に入りの写真をプリントしたり、インターネットで公開されている無料の学習教材をどんどんプリントするなど、基本的にスキャナーを使わない活用をする人ならばコスパの高い製品といえるでしょう。