「インクがすぐなくなる」「インク代が高い」といった不満からユーザー離れが進んでいるインクジェット複合機。その状況を食い止めるべく、セイコーエプソンは「印刷コストは従来の1/10以下」「インクをドボドボ注いで補充できる」という超低コスト印刷プリンター「エコタンク搭載モデル」に軸足を移しつつあります。一般家庭をターゲットにしたこの秋の新製品は、インクジェットプリンターをいったんは見限った人を再び振り向かせることができるのでしょうか。


文書の印刷や書類のコピー、デジカメプリントが自宅で手軽にできる便利なインクジェット複合機ですが、「インクがすぐなくなる」「インク代が高い」という既存モデルに対する不満が逆風となり、市場は縮小傾向が続いています。「インクカートリッジを新品に交換したらヘッドのクリーニングが始まり、何もプリントしていないのに高いインクが半分近くなくなった」という苦い経験をし、「金食い虫のプリンターはもういらない」と手放した人もいるのでは?

  • インクジェットプリンターは「インクがすぐなくなるのに高い」というネガティブな印象を持つ人が多い

そうした状況を受け、大容量のインクタンクを搭載して「インクがすぐなくなる」「インク代が高い」という不満を払拭した新機軸のインクジェットプリンターが各社から続々と登場しています。これまでは、業務で大量にプリントするSOHOやビジネス寄りの製品となっていたものの、この分野で先行するセイコーエプソンが家庭をメインターゲットにした新製品を投入し、業界の注目を集めています。

  • 大容量インクタンクを搭載したキヤノンの複合機「G3310」(実売価格は税込み30,000円前後)

  • 大容量インクタンク「ファーストタンク」を搭載したブラザー工業の複合機「プリビオ DCP-J988N」(実売価格は税込み33,000円前後)

プリンターの価格はチョイ高、インクは格安

セイコーエプソンが10月に投入したのは、エコタンク搭載モデルの最新インクジェット複合機「EW-M630T」(実売価格は税込み40,000円前後)。インクがちょっとしか入っていないのに高価なインクカートリッジをやめ、本体に大型のインクタンクを備えたのが特徴です。

  • 大容量インクタンク「エコタンク」を搭載したセイコーエプソンの複合機「EW-M630T」。凹凸が少ないスッキリとしたデザインに仕上がっている。写真はホワイトモデルの「EW-M630TW」で、ブラックモデル「EW-M630TB」もラインアップする

インクは専用のインクボトルからドボドボと補充する仕組みで、付属のインクボトルでおおむね1年間はインクの追加なく使えます。別売のインクボトルも、大容量のモノクロインクが税込み2,000円前後、通常容量のカラーインクが税込み1,100円前後と格安です。

  • 交換用インクはカートリッジ式ではなく、インクがなみなみと入ったボトルで供給される

  • 本体右にあるインクタンクのカバーを開けるとインクの注ぎ口が顔を出す

  • インクボトルを逆さにしてドボドボと注ぐだけで補充できる。手がインクで汚れることもない

  • インクボトルの先端は色ごとに異なる形状となっており、ほかの色の注ぎ口には入らないようになっている

  • インクの残量は前面から確認できる。インクがどれぐらい残っているのかが見えるのは、精神衛生上とても好ましいと感じる

インクが大容量なうえに格安なので、A4カラー文書の印刷コストは従来タイプの1/10以下となる1枚1円未満で済むのが特徴です。10枚プリントしてもインク代は10円程度、100枚プリントしても100円もかからないため、ガンガン印刷しても懐はほとんど痛みません。

実際にEW-M630Tを使って感じたのが、「インク代を気にせず気兼ねなくプリントできることが、こんなに便利だったのか!」ということ。目的地までの地図をパソコンやスマホからプリントしたり、インターネットでしか提供されていないPDF形式の説明書をプリントアウトしたりと、「スマホやパソコンでも見られるから」とガマンしていたものをサッとプリントアウトして手元に置いておけるのはやはり便利でした。

特に、インターネットで公開されている無料の学習コンテンツをカラーでプリントしたり、子どもに繰り返し学習させたい教材をコピーして渡したりと、子どものいる家庭ではいっそう便利に活躍してくれるはずです。

  • 幼児や小学生向けの学習プリントが無料でダウンロードできる「ぷりんときっず」。EW-M630Tがあれば、プリントを心置きなくガンガン印刷できる

  • スマホアプリ「EPSON Creative Print」を使えば、このような美しいデザインペーパーやメッセージカード、便せんなどが簡単にプリントできる。利用は無料で、お店で買うよりも断然おトク

インク代を気にするあまり、「これは本当に必要だから」というものだけを厳選してプリントした従来型インクジェットプリンターが、とても窮屈な存在に感じてくるほどです。

デザインすっきり、家庭で求められる装備は漏らさず網羅

このような「印刷コストが格安」「1年分のインクをドボドボ補充できる」という特徴は、従来のエコタンク搭載プリンターでも健在でした。ただ、従来モデルは「本体サイズが大きい」「黒いカラーが事務機的で野暮ったい」といった欠点があり、お世辞にも一般家庭に向くとはいえませんでした。

  • エコタンク搭載プリンターの従来モデル。既存モデルに大容量インクタンクを強引にくっつけた構造で、大きいうえにデザインも無骨。家庭ではニーズの低いADF(自動用紙送り装置)があるのに液晶はカラーではなくモノクロと、装備は家庭向きではなかった

EW-M630Tは、一般家庭のユーザーが求める機能や装備を過不足なく盛り込んだバランスのよさと、デザインやカラーを家庭向きにブラッシュアップした点、設置面積を抑えた点が注目すべきポイントといえます。

装備は、一般家庭では利用頻度の低いADF(自動用紙送り装置)を省いてスキャナー部を薄く仕上げる一方で、年賀状や文書印刷で便利な自動両面印刷機能をしっかり搭載。さらに、用紙は底面カセットに給紙できるようにし、ホコリの付着を防ぐとともに見た目をスッキリさせました。

  • プリンターの利用頻度がそれほど高くない家庭にとって、ホコリが付着しづらい底面カセット給紙は重要な要素といえる

  • 自動両面印刷機能も標準で搭載しているので、対応ソフトならば年賀状印刷もラクチン

  • 中央にカラー液晶を搭載しており、操作性は一般的な複合機と変わらない。もちろんWi-Fiも搭載する

デザインに関しては、この秋の新製品でホワイトモデルを追加した点が評価できます。これまで、エコタンク搭載モデルは事務機的な印象を与える無塗装のブラックモデルしかなく、家庭に置くのははばかられました。しかし、ホワイトモデルが追加され、白基調のリビングにも違和感なく置けるようになりました。カラリオの売れ筋モデルのような高級感こそありませんが、デザインは満足できる水準になったといえます。

  • EW-M630Tのホワイトモデルは一般家庭のリビングにもなじみ、部屋全体の雰囲気を壊さない

今回晴れて追加されたホワイトモデルは、病院やクリニックなどから「清潔感のあるホワイトのカラーが欲しい」といった要望がエプソン販売に寄せられ、エプソン販売の担当者がメーカーであるセイコーエプソンに掛け合ったことで実現したそうです。