キヤノンは11月19日、橋梁やトンネルなどの社会インフラ構造物の近接目視による点検作業の代替手段として、カメラで撮影した画像とAIを組み合わせた画像ベースインフラ構造物点検サービス「インスペクション EYE forインフラ」を2019年12月下旬より提供開始すると発表した。

コンクリートの寿命は50年といわれているが、現在、日本の橋梁やトンネルの多くが、この50年という節目を迎えつつあり、急速に老朽化が進む状況となっている。管轄する国土交通省(国交省)は、事故を未然に防ぐことを目的とし、人間の眼による近接目視を用いた定期点検を行うことを定めているが、時間と労力がかかるほか、トンネルや橋梁の場所によっては足場を組むなどの負担が必要となり、そうした現場作業の簡素化などが求められていた。

国交省もそうした問題は把握しており、2019年2月に橋梁とトンネルの点検要領を改訂、高精細画像を点検に活用できるようにするなど、点検作業の方法を改める動きを見せている。こうした動きを受けてキヤノンも、自社のカメラ・レンズ群を活用した撮影ノウハウや画像処理技術などを活用することで、こうした課題解決の一助となるのではないか、という判断から、市場参入を決定。AI技術を活用した変状検知技術と組み合わせたサービス「インスペクション EYE forインフラ」を開発したという。

同サービスの最大の特長は、「撮影サービス」「画像処理サービス」「変状検知サービス」そして「報告書作成サービス」の4つのサービスをユーザー側が選択して利用することができるというもの。

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    「インスペクション EYE forインフラ」のサービスイメージ。撮影、画像処理、変状検知という実作業が伴うサービスのほか、報告書まで作成するサービスも用意されている (資料提供:キヤノン)

1つ目の撮影サービスは文字通り、同社の高画素一眼レフカメラを用いて撮影を行うというもの。場合によっては、ドローンや自動撮影雲台などを活用することで、高所や広域の点検対象に対する静止画撮影を可能とする。

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    自動撮影雲台と一眼レフカメラを用いた広域撮影のイメージ (画像提供:キヤノン)

2つ目となる画像処理サービスは、なんらかのカメラ(キヤノン以外も含む)で撮影された画像に対し、同社の画像処理ノウハウを活用して、画像の補正や、複数方向から撮影した画像を1枚の巨大な画像に合成するなどの処理を行うというもの。そして3つ目の変状検知サービスは、キヤノンとパートナーである東設土木コンサルタント(同社は画像処理サービスや撮影サービスについてもサポートを担当)が共同研究によって開発した変状検知AIを活用して、点検対象物の画像から、ひび割れなどの検知を行うというもの。

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    遮蔽物を除去した状態の画像合成なども画像処理サービスでは提供する (画像提供:キヤノン)

国交省の技術公募で行った実証実験では、ひび割れ検知率99%を達成したほか、自社研究では汚れた壁面などでも0.05mmのひび割れを検知することも可能であることなども確認されたとする。また、人の手で画像からひび割れを探す場合と比べても、500本以上のひび割れがある10m×10mの壁の場合、人間では720分かかった作業を、AIが判断して、それを人間が最終確認するという作業とした場合、90分で完了できることも示されたという。

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    ひび割れ検知結果のイメージ (画像提供:キヤノン)

なお、費用については案件の内容次第となるとするが、「現在の点検費用と同じか、それ以下でなければ意味がないと考えているが、小さい面積などでは難しいので、画像解析にしても、複数個所の計測、できるだけ多くの画像の処理を一気に行うといった手法を提案していくことで、コストと時間のメリットを感じてもらえるようにしていきたい」とするほか、ごく限られた領域(10平方m程度)のサンプル評価をお試しで実施してもらうなどの施策を進めていくことで、業界内への浸透を図っていきたいとする。

また、当初は橋梁とトンネルからスタートするが、AI技術の発達に伴い、ひび割れ以外の変状検知への対応を図っていくほか、コンクリート以外の素材への対応などにも拡大していきたいとしており、精度が向上してくれば、正式にサービスとして提供していく用意があるとしている。

ちなみに、顧客に渡されるデータの形式としてはいろいろなものが選べ、CADデータとして平面図面の上にかぶせることも可能なほか、将来必要になるであろうBIMデータへの対応なども可能だとしている。