最初にキーノートで発表された製品の概要を記しておく。

  • Apple Arcade: 9月19日開始、月額4.99ドル (日本では月額600円)、1カ月無料トライアル
  • Apple TV+: 11月1日開始、月額4.99ドル (日本では月額600円)、Apple製品購入で1年間無料
  • Apple Watch Series 5: ディスプレイの常時点灯、コンパス内蔵。チタンモデルとセラミックモデルを用意。
  • iPad (第7世代): 10.2インチRetinaディスプレイ、A10 Fusionチップ、Smart Keyboard対応。
  • iPhone 11: 6.1インチのLiquid Retina HDディスプレイ/ デュアルカメラ(12MP広角+12MP超広角)/A13 Bionicチップ/ 水深2M、30分耐水/ バッテリー動作がXRより1時間+/背面ガラスとアルミ (全6色)
  • iPhone 11 Pro: Proが5.8インチ、Pro Maxが6.5インチのSuper Retina XDRディスプレイ/ トリプルカメラ(12MP広角+12MP超広角+12MP望遠)/A13 Bionicチップ/ 4M水深30分耐水/ バッテリー動作時間がXSより4時間+ (Pro)、XS Maxより5時間+ (Pro Max)/背面にマット加工のガラスとステンレススチール (全4色)

まずは、iPhoneの値下げから触れていこう。

といっても、値下げされたのはiPhone 11だ。「699ドルから」とiPhone XRより50ドル安いスタートだ。上位機種のiPhone 11 Proは「999ドルから」と、「高い!」と言われたiPhone XSと同じだから「値下げではない」という人も少なくない。だが、しかし…である。

  • ハイエンド機種としてiPhone 11 Proが注目されているが、iPhone 11が「699ドルから」のインパクトも大きい

今回の発表で話題になっていることの1つに「iPhone 11 Pro」の名称がある。iPhoneにProとは一体何を意味するのか、iPhone 11 Proは”Pro”を冠するのにふさわしいのか、という議論だ。Appleによると、Proは「プロユーザーが作業をこなせるデバイスであり、プロユーザー以外でもシンプルに最高のプロダクトを求める人達のためのデバイス」だ。iPhone 11 Proがプロのためのスマートフォンというのはいささか無理を感じる。映像作家や写真家が持ちたくなるスマートフォンと呼べるし、実際の作業にも活用できるとは思うが、プロの仕事の日常的なツールにはならないだろう。それより2番目の「最高のプロダクトを求める人のためのデバイス」という意味の方が広く該当するユーザーが想像できて納得できる。

むしろ今回のネーミングで注目すべきなのは、"Pro"よりもiPhone XRの後継機種がシンプルに「iPhone 11」になったことだ。Tim Cook氏は次のように述べていた。

「昨年我々は3つの素晴らしいiPhoneを発売しました。XRは最も人気の高いiPhoneに、そして世界で最も人気の高いスマートフォンになりました。また、iPhone XSとiPhone XS Maxは我々が手がけた最も先進的なiPhoneでした」

  • iPhone XR、XS、XS Maxは、3つ合わせて99%の顧客満足度を達成

昨年の3機種の内で最もよく売れたのはiPhone XRだった。これは近年のiPhoneにおける大きな変化といえる。

2016年に大画面のiPhone 6 Plusが登場してから、iPhoneは上位モデルの人気が高く、上位モデルがiPhoneの主力機種と見なされてきた。実際、低価格競争が始まっていたスマートフォン市場において、iPhoneはハイエンド市場を一人勝ちするようにして販売台数を伸ばした。しかし、スマートフォンの性能がモバイルPC並みに達し、様々な可能性を追求できるようになって、ハイエンド機種は一般の人がスマートフォンにイメージするような価格帯を超えた製品になってきた。だからといって、ハイエンドの可能性を追求しないと、スマートフォンの進化は滞ってしまう。

そこで昨年、上位モデルと同じSoCを搭載し、他の機能・性能も多くが同レベルのiPhone XRを用意した。しかし、「iPhone XS /XS Max」と「iPhone XR」という名称では、まだiPhone XSが主力という感じで、それがiPhoneは「999ドルから」という高額感につながっていた。だから、今年は"Pro"なのだ。「iPhone 11 Pro」と「iPhone 11」を並べてみると、iPhone 11が一般向けのスタンダードモデルという印象だし、実際それにふさわしい機能・性能を備える。

この関係は「iMac」と「Mac Pro」に似ている。Mac Proは最高のMacを求める人達の要望を満たすが、Mac Proを必要とするユーザーは限られる。一方、iMacは最高・最速のMacではないが、一般の人達に十分なMacの体験を提供する。一般の人達にMacを勧めるなら価格と機能・性能のバランスからiMacを選ぶ。同じように、iPhoneも上位機種は"Pro"モデルであり、iPhone 11が一般向けのメインモデルなのだ。

そのiPhone 11が50ドル値下げされて「699ドルから」というのは、iPhone X時代のiPhoneがミッドレンジに浸透してきたことを意味する。

  • Wi-Fi 6対応、Ultra Wideband (超広帯域)チップなど、これからiPhoneを長く使い続けていく上で重要な機能は、iPhone 11 Proだけではなく、iPhone 11にもしっかり搭載されている

手頃になったのはiPhone 11だけではない。他にも、次のように手頃な価格帯を充実させてきた。

  • iPhone XR: 599ドルから (同64,800円から)
  • iPhone 8: 449ドルから (同52,800円から)
  • 第7世代iPad: 329ドルから (同34,800円から)
  • Apple Watch Series 3: 199ドルから (同19,800円から)

安くても古い機種は買わないという人も多いと思うが、これらは最新のOSが問題なく動作し、Appleのサービスやウェアラブルを快適に利用でき、最新機種ではないといっても今のモバイルデバイスの使われ方で十分な性能・機能を備える。こうした選択肢は、子供用や家族用、2台目・3台目、企業や組織での採用など、様々なケースの必要性を満たすはずだ。

  • iPhone 8とiPhone XRがラインナップに残り、「449ドルから」から「1,099ドルから」まで幅広い価格帯をカバー