陸海空、それぞれのプロフェッショナルが求める極限の機能と性能、そしてタフネスを想定したG-SHOCK「MASTER OF G」シリーズ。「陸」で卓越した性能を発揮する「MUDMASTER」(マッドマスター)の最新作「GG-B100」について、その企画、デザイン、設計を担当された開発スタッフにお話を伺う第四夜。最終回となる今回は、バックやバンドに施された工夫、そして時計の使い勝手を大きく向上させる画期的な機能について、詳しく伺う。
バックカバーという新発想がもたらす新しい価値
安田氏「橋本は、表だけじゃなく裏側にもこだわるんですよ。フェイス面はともかく、GG-B100では裏面だけのスケッチまでありました。これも異例なことです」
橋本氏「従来、裏面はステンレスの裏ぶただけだったのですが、今回はここも少しこだわってみようと思ったんです。そこで、裏ぶたを覆う樹脂製のバックカバーをデザインしました。
これによって、装着時の肌触りが良く、端がラウンド形状なので角張った部分が腕に当たらない。ステンレスバックの剛性と樹脂ならではの形状の自由さ、良いとこ取りができたと思っています。
それに、裏ぶたが樹脂製ということで、金属アレルギーの方の選択肢の一つにもなれるかと思います」
しかし、このバックカバーも、案の定すんなりと実現できたわけではないのだった。
安田氏「樹脂カバーの肉厚が薄い上に凹凸がなさ過ぎて、成形して金型から取り外すとき、うまくはがれないんです。そこで、裏側にヒケ逃げを兼ねたリブを作って、金型を食いつかせて取り出しやすくしました。あと、文字やマークの細かな彫刻が多くて、これらが成形不良を起こさないよう工夫しています。
決してスペースに余裕があるわけじゃないのに、カーボンコアガードや、Bluetoothのマーク、製品名、型番、製造番号など、裏ぶたに入れるべき情報がとにかく多い。文字やマークを小さくすれば入りますが、彫刻が繊細すぎると潰れが出やすくなってしまう。もう、金型成形でやるレベルの情報量じゃないんですよ。
そこで、製造番号は組み立て後にレーザー彫刻で入れるようにしました。ただ、レーザー彫刻はどうしても焼き色が付いてしまうので、金型成形の文字と並んでも違和感が出ないよう、レーザー出力を調整しました。それまでレーザーの出力なんて考えたことがなかったので、一時はどうなることかと思いましたが」
牛山「このバックカバーの効果もあって、装着感については新製品発表会でも多くの方に褒めていただいたんですよ。見た目に反して着けやすいね、と」
橋本氏「そのギャップを感じていただけたら成功です。表はゴツゴツ、裏はツルッ。そんな相反する印象を両立できたら、というのが狙いでもありましたから。時計は身に付けるプロダクトなので、見える部分、操作する部分、肌に触れる部分、それらがすべてリンクします。そこは人一倍意識していますし、安田にもずいぶん助けられていると思います。
まず見た目で驚いて、使っていく中でまた違った第二の驚きがあるといいですよね。この時計、どうしてこんなに着けやすいんだろう……。あ、ここがこうなっているからなのか! というような。使っていく中でのストーリーが生まれてこそ、商品の体験価値につながっていくと思うんですよ」
GG-B100はバンドも特徴的だ。中でも目を引くのが、バンドの接合部を覆う先かんカバーだろう。
橋本氏「これは、GWR-B1000に近いフォルムと装着感を継承することを目的としてデザインしました。ケースからバンドへのつながりが自然になり、時計が心地よく腕に沿うようになるんです。もちろん、バンドの接続部に泥や砂が入リ込むのも防ぎます」
安田氏「先かんカバーはウレタン製なんですが、どこをどう分割するか悩んで、色々と試しました。複雑に組み合わせた複数のパーツをネジで留めているのですが、試作メーカーの方からも『このパーツはどこまでが1パーツなんですか?』『どう分かれているんですか?』と、何度も聞かれました。『言葉で説明されてもわからないので、図を色分けしてくれませんか』とか(笑)」
牛山氏「私もこの先かんカバーのパーツを渡されて、組み立てようとしたんです。でも、どう組み付けるのかわからなくて、ついにバンドを組み立てられなかった。こんなことは初めてですね。パーツの組み合わせがパズルみたいで、結局、安田に聞きに行きましたよ」
安田氏「この複雑に入り組んだ構造がまた、G-SHOCKらしいかなと思いまして(笑)」