陸海空、それぞれのプロフェッショナルが求める極限の機能と性能、そしてタフネスを想定したG-SHOCK「MASTER OF G」シリーズ。「陸」で卓越した性能を発揮する「MUDMASTER」(マッドマスター)の最新作「GG-B100」について、その企画、デザイン、設計を担当した開発スタッフにお話を伺う第三夜。今回は、GG-B100ならではの新機能についてだ。

■G-SHOCK MUDMASTER「GG-B100」開発秘話
第1回 第2回 第3回 最終回
  • GG-B100

    G-SHOCK MUDMASTER「GG-B100」

カーボンの専門家にもわからない「カーボンインサートベゼル」の製造法

カーボンといえば、そのテクスチャーを強力にアピールするベゼルも目を引く。ちなみにこのベゼル、実はカーボンシートを樹脂(ファインレジン)で挟み込んだインサート成形で製造されているのだ。

  • GG-B100

    パーツ状態のカーボンインサートベゼル

安田氏「G-SHOCKでも以前からバンドで使っているカーボンインサートの技術を応用しています。一次樹脂、カーボンシート、二次樹脂という3層のレイヤーになっているので、樹脂の厚みを増やしてしまうとカーボンレイヤーが(表面から)遠くなってしまう。そこを工夫しています」

橋本氏「本当は、樹脂を分厚く盛れば樹脂の構造体としては安定するんです。ただ、製品のケース厚に影響してしまうんですよ。G-SHOCKのような時計では、適度な厚さも信頼性やボリューム感として求められるという側面もありますが、やはり厚い時計は身に着けにくい一面があるのも事実なので。その辺は、極限の薄さまで攻めた設計をしてもらいました」

このベゼル、横から見ても、立ち面までしっかりとカーボンのテクスチャーが回り込んでいる。薄いカーボンシートを樹脂で挟み込んでいるようには、とても見えない。

  • GG-B100

    ベゼルサイドの立ち面やセンターボタン上部の複雑な3次曲面にも、しっかりとカーボンテクスチャーが回り込んでいる

安田氏「フラットな板を切削しているものはあるのですが、立体的にシートを成形しているというのは、極めて珍しいと思います。それだけでも難易度が何倍にも上がりますから。

樹脂を金型で抜くだけなら簡単です。が、カーボンシートが入っているために、普通にやると立体形状の部分にシワが寄ってしまう。カーボン関係の仕事をされている方はこういうところをしっかり見ていらっしゃって、どうやってやってるんですか? という質問をいただくんですよ」

橋本氏「試作を相当やったよね。そもそも、サンドイッチ構造のベゼルが可能なのか、から始めて。製品のリリース時期は決まっているのに、なかなかものにならなくて、もう、上だけ切削のカーボンにできませんか、とか、代わりの素材を一応考えておいたほうがいいのでは、なんて話も出たくらい」

  • カシオ計算機 橋本威一郎氏

    さすがの橋本氏も、このときばかりはちょっぴり心配に

安田氏「そこはやっぱり技術屋の意地があるんですよ。素材メーカーの方とディスカッションしながら、何度も実験と試作を繰り返しました。カーボンシートがはがれてしまったとか、落としたら色が変わってしまったとか、次から次へと課題が出てきて、最後はメーカーさんの製造現場で『ここをこうやってみてください』と、直接指示をしていました。きっと職人さんには、素人が何を言ってんだと思われたでしょう」

それにしてもこのベゼル、どう作っているのかまったくわからない。

安田氏「元はペラペラのカーボンシートなので、樹脂を流すと、どうしてもよれたりはがれたりしてしまう。そこをなんとか密着させるというか、含浸している樹脂と融合させるんです。この融合が一番重要なポイントですね」

  • カシオ計算機 安田巧氏

    カシオ計算機 時計開発統轄部 外装開発部 安田巧氏

BB-G100のカーボンベゼルは4つのバンパーで固定されているが、ここにも橋本氏と安田氏の苦心と挑戦が凝縮されている。

安田氏「この4つのバンパーはウレタン製です。硬いものではないので、めくれてしまうことが多々……。これを恒常的にどう固定するかが課題でした。しかも、このバンパーが小さいじゃないですか。そもそも、こんな小さなものを作れるのかと」

  • GG-B100

    GG-B100のパーツ。安田氏の指の先にバンパーが見える

橋本氏「ベゼル部分は、カーボンの良さとウレタンの良さのいいとこ取りにしたかった。耐衝撃性能もそうですが、全体のパーツ点数をそれほど変えずに、ボリュームの強弱を付けたかったんです。安田とは連日電話でずっと話していましたね。恋人か! っていうくらい(笑)。これなら付くかな、この方法だとめくれる、こうするには(パーツの)肉厚が足りない、とか。

早い話が、ウレタン一体型バンパーで覆ってしまえば、一番強いわけですよ。でも、それでは肝心のカーボンテクスチャーが見えない。じゃあどう分割して見える個所を作るか。

最初はGWR-B1000のような(カーボンベゼルだけの)形状も考えたのですが、それではMUDMASTERらしさに欠ける。MUDMASTERのアイコンって何? と考えたとき、このバンパーはやはり外せないんですよね」

  • GG-B100

    バンパーの取り付け案を検討するためのスケッチ

そんな橋本氏の思い入れを、実際に形にしなければならない安田氏は……。

安田氏「もう、泣きそうですよ(笑)。お互いギリギリの球を投げ合ってますから。設計としては耐衝撃に強くしたい思いもありますし、なるべく傷が付かないようにもしたい。だから、バンパーは生命線だと思っていました。(バンパーの)凸量も話し合って……。『話し合って』といえばキレイな言葉ですけど(笑)」

目に見えるパーツでいうと、センサーガードも必要なアイコンだ。橋本氏いわく「ガードの役割だけでなく、ここにセンサーが入っているよ、というアピールも兼ねている」という。G-SHOCKはファッションであると同時に、ツールとして見るユーザーも多いので、このようなデザインが特に重要なのだ。

  • GG-B100

    センサーガードも「強さと高機能」のアイコンだ

扇形の羅針盤風目盛りの正体

GG-B100は、スマートフォン用アプリ「G-SHOCK Connected」を介して、Bluetoothによってスマホと連携するモバイルリンクを利用した新機能を搭載している。そのひとつが「ロケーションインジケーター」だ。

牛山氏「ロケーションインジケーターは、スマホのGPSを活用する機能です。まず、G-SHOCK Connectedアプリを起動、時計側のボタンで現在位置を記録する操作をします。この信号がアプリに送られ、GPSのデータと照らし合わせて、現在地を記録します。再び時計側でボタンを長押しすると、秒針と液晶表示でその場所の方向と距離を示す、という機能です」

  • GG-B100

    秒針でその場所の方向と距離を表示する

牛山氏「ヘリから降りたレスキュー隊員が救助活動を終えて、ヘリにピックアップされるときなどをイメージした機能ですが、日常生活でも役立ちます。たとえば、広い駐車場に停めた自分の車の位置や、海外でホテルの場所がわからなくなってしまいそうなときなど。MASTER OF Gユーザーの方は、普段の生活にもセンサーの機能を上手く利用してくださっていますし、陸がテーマのMUDMASTERなら、こんな機能も役に立つのではないでしょうか。

GG-B100のフェイスには、扇形の羅針盤風の目盛りがありますが、これは、このロケーションインジケーターのための目盛りなんです。自分が目指している場所は『30°の方向の600m先』、といったふうにわかります。

高度計でも同様の機能が使えます。時計側で現在地の高度を記録すると、移動したとき、記録した場所から高度がどれくらい上下したかがわかる。ルート上に登り坂と下り坂が複数あると、結果的に上がった下がったかがわからなくなりますよね。この機能を使えば、自分の移動した高度差がすぐわかるというわけです」

さすが、かつて「ミスター・プロトレック(PRO TREK)」「ミスター・トリプルセンサー」と呼ばれた牛山氏。目の付け所が違う(というか、機能がPRO TREKっぽい)!

  • GG-B100

    GG-B100の特徴的な扇形目盛りは、このためにあったのだ!

この扇形の目盛り形状も、視認性向上のためにある工夫をしているという。

橋本氏「横から見るとわかりやすいのですが、ちょっと手前に起き上がっているんです。こうすることで、ちょっと時計を傾けただけで、目盛りがユーザーの視線に正対して見やすくなるんですよ。だからといって立てすぎると針にぶつかってしまうので、ここでも安田とコンマ何ミリ単位の調整を……(笑)」

安田氏「このデザインを見てもらえばわかると思いますが、凹凸の間隔が信じられないくらい微妙。この隙間に金型が本当に入るのか疑問でした。これだけでも難しいのに、この造形の稜線に線を印刷しているんですよ。この造形の細い峰の部分に」

  • GG-B100

    目盛りのわずかな起き上がりと稜線への印刷に刮目!

橋本氏「これも、できるかどうかまったくわからなくて……。安田に相談したら『やってみましょう』と言ってくれた。何だかんだいってもチャレンジ精神が旺盛なんですよ。それが彼の良いところですね(笑)」

安田氏「上司からも本当にできるのかと言われたんですけど、自分の中では、まぁカッコイイからやってみようかと、そこは押し通しました。何から何まで、やったことがないのオンパレードですが、そこで挑戦することをやめてしまうと、もう新しいアイディアは出てこないし、進化もありません。であれば、チャレンジするしかないでしょう」

  • カシオ計算機 安田巧氏

    安田氏のこのチャレンジ精神がなければ、GG-B100は誕生しなかった(断言)

(一同拍手)

橋本氏「造形の峰に白を印刷すると、線がブロックで浮き出てきて、平面よりずっと見栄えも視認性も良好になるんです。GG-B100のフェイスデザインを、デザインと設計手法で実現できたと思います」

さぁ、次回はいよいよ最終回。バックやバンドに施された工夫、そして時計の使い勝手を大きく向上させる画期的な機能についてだ。