宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、まだ投下されずに残っていたローバー「MINERVA-II2」の今後の予定などについて説明を行った。また、投下済みのローバー「MINERVA-II1」が休眠から目覚め、通信に成功したことも明らかにされた。

  • はやぶさ2

    はやぶさ2に搭載された3台のMINERVA-IIローバー (C)JAXA

アウルが通信に反応、再度の探査活動も可能?

はやぶさ2には、合計3台のMINERVA-IIローバーが搭載されていた。JAXAが開発した「ローバー1A」(イブー)と「ローバー1B」(アウル)、そして東北大学などの大学コンソーシアムが開発した「ローバー2」である。ローバー1A/1BはMINERVA-II1、ローバー2はMINERVA-II2とも呼ばれる。

イブーとアウルは、約1年前の2018年9月21日に小惑星リュウグウに投下。どちらも小惑星表面から画像を送ってきたほか、ホッピングでの移動にも成功するなど、予定していたミッションを無事に完了することができた。

  • はやぶさ2

    リュウグウ表面でアウルが撮影した画像。ゴツゴツした地形が見える (C)JAXA

意外だったのは、予想よりもかなり長く活動できたことだ。もともと、ローバーのミッション寿命は、コンデンサの劣化や太陽電池の汚れなどにより、7ソル(1ソルは小惑星上の1日で約7.6時間)程度と考えられていたが、アウルは10ソル(=約3日)、イブーは113ソル(=約36日)まで運用することができた。

その後、2台のローバーとは通信ができていなかったが、2019年8月2日に探査機側の通信機をオンにしたところ、アウルが反応。テレメトリデータを取得することができた。通信時間が短かったため、画像を撮影するようなことまではできなかったものの、今後どのように運用するか現在検討中だという。

ローバーには、電力や温度などを監視していて、条件が良くないときには休眠する自律機能がある。これまでは、電力が不足するなどして休眠状態になっていたと考えられるが、今回、通信が復活したのは、リュウグウが太陽に接近していて、発電量が大きくなったからだという可能性がある。

2台のローバーは基本的に同設計だが、アウルのみが目覚めた理由としては、熱特性の違いが可能性として考えられる。アウルには開口部があり、赤外線の放射で内部の熱を排出できるようになっている。アウルの方が暑さには強いと言え、太陽に近い時期では、活躍しやすいのかもしれない。

  • はやぶさ2

    2台のローバー1。アウルは、開口部から放熱が可能になっている (C)JAXA

一方、ローバー2の方であるが、これは打ち上げ前から深刻な問題を抱えていた。詳細については、過去記事を参照して欲しいが、データ処理系のFPGAで不具合が発生しており、予定していたミッションを正常に遂行することが難しい状況になっていた。

このままでは、リュウグウに投下したとしても、何の観測も実験もできず、科学的成果を得ることは難しい。そこで、プロジェクトチームは、有意義な成果を得るための新たな計画を作成した。比較的高い高度(1km)で分離し、リュウグウを周回させてから落下することで、重力場の推定を行うという。

そのためのリハーサルとして、9月5日には、同様の運用にて、2個のターゲットマーカーの分離を行う。1個目は東方向、2個目は北方向に速度を持たせて分離、それぞれ赤道方向、極方向を周回させる計画。同11日ころまでに落下すると見られているが、その周回する軌道を探査機から観測する。

  • はやぶさ2

    ターゲットマーカーの分離運用。燃料を節約するため、自由落下に近い低速降下で接近する (C)JAXA

愛称は「おむすびころりんクレーター」に

今回の説明会では、人工クレーター関連の地名と、再突入カプセルの回収計画についても報告があった。

人工クレーター関連で新たに愛称が付けられたのは、以下の4件。国際天文学連合(IAU)のルールでは、人工的な地形に名前は付けられないことになっている。申請しても却下される可能性が高かったため、国際的な正式名称ではなく、自由に決められる愛称として名付けた。

  • おむすびころりんクレーター(人工クレーター)
  • イイジマ岩(移動岩)
  • オカモト岩(不動岩)
  • おにぎり岩(大きな岩)
  • はやぶさ2

    4つの地名の位置関係 (C)JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

リュウグウは小惑星の名前からしておとぎ話が由来なのだが、「おむすびころりんクレーター」も、もちろんおとぎ話からの命名である。近くにある三角形の「おにぎり岩」が転がり落ちそうな窪地ということで名付けられた。「おむすび」と「おにぎり」で表現の不統一が気になるところだが、これは混同しないようあえて分けられたとのこと。

そして「イイジマ岩」と「オカモト岩」は、はやぶさ2プロジェクトに尽力しつつ、若くして亡くなった2名の研究者、飯島祐一氏と岡本千里氏のメモリアルとして決定。「本当はプロジェクトの結果を見届けて欲しかったメンバー。ぜひ2人の名前をリュウグウの上に残したいという強い希望があった」(吉川真ミッションマネージャ)という。

再突入カプセルの回収については、初号機と同じく、今回もオーストラリアのウーメラ管理区域で実施する計画であることが、初めて正式に公表された。2018年11月、同国連邦政府との間でカプセル回収に関する同意書を締結しており、同12月に現地調査を実施。今年度中にカプセルの着陸許可を申請する予定だという。

  • はやぶさ2

    再突入カプセルの回収計画。順当にウーメラ管理区域に決まった (C)JAXA

はやぶさ2は、2020年末に地球に帰還する予定。探査機本体から、リュウグウのサンプルが格納された再突入カプセルを分離、ウーメラに落下させ、回収する計画だ。

  • はやぶさ2

    カプセル回収の概要。基本的には初号機と同様のシーケンスとなる (C)JAXA

初号機と大きく異なるのは、カプセル分離後の探査機本体の行動。化学推進系が使用不能になっていた初号機は大きな軌道変更ができず、そのまま地球大気圏に再突入し、燃え尽きてしまったが、はやぶさ2は地球を避けて通過できるはず。期待される別天体の探査について、吉川真ミッションマネージャは「帰還時に残る燃料の量次第。これから行けそうな天体をピックアップしていきたい」とコメントした。