半導体産業を支えるファウンドリ

Taiwan Semiconductor Manufacturing(TSMC)は6月28日、横浜で開催したプライベートカンファレンス「TSMC Technology Symposium Japan 2019」の開催に合わせて、メディア向け説明会を開催。これからの技術の方向性などを示した。

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    TSMCの5nmプロセスを用いて製造されたデモ用300mmウェハ

スマートフォンやパソコン、自動車、家電、ロケットにスーパーコンピュータ、ありとあらゆる電気を使って動く機器の中心で動く半導体の性能向上を支えてきたのは、Intelの共同創設者の1人であるゴードン・ムーアが1965年に提唱した、いわゆる「ムーアの法則」であり、それを実現するべく開発されてきた半導体素子(トランジスタ)をより小型化し、集積度の向上を可能にするプロセスの微細化技術と、それを実際に量産現場で実施することを可能にする生産技術である。

トランジスタの搭載数が増加するにつれ、設計は複雑化。それを支援するためのさまざまなソフトウェアが誕生し、また製造に必要な装置の数や材料の種類も増加。そうした動きに合わせて、かつてAMDの創業者のジェリー・サンダースに「半導体の男だったらファブを持て」と言わしめた半導体業界も、設計そして製造にかかるコストが増加の一途をたどった結果、工場を1棟建てて、先端プロセスの生産が可能な装置を取り揃えようと思うと、今では最低でも数千億円規模の投資が必要となってしまった。

そうした動きの中で生まれてきたのが、半導体の設計だけを行うファブレスと、そうしたファブレスが設計した回路データをもとに、実際に製造を請け負うファウンドリという水平分業体制で、大量生産がものをいう半導体メモリ以外を販売する半導体メーカーの多くが自社で工場を持たずにファウンドリに生産を委託するようになっており、かのジェリー・サンダースも最近では「今では半導体の優れたリーダーはファブレスじゃなくちゃだめだ」と語るようになってきた。

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    TSMCがファウンドリとして設立された1987年までは自社で設計から生産まで行うIDM(垂直統合型)が半導体企業であったが、そうしたIDMも近年は生産の柔軟性の確保や、アセットライト志向などからファウンドリの活用を進めるようになってきた (資料提供:TSMC)

TSMCは、そうしたファウンドリの草の根の存在であり、ファウンドリ業界における市場シェアは約半分と、圧倒的な存在感を見せ付ける。その最大のポイントは、先端プロセスの提供と、それを利用する顧客が要求するだけの生産を可能とするだけの生産量を確保できるだけの工場を有していること。その生産能力は、生産能力で2位の半導体企業と比べても倍以上(半導体メモリの生産能力を除く)と、圧倒的であり、いまや同社を活用する企業は480社以上(2018年の間に同社を活用した顧客企業の数)であり、1週間に1社のペースで新規顧客を獲得する勢いで現在もその数は増加しているという。

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  • TSMCの設備投資額の推移と2018年の顧客数、生産品種、ならびにそのために適用した技術の数 (資料提供:TSMC)

面白いのは、先端プロセスが立ち上がると、それが即座に同社の売り上げの軸となっていく点である。2019年時点で同社が提供している最先端のプロセスは7nm(N7。あくまで同社が提供しているプロセス名で、かつてITRSなどが定義していたプロセスノードとは異なる)だが、立ち上がった2018年の第3四半期の段階で売り上げの11%を占め、同第4四半期には23%と急拡大を遂げている。2019年の見通しについて、同社のコーポレートコミュニケーション部門シニアディレクタのエリザベス・サン氏は、「2019年第4四半期には売り上げの30%を占めるまでに成長する見通し。通年でも売り上げの25%を7nmが占めると見ている(2019年第1四半期の売り上げシェアは22%)」と、高い引き合いであることを説明する。

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  • TSMCの売り上げ推移と、売り上げにおける各プロセスの比率。先端プロセスが立ち上がると一気にその比率が増えていくことがうかがえる。ちなみに、フルキャパシティまでの立ち上げ期間だが、28nmでは20ヶ月かかったものが、7nmでは3ヶ月であったという (資料提供:TSMC)