カシオ計算機は5月14日、2019年3月期通期の決算を発表しました。売上高は2,982億円(前年同期比5%減)で、デジタルカメラ事業から撤退した影響が出た形です。一方、G-SHOCKのフルメタルモデルがヒットした時計事業は好調。最終的な営業利益は303億円(同2%増)、当期純利益は221億円(13%増)となりました。

  • カシオ計算機 執行役員 田村誠治氏

    2019年3月期 連結決算概況について説明する、カシオ計算機 執行役員 田村誠治氏

G-SHOCKは伸びたが……

決算発表会では、カシオ計算機 執行役員 田村誠治氏が概況を説明。第4四半期(1~3月)の時計事業は前年比で増収。G-SHOCKの初号機「DW-5000C」シリーズの系譜で初のフルメタル仕様となった「GMW-B5000」が売上を牽引しています。

地域別では、国内および中国で販売が拡大。新興国では通貨安の影響を受けたものの、ASEAN地域でG-SHOCKの売上が伸びました。しかし「景気減速などの影響により、G-SHOCK以外のメタルアナログ商材は苦戦しました」と田村氏。

  • GMW-B5000

    2018年4月に発売されたGMW-B5000シリーズ

  • 第4四半期(1~3月)の時計事業

来期に向けて、G-SHOCKではメタルを中心としたラインナップを強化。あわせて、G-SHOCK以外のメタルアナログウオッチでは「OCEANUS」「EDIFICE」の超薄型モデルを投入するなどして、停滞する従来型時計市場で差別化を図っていきたい考えです。

  • 時計事業の来期に向けた取り組み

カシオが力を入れる教育事業は、新興国における電卓の販売不振を受けて伸び悩み、前年比5%の減収。電子辞書関連は、通販・学販ルートの売上が拡大しつつも、英会話学習機の減少で前年比横ばい。楽器は、国内・中国における流通再構築の遅れにより前年比2%の減収となっています。

来期に向けて、アジアその他の地域では関数電卓の拡販を進め、電子辞書は国内高校の推薦校を2100校から2300校に拡大。また、スリム化・スマート連携を強化した楽器の新製品を開発することで、事業の収益を改善していくと説明しています。

時計事業は、規模を劇的に拡大へ

続いて中期計画について。田村氏は「中長期で企業価値を向上させるべく、新しい経営への変革に取り組んでいます」とし、「4つの成長戦略」「2つの経営基盤」「2つの価値追求」をキーワードに全社をあげて“ワンカシオ”で邁進していきます、と力を込めます。

  • 中期経営方針

成長ドライバーとなるのは、やはり時計事業。G-SHOCKのスマートウオッチ(いわゆるGスマート)を開発して2020年度(※)に発売する予定。市場でポジションを確立するとともに、メタルG-SHOCKの拡大によって事業規模を劇的に伸ばしていきたいと期待を寄せます。

※:初出時「2021年の発売」としていましたが、カシオからの追加情報により「2020年度の発売」と修正いたしました。

  • 時計事業の売上高は2021年度に2,000億円へ

  • 「G-SHOCK」が幅広く展開されていくようです。まずはどんな「G-SHOCKのスマートウオッチ(G-smart)」が登場するでしょうか

新規事業でマーケットを創出

今後、新規事業の創出にも注力します。2021年度の売上目標を200億円に設定。カシオ計算機 執行役員 事業開発センター長の井口敏之氏が説明に時間を割いたのは、パートナーとの共創による独自価値の追求でした。

「当社の強みとなる技術を活かして、市場のニーズに対応した製品を、共創パートナーと一緒になってつくっていきます」と井口氏。すでにアシックス、大手化粧品メーカー、ルネサス、信州大学などと連携した取り組みが活性化しています。

  • 新規事業の創出

例えば、アシックスと共同で市民ランナーのための事業を進めています。「スポーツ用具の最大手であるアシックスさんと組んで、健康、スポーツの分野におけるトータルサービスを提供していきます」と井口氏。

このほか、女性が活躍できる社会を目指して大手化粧品メーカーと美容×デジタルの新しいユーザー体験を提供。カシオのカメラ技術を活用した取り組みでは、医療の現場に皮膚診断カメラなどを提供。ルネサスとの共創では、カシオの画像処理技術を活かしてATM、無人店舗、防犯カメラ、工場のロボット制御などに向けて、イメージングモジュールビジネスを展開していくと説明しました。

  • カシオ計算機 執行役員 事業開発センター長 井口敏之氏

    カシオ計算機 執行役員 事業開発センター長の井口敏之氏

米中貿易摩擦の影響が

最後に、報道陣からの質問に田村氏が回答しました。

G-SHOCKが売れている地域について問われると「どこかに偏ることなく、すべての地域で販売数が伸びているのが強みです。今後の注力エリアは、G-SHOCKの認知度の低い、つまり成長ポテンシャルの高いASEAN地域。もちろん他の地域も伸ばしていきます」と回答。ちなみにG-SHOCKのフルメタルモデルについては、価格帯が高いことから国内、北米、欧州などの先進国を中心に数が出ている、としました。

  • G-SHOCKの年間出荷台数(国別)の推移

米中貿易摩擦の影響について聞かれると「電卓も対象で、当初の説明では対中関税が10%なら年間2億円、もし25%だと年間5億円の影響が出るとの試算でした。でも電卓に関しては手を打ったので、実質、現時点で影響はほぼゼロに近い状況です」と田村氏。具体的には、生産の拠点を中国からタイを含めた地域に移動したとのこと。

しかし、(対中の追加関税をめぐる)6月中旬の米国における公聴会の内容次第では、時計と楽器に影響が出てしまうとも。

「仮に当社が手を打たなかった場合、今期の損益は時計で7億円、楽器で5億円と試算しています。でもG-SHOCKに関しては、かねてタイで並行生産できる準備を進めてきたので、今期中には影響を半減できる目処が立っています。G-SHOCK以外の時計と楽器については、緊急対策本部を立ち上げます」(田村氏)。過去に影響を回避したノウハウが役に立つとしており、田村氏の表情に焦燥感はありませんでした。