宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月2日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、衝突装置(SCI)の運用計画について報告した。基本的には3月18日の説明会の内容から変更は無いが、より詳細な時刻や移動経路が公開された。
今回はそのアップデートをお伝えするので、前回の記事も参考にして欲しい。
SCI運用の詳細スケジュールは以下の通り。なお、タッチダウン運用のときは小惑星表面を基準とした「高度」で説明したが、SCI運用は小惑星の裏側に回り込んだりするため、高度だと都合が悪い。本稿では、小惑星中心を原点、地球方向をZ軸とする「HP座標系」で位置を表現するので注意して欲しい。
ホームポジションからの降下は、4月4日13:00(機上時刻、日本時間。以下同様)に開始。タッチダウン運用と同様に、降下速度は秒速40cmで、Z座標+5kmに到達したら秒速10cmへ減速する。同+1km(高度500m)に到着するのは翌5日10:44。ここで高度を維持した後、10:56にSCIを分離する計画だ。なお、タッチダウン運用とは違い、SCI運用では+5km以降が自律運転となる。
SCIは探査機下方に秒速20cmで押し出されるが、それをキャンセルするように探査機は秒速14cmで上昇するため、SCIは秒速6cmの初速で降下する形になる。SCIは分離によりタイマーが作動。分離から40分後、高度200~300m程度で爆発し、小惑星表面に衝突体を撃ち込む計画だ。
SCI運用は爆発を伴うため、万が一のときのリスクが大きい。はやぶさ2では、様々な安全対策を施しているが、その1つがSCIに搭載された太陽電池。分離後、もしこの太陽電池に光が当たらなければ、うまく分離できずに引っかかっている可能性がある。そのまま爆発させると危険なので、自動で爆発を止めるようになっているそうだ。
SCI分離の90秒後、探査機は退避運動を開始。小惑星を回り込むために、まずは+X方向に水平移動し、分離の15分後に1kmまで離れた時点で一旦静止、そこから今度は-Z方向に垂直移動し、小惑星の横を通り過ぎて、SCI作動時(11:36)には安全圏であるZ座標-3.5kmの地点にいる予定だ。
注目は、衝突体を撃ち込むことで、どのくらいの噴出物(イジェクタ)が出るかということだ。命中した場所にも依存するものの、ズボっと潜ってしまってあまり出ない可能性もあれば、タッチダウンの時のようにたくさん出る可能性もあり、研究者の間でも意見が割れているとのこと。
これを観測するため、搭載しているのが分離カメラ「DCAM3」だ。DCAM3は、退避中に探査機から分離され、-X側から小惑星とSCIを撮影する。最長3時間、最大10km離れても通信が可能だが、受信しやすくするため、SCI作動の10分後に探査機を減速、10km離れるまでにはすべてのデータを受信できる見込みだ。
そして実際にSCIが作動して命中したのかどうかがもっとも気になるところだが、SCI自体には通信系が搭載されていないため、直接確認することはできない。おそらく、DCAM3の画像で確認できるはずだが、運用のタイミング的に、当日中に確認できるかは微妙なところだろう。ただ、当日中には、SCIの分離までは確認できるはずだ。
しかし、イジェクタが少なかった場合などは、DCAM3で確認できない可能性もある。探査機はホームポジションへの復帰中に、側面のONC-W2で小惑星を撮影する予定だが、100km近く離れているため、表面の詳しい様子までは分からない。その場合は、ホームポジションへ復帰後、4月22日の週に行うクレーター探索運用(CRA2)まで待つことになる。
CRA2では、高度1.7kmまで降下して、ONC-TとTIRで観測。すでに、SCI運用前のクレーター探索運用(CRA1)で、同じ領域の画像を取得してあり、ビフォーアフターを人間の目で見比べて、クレーターが新たにできた場所を探す。
今回のSCI運用について、吉川真ミッションマネージャは「これまでやってきた運用は、いずれも初号機でやろうとしていたこと。しかし今回の運用が違うのは、初号機では考えもしなかった新しい挑戦であることだ」と説明。「メンバーは緊張もしているが、長い間、周到に準備してきた。ぜひとも成功し、探査の領域を切り広げたい」と意気込んだ。
なおSCI運用では、タッチダウン運用のときと同様に、ゲート1~6の判断ポイントが設けられている(今回はタッチダウンは行わないので上昇確認のゲート4は無い)。4月5日には、相模原キャンパスのプレスルームから随時状況をお伝えする予定なので、続報をお待ち頂きたい。