スマホゲーム『Fate/Grand Order(FGO)』などを運営するディライトワークスは3月27日、“社内ゲームセンター”を新設したことを発表した。同施設のオープンにあたって、東京都内で2店舗のゲームセンターを運営する「ゲーセンミカド」に協力を依頼したという。

「DELiGHTWORKS × ゲーセンミカド」と名付けられたその社内ゲームセンターは、どのような意図のもとでオープンしたのだろうか。

きっかけはFGOACをいちユーザーとして遊ぶため

ゲーム開発を事業とするディライトワークスとはいえ、オフィスにゲームセンターを作るという発想はなかなか出てこない気がする。どのような流れで、社内ゲームセンターを設置することになったのだろう。

ディライトワークス DELiGHTWORKS SWALLOWTAIL Studiosでスタジオヘッドを務める塩川洋介氏は「いくつか理由はあるのですが、きっかけは弊社の開発したアーケードゲーム『Fate/Grand Order Arcade(FGOAC)』です。もともと弊社では自分たちで作ったゲームを、いちユーザーとして熱心に遊び、それを開発にフィードバックしていくことを日常的に行っています。それはFGOACも同様。なので、会社のなかにお客さまと同じように遊べるよう環境を作りたいと考えていました」と、社内ゲームセンターを設置したきっかけを述べた。

ディライトワークス DELiGHTWORKS SWALLOWTAIL Studiosでスタジオヘッドを務める塩川洋介氏

しかし、理由はそれだけではない。

「弊社では、2018年の3月に、ボードゲームカフェを社内にオープンさせました。全国でボードゲームカフェを展開している『JELLY JELLY CAFE』さんの協力のもとで開設した、250種類以上のボードゲームが遊べるという本格的なものです。どうせやるなら本物のボードゲームカフェを作ろうと、社内にオープンしましたのですが、ボードゲームカフェを作ったことで、いい影響が数多くでてきました」(塩川氏)

そのいい影響として、ボードゲームカフェがきっかけで業界交流会や業界イベントを開催したり、自社ボードゲームコンテンツを開発したりと、普段の利用から発展して、さまざまな事業へと広がっていったのだという。

「そこで、どうせFGOACを設置するのであれば、本格的なゲームセンターを開設してみようではないかと考えて、今回のゲーセンミカドさんの協力を得て、社内ゲームセンターの設置に至りました」(塩川氏)

本格的な社内ゲームセンターを作れば、ボードゲームカフェで得られたようないい影響があるのではないか。塩川氏は、そう考えたことが社内ゲームセンター設置のきっかけになったと話す。

続いて話は「パートナーの選定理由」に移り、まずは開設に協力したゲーセンミカド オーナー兼店長の池田稔氏が「ゲームセンターとひとことに言ってもさまざまなタイプがありますが、私の運営している『ゲーセンミカド』は、自分たちの企画力を活かした取り組みや大会運営、それらの配信、珍しいゲーム機などで勝負している、いわば逆張りのゲームセンターです」と、ゲーセンミカドを紹介。「ゲーセンミカド」は高田馬場と池袋で計2店舗あり、高田馬場店は今年で10周年を迎えるそうだ。企画のなかには、なんと「ゲーセンで結婚式を挙げる」という取り組みもあったとか。

ゲーセンミカド オーナー兼店長の池田稔氏

そんな枠にとらわれないゲームセンターだからこそ、塩川氏は、今回のパートナー相手に「ゲーセンミカド」を選んだのだという。

「社内にゲームセンターを設置すること自体、おそらく前例のないことだと思いますのが、ゲーセンミカドさんであれば、柔軟かつ本気でゲームセンターを作ることを一緒に考えてくださるだろうと、ご協力をお願いいたしました」(塩川氏)

タイトル選定で大切にしたのは“ライブ感”

そうして、本当に作られた社内ゲームセンター。設置されているゲームタイトルはさまざまで、ディライトワークスが手がけたFGOACはもちろん、『AC/DC』というピンボールや、アナログゲームの『国盗り合戦』まで幅広い。ゲームタイトルのラインアップ選定は、ゲーセンミカドが行ったというが、どのような点を意識したのだろうか。

「大切にしたのは“ライブ感”です。ゲームセンターにはコミュニティがあって、仲間がいるからこそ遊びたくなるというもの。自宅で1人でビールを飲むのもいいですが、居酒屋で友人と飲むビールの味はまた違いますよね。ゲームセンターもそれと同じです。ゲーム好きが集まっている場所だからこそ、100円を使いたくなるのです。なので、そんな“ライブ感”を意識しましたね」(池田氏)

なお、オープン時のラインアップは次の通りだ。「限られたスペースで1970年代から2000年代までを凝縮した」と話す池田氏。それぞれのタイトルは定期的に見直しをしていく予定だという。

ピンボールゲームの『IRON MAN PRO』(写真左)と『AC/DC』(写真右)
アナログの『国盗り合戦』
2人並んで対戦する『ストリートファイターII』
『スペースハリヤー』の筐体。法律が変わったために、現在では本機のような激しい動きのある筐体は作れないという
ディライトワークスが展開するFGOAC
今回のラインアップのなかで、塩川氏が注目しているタイトルの『MELTY BLOOD Actress Again Current Code』(写真右)
『ストリートファイターII』で対戦する池田氏と塩川氏

ボドゲカフェのような交流や創作活動のきっかけに

いちユーザーとしてFGOACに触れるところから、本格的なゲーセン作りに発展した今回の社内ゲームセンター。この取り組みを通じて両者が期待していることは何だろうか。

「社内ゲームセンターは、ディライトワークス社員を対象にした運営ですが、自社タイトルはお客さまと同じ環境でやるべきだと考えているので、FGOACはお金を払って遊んでもらいます。それ以外のゲームはフリープレイ。ただ、ゆくゆくは社外を含めたイベントを開催して、ボードゲームカフェのような好循環を生み出せればと思います。私もゲームセンターのよさはユーザー同士が集まる“ライブ感”だと思いますので、そのような企画も考えていきたいですね」(塩川氏)

また、ゲーセンミカド側から期待したいこととして池田氏は、クリエイターがアーケードゲームからインスピレーションを得ることを挙げた。

「限られた制約のなかで100円1枚でも多く使ってもらえるように作られたゲームたちに触れることで、ディライトワークスのクリエイターさんも感じることがあるはずです。そこから、新しいものが生まれること、特にディライトワークスさんがアーケードゲームを再びリリースしてくださるような未来を想像すると、期待せずにはいられませんね。今後も企画や運営面では協力していきたいと思います」(池田氏)

クリエイターに与えるインスピレーションについては、塩川氏も同様のことを考えているという。

「これまで弊社は、ジャンル、デバイス問わずゲームを開発をしてきました。アーケードゲームは自由度が高いので、多くの社員に触ってもらうことで新しい刺激があるはず。コンテンツの開発にも結び付けていければと思います」(塩川氏)

なお、ゲーセンミカドには、マンガ『ハイスコアガール』などを手がけた押切蓮介氏が「ミカドちゃん」というイメージキャラクターを制作している。今回の「DELiGHTWORKS × ゲーセンミカド」オープンを記念して、ディライトワークスコラボデザインを描き下ろしてもらった。

ゲーセンミカドのイメージキャラクター・ミカドちゃん
今回のために描き下ろされたデザインのミカドちゃん。「帝」の文字が書かれているところが「DW帝」に変更されている

ゲーム開発の会社とはいえ、「社内ゲームセンター」の設置は、思い切った取り組みであると言えよう。だが、枠にとらわれない遊び心があるからこそ、斬新でおもしろい発想は生まれてくるのではないだろうか。

それは、何もゲーム開発会社に限らないはず。ピリピリした雰囲気や、真面目な発言だけでは、なかなか新しいアイデアは生まれにくい。社内ゲームセンターとまでは言わないまでも、せめてちょっとした息抜きができるような場所は、社内にあったほうがいいだろう。

(安川幸利)