国立天文台は2月12日、天の川銀河中心核「いて座A*(いてざエー・スター)」の近傍にある特異な分子雲をアルマ望遠鏡を用いて解析したところ、その中心には太陽質量の3万倍を有する中間質量ブラックホールであることを確認したことを発表した。

同成果は、国立天文台 野辺山宇宙電波観測所の竹川俊也 特任研究員、慶應義塾大学理工学部 物理学科の岡 朋治 教授、同大 大学院理工学研究科 博士課程1年の岩田悠平氏、同じく同 博士課程1年の辻本志保氏、東北大学 天文学教室の野村真理子 研究員らによるもの。詳細は、米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された

ブラックホールは現在、太陽の数倍から十数倍の質量を持つ軽いブラックホール(恒星質量ブラックホール)と、太陽の100万倍~100億倍にもおよぶ質量を持つ超大質量ブラックホールの2種類の存在が確認されており、超大質量ブラックホールは、多くの銀河の中心に核として存在することが知られ、天の川銀河(銀河系)も、太陽系から約2万5000光年離れた距離にある中心核「いて座A」にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが潜んでることが知られているが、その起源はまだ解明には至っていない。

近年の研究から、ブラックホール同士は合体することで大きくなること、ならびに周囲の物質を飲み込むことでも成長することが分かってきたが、超大質量ブラックホールと、恒星質量ブラックホールの間に位置する質量(太陽の100倍から10万倍程度の質量)である「中間質量ブラックホール」は、これまでにいくつか報告例はあるものの、その存在は裏付けられておらず、論争が繰り広げられてきた。

今回、研究チームは、以前の研究で発見していた「いて座A」から約20光年離れた位置に存在する小型の特異分子雲「HCN-0.009-0.044」の正体を突き止めることを目指し、アルマ望遠鏡による観測を実施。その結果、HCN-0.009-0.044は複数の構造から構成されていること、その中に太陽の3万倍ほどの質量を持つ中間質量ブラックホールが存在しているとの結論を得るに至ったという。

今回の成果について研究チームでは、中間質量ブラックホールを、天の川銀河の中心核の近傍に発見したことが超大質量ブラックホールの起源解明などにつながる可能性がしめされたこと、ならび、このブラックホールの発見が、天の川銀河内に大小含め少なくとも1億個以上あるとされるブラックホールの大半を占めるであろう、伴星からの物質供給が不十分であるため、暗く、従来手法では発見が困難な暗いブラックホールの探査に有効な手法になる可能性が示されたという2点で大きな意義があるとしており、今後も、今回のような特徴をもつ分子ガス雲に注目していくことで、ブラックホール候補天体の発見につながることが期待されるとしている。

  • 中間質量ブラックホール

    天の川銀河中心核「いて座A*」の近傍にある特異な分子雲を振り回す中間質量ブラックホールの想像図 (出所:国立天文台Webサイト)