中国国家統計局が1月21日に発表した2018年10~12月期の国内総生産(GDP)は、物価の上昇分を除いた実質成長率(速報値)が前年同期比6.4%増と、リーマン・ショック直後の2009年第1四半期と並ぶ低水準となった。

また、同時に発表した2018年の年間GDPも同6.6%増と、天安門事件直後の1990年に記録した同3.9%増以来、実に28年ぶりの低水準となった。

中国経済が予想以上に悪化していることは以前から指摘されていたが、統計上の数字で明確になった形だ。しかし、中国国家統計局の数字を疑う欧米識者も多く、米国の非営利民間シンクタンクである全米産業審議会(The National Industrial Conference Board:NICB)は、中国の2018年における実際のGDP成長率は4.1%にすぎないとの見方を示している。それはともかく、中国経済の悪化が加速すれば、日本からの輸出が減少し、中国に進出している企業の業績が低迷して、日本経済の成長や景気の鈍化も懸念されるようになる。

米国では今月、Appleが米中貿易戦争や中国経済の減速を理由に15年ぶりに売上高予想を下方市場し、日本を含む世界市場に衝撃が走った。日本でも、日本電産はじめとした多くの企業が、中国での需要が減少し、この落ち込みを米中貿易摩擦に端を発した中国および世界経済の不確実性のためとしている。今後、中国市場依存度の高い日本の半導体製造装置メーカーの業績にも影響が出てくることも懸念されている。

そんななか、中国における半導体製造業の行方が注目される。世界中の電子機器の生産基地化している中国の半導体消費額は、世界の総消費額の約5割に達している。しかし、国内消費量が国内供給量を大きく上回っており、国内生産量は国内需要の1割強を賄っているにすぎず、海外からの(特に米国企業からの)輸入に依存している。

こうした状況を打開するため、中国政府は、2025年までに国内で消費する半導体のうちの70%を国内生産できるようにするという目標「中国製造2025」を掲げて、巨額の補助金をばらまいてきたが、中国経済の減速で、その実現が危ぶまれている。米中のハイテク覇権争いの状況下で、米国は「中国製造2025」を目の敵にしていることから、その実現(少なくとも2025年までに目標達成すること)は絶望的との見方もでてきている。はじめから無理な仕業だったという見方もあるほどである。

  • 中国の半導体輸入量および輸出量の推移

    中国の半導体輸入量および輸出量の推移。中国は世界最大のIC消費市場だが、輸入に頼っているのが実情であるため、世界最大の半導体輸入国であるとも言える (出所:SEMI China、原典は中国税関統計)

米国の介入でつまずく中国のDRAM製造

飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた中国の半導体産業も中国経済の減速による影響や米中貿易戦争の影響で減速を余儀なくされている。SEMI Chinaが2018年夏に発表した中国国内半導体産業の売上高推移予測を見ても、2019年以降は中国経済の悪化にともなう計画の先送りや米国政府の介入による停滞が予測されている。

  • 中国国内半導体産業の売上高推移

    中国国内半導体産業の売上高(単位:10億ドル)の推移(2018年以降は予測)。中国国内のIDM、ファブレス、ファウンドリ、OSATの売上高のすべてを含む。この予測は2018年7月時点のものであり、その後、米中貿易戦争の深刻化や中国経済の悪化の顕在化などの事態で予測通りの成長にはならない可能性が高い点に注意が必要となっている (出所:SEMI China)

すでに2019年に量産を開始する予定であった中国3大新興メモリメーカー3社のうち、JHICCは、米国製半導体製造装置の輸出禁止措置によって事実上の操業中止に追い込まれている。

JHICCにDRAM技術開発で協力してきたUMCもJHICCへの支援体制を縮小すると発表した。JHICCとUMCは米Micron Technologyの子会社であるMicron Technology Taiwan(旧Inotera)から技術情報を窃盗した容疑で起訴されている。

UMCは、これ以上JHICCを支援していては、JHICC同様に米国製製造装置を調達できなくなるだけではなく、米国の顧客(ファブレス企業)がUMCに製造を委託するのを禁止する措置を米国が講ずるのを恐れているとも噂されている。

JHICCは、米国製装置が手に入らぬ上にUMCが手を引いてしまえば、事態が解決するまで操業することが困難になるだろう。つまり2019年の工場拡張は中止せざるを得なくなったといえる。もともと、商用DRAM量産の経験がないロジックファウンドリであるUMCがDRAM製造技術を供与すること自体に無理があったとの見方が有力である。

この例を取り上げるまでもなく、中国勢がどこから半導体の製造技術を入手できるかが最大の課題となっており、中国勢の非合法的な技術入手は米国政府の怒りを買う原因にもなっている。

台Inotera(現在はMicronの子会社Micron Memory Taiwan)のDRAM開発・製造エンジニアを大勢リクルートし、DRAM開発にあたらせてきたCXMT(チャンシン・メモリー・テクノロジー)もJHICC同様、Micronから営業秘密盗用で訴えられている。

CXMTでInotera出身エンジニアが開発を行い続けていれば、次に米国政府の制裁を受ける可能性が高い。このため、Samsung Electronicsから一本釣りでリクルートした人材を中心とする開発体制を見直したようである。

しかも、元々の社名であったInnotronという社名はInoteraを連想させるためか、最近、CXMTという社名に変更している。同社は、David Wong社長(元SMIC社長や元Applied Materials米国本社 アジア担当副社長などを歴任)が引退し、経営陣の入れ替えも行った。こうした経営や開発体制の見直しのため、開発計画も遅れがちとなっている。少量試験生産をすでに始めているが、2019年の工場拡張計画は確定に至ってはいない。今後、DRAM発売に至ったとしても、先行DRAMメーカーから知的財産権侵害で訴えを起こされる可能性があるので、その対策も必要だろう。

SEMIも2019年の中国での設備投資状況を見直し

DRAMに特化したJHICCやCXMTとは異なり、3D NAND量産を担当するYMTC(清華紫光集団傘下)だけは予定通り、2019年半ばに月産2万枚(300mmウェハ換算)体制、そして2020年には月産5万枚の体制を構築するとしている。YMTCだけは、いまのところ、米国勢とのトラブルを抱えていないため、計画通りに量産が立ち上がるか否か注目されている。しかし、YMTCと言えども、 フラッシュメモリの供給過剰で価格低下を続けているメモリ不況下で採算度外視でビジネス展開するようなことをできる状況にはないだろう。

このような状況を踏まえSEMIも、2018年夏に米国で開催したSEMICON Westにて、「2019年は中国の半導体投資ブームがけん引役となり半導体製造装置市場も大きく成長する」としていた見方を、 2018年末に開催されたSEMICON Japanにおいて、「中国の半導体設備投資ブームは2020年~2021年にずれ込むため、2019年の世界半導体製造装置市場はマイナス成長に転ずる」と予測を修正している。米中貿易摩擦や中国経済減速で、半導体産業や半導体製造装置産業の先行きはますます読みにくくなってきている。

  • A@半導体製造装置市場推移

  • A@半導体製造装置市場推移

  • 世界の半導体前工程ファブ製造装置投資額(単位:10億ドル)の推移(2018および2019年は予測)。上は2018年7月に開催されたSEMICON WestでのSEMI発表資料。下は2018年12月に開催されたSEMICON JapanにてSEMI発表資料。青丸で囲まれた売上高はいわゆるメモリバブルによる売上高の増加見込み。赤丸は、中国の半導体設備投資ブームによって増加する売上高の見込み。比較すると、中国の半導体設備投資ブームが2019年から2020年以降に先送りされていることが分かる。下の図に、Correction in 2019とタイトルがついているのは、この修正のことを指す (出所:SEMI米国本部)