既報の通り、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月8日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する説明会を開催し、小惑星リュウグウへの第1回目のタッチダウン運用を2月18日~24日の間に実施する予定であることを明らかにした。着陸候補地は2カ所まで絞り込んでおり、どちらにするかは次回(2月6日)の記者会見で発表する予定だという。

着陸候補地に「L08-E1」が追加

同探査機は当初、最初のタッチダウンを2018年10月下旬にも実施する予定だったが、リュウグウ表面が想定以上に岩だらけだったため、3回目のリハーサル(TD1-R3)を追加で行い、タッチダウンは1月下旬以降へと延期していた。今回、2つの候補地のどちらが最善か判断するのにもう少し検討時間が必要と判断し、2月への先送りを決めた。

はやぶさ2の着陸時、高さ60cm以上の岩があると、本体に衝突する可能性があって危険。安全のためには、なるべく平坦な場所に降下する必要があり、運用チームは直径20mの「L08-B」と呼ばれる円形の領域を第1候補として、これまで検討を進めてきた。

しかし、リハーサル時に撮影した近接画像から地形図(Digital Elevation Map:DEM)を作成するなどし、より詳細に分析したところ、南側にいくつか大きな岩が見つかり、この領域を除外。少し狭くなった「L08-B1」領域を新たな着陸候補地として設定した。

  • はやぶさ2の着陸候補地

    着陸候補地の「L08-B1」と「L08-E1」。どちらも複雑な形をしている (C)JAXA

今回、もう1つの着陸候補地として追加されたのが「L08-E1」領域である。この領域はL08-B1に比べるとかなり狭いものの、リハーサルで投下したターゲットマーカーに近いというメリットがある。また、より平坦なことも有利な点だ。

  • リュウグウの3Dデータ

    画像から3Dデータを作成。L08-E1の方が平坦であることが分かる (C)JAXA

新たに追加されたL08-E1については、少し補足が必要だろう。この領域は幅6m程度と狭いものの、ターゲットマーカーからの距離も中心部で6mほどと近い。はやぶさ2の降下精度は、前回のリハーサルで15m程度だったが、タッチダウンではターゲットマーカーを目標として利用でき、その場合、精度はかなり向上するとみられる。

L08-E1であれば、ギリギリまでターゲットマーカーを視認しつつ降下できるが、L08-B1に向かうのであれば、より早い段階でターゲットマーカーが視野から外れることになる。前回のリハーサルでは、ターゲットマーカーを追跡する試験にも成功しており、ターゲットマーカーを目指した降下は問題無く行える可能性が高い。

広いがターゲットマーカーから遠いL08-B1、ターゲットマーカーに近いが狭いL08-E1。それぞれ一長一短あるため、どのようにしたら安全・確実に着陸できるか、降下シーケンスも含め、運用チームが現在検討中。今後、シミュレーションなどにより、信頼性を定量的に評価した上で、どちらか一方を選ぶ予定だ。

なお、以前の説明では、ターゲットマーカーを追加で投下することも検討しているという話が出ていたが、現在リュウグウ表面にある1個をそのまま使うことになったとのこと。L08-B1でも15mほどしか離れていないので、追加する必要は無いと判断した。

ミッションマネージャの吉川真氏(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)は、「初号機のタッチダウンは2回とも予定通りにいかなかったので、今回はぜひとも成功させて、サンプルを取得したい。しかしイトカワよりリュウグウの方がかなりハードなので、慎重にやっていきたい」とコメントした。

  • 吉川真氏

    吉川真氏(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)

またスポークスパーソンの久保田孝氏(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授)は、「合運用中の解析で、地形の詳細が分かってきたが、難しさも分かってきた。しかし今まで検討や訓練をいろいろやってきて、やっとその時期が来たと意気込んでいる。途中でアボート(中断)する可能性もあるが、慎重かつ大胆にやりたい」と述べた。

  • 久保田孝氏

    久保田孝氏(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授)

「オトヒメ」などの地名が決定

今回の記者説明会では、そのほか、合運用の結果や地形の命名などのトピックについても報告があった。

まず合運用は、予定通りに実行され、2018年12月29日に無事完了。安全確保のため、最遠点ではリュウグウから110kmほど離れたが、現在は高度20kmのホームポジションに戻っている。この間、4回の軌道制御を行った。

  • 合運用

    通信が途絶しても安全なように、太陽側に離れる軌道に投入された (C)JAXA

地球とリュウグウの間に太陽が入る合運用中は、通信が難しくなることが予想されていたが、ハイゲインアンテナを使ったところ、ほとんどの運用で、ある程度テレメトリは受信できたという。ただ、地球から見て太陽とリュウグウが最も重なった12月11日(角度は約0.5度)には、テレメトリはまったく受信できなかった。

ここで活躍したのが、電波の強弱だけで0/1を伝えるビーコン運用だ。8ビットの情報を5回繰り返し伝送し、受信した信号を重ね合わせるため、これだけで約10分もかかってしまうものの、合期間中でも、探査機から最低限の情報を得ることができる。12月11日にも、ビーコン運用により、探査機の状態が確認できたそうだ。

  • ビーコン運用

    ビーコン運用。8ビットで10分なので、通信速度は0.013bpsだ (C)JAXA

前述のようにタッチダウンは2月に延びたが、その代わり、1月はBOX-B運用を追加で行う。2018年8月に実施した1回目のBOX-B運用では南極側を観測したが、今回は逆側に移動して北極側を調べる予定だ。

またリュウグウ表面の地名については、JAXA側からIAU(国際天文学連合)に提案していたが、申請した13カ所のうち9カ所は提案通りに、4カ所は修正の上、認められたという。テーマは「子供たち向けの物語に出てくる名称」ということで、「浦島太郎」を始め、「金太郎」や「シンデレラ」などの物語から、名前が付けられた。

  • 13カ所の地名

    申請が受理された13カ所の地名 (C)JAXA

  • リュウグウの地名

    各地名のリュウグウ上の位置。ちなみにトリニトスとアリスの不思議の国は、それぞれMINERVA-II1とMASCOT着陸地点のニックネームで、IAUに認められた地名ではない (C)JAXA

南極にあるリュウグウ最大の岩塊(ボルダー)は、申請通り「オトヒメ」に名前が決まった。これまで、小惑星の地名では「Dorsum」(峰、尾根)、「Crater」(クレーター)、「Fossa」(溝、地溝)の3タイプしかなく、ボルダーは前例が無かったが、新たなタイプ名として「Saxum」を提案したところ、認められたという。

  • オトヒメ

    却下されたら「オトヒメ様」にするという"裏技"まで検討されていたが、無事受理された (C)JAXA

  • 野口里奈氏

    命名について説明する研究開発員の野口里奈氏

2月6日追記:記事掲載当初、リュウグウ表面の地名の1つを「トリニトス」と記載しておりましたが、「トリトニス」が正式名称であるため、関連する画像などを差し替えさせていただきました