航空業界がインテルならば20年で劇的な進化を遂げる?!
何年前か忘れたが、インテルの説明会で「CPUと同じようなイノベーションが航空業界で行われたら?」というスライドが出てきた(内容は単に航空機の速度が向上するだけでなく、並列化によって搭乗や降機の時間も圧倒的に短くなるというジョーク)。ただ飛行機を使う事で移動時間が短縮できるかと考えると、空港までの移動時間や搭乗待ち、搭乗にかかる時間が無視できないのである程度の距離でないとメリットがない。
国際線の場合はさらに保安上の問題があり、ゲートで再度搭乗券とパスポートの提示を求められ、スタッフは顔写真と当人の顔を照会して搭乗手続きが終わった人かどうかを確認している。このプロセスは筆者が海外旅行に初めて行った20年前と比較しても劇的に改善しているとは思えない。
この搭乗時の安全確認を顔認証システムを使って短時間で行う試行プログラムをロサンゼルス国際空港のターミナル4にてジェムアルトと大手航空会社が共同で行うという発表が昨年あった。
この取り組みを大雑貨に説明すると、航空会社のチェックインカウンターでICパスポートを読み取る際にICチップ内に入っている顔写真データを取得する。そして搭乗ゲートでパスポート顔データと搭乗者を映しているカメラで認証を行う。搭乗者や機内スタッフはホワイトリスト化して通し、逆にテロリストや要注意者はブラックリストとして警報を出すという仕組みだ。カメラで記録された画像情報は認証後にシステムから削除される。
ここで重要になるのがICパスポートというイノベーションと顔認証技術だ。パスポートという重要書類の偽造を難しくし、機械処理での取り扱い性を上げたパスポート規格が国際民間航空機関(ICAO)で規定され、日本でも2006年3月から交付を開始しており、パスポートのICチップ内には顔データも含まれている。
ジェムアルトの顔認証技術(LFIS)は米国国土安全保障省が行った「2018年生体認証ラリー」において、5秒未満で99.44%の認識率を達成している。これらの2つの技術が合わさった事で今回のような取り組みが可能になったと言える。平均的なスタッフがチェックするよりも短時間で同様の効果があれば効率化に繋がる。
チェックインカウンターでは既存のICパスポートリーダーを使ってデータを取得すればよいので、新たに機材を導入しなくてもよいのもメリットだ。搭乗ゲートでも顔認証のためのカメラと顔認証用のシステムを置けばよい。顔認証にはNVIDIAのGPUを使っているということで、モバイルワークステーションでも対応可能だ。システム的には最大100万程度まで顔情報を登録可能と言う。
この発表の数ヶ月前にジェムアルトの公共事業本部の方に話を伺う機会があり、ICパスポートや顔認証技術について聞いていた。
ジェムアルトの持つパスポート技術は一部コンポーネントまで含めると40を超えるICパスポートプロジェクトに関与したそうだ。一昨年には3Mのパスポートリーダー部門を買収しており、先に紹介したように米国国土安全保安省でのテストでトップクラスの独自の顔認証技術も持っているところからこれらの「セキュアドキュメント」をワンストップで提供できるところに意義があるように思える。
LFISのデモもモバイルワークステーションを用いて複数人の対象者・非対象者を判別していたので運用性はよさそうだ。LFISはソフトウェアエンジンのみの提供が可能でサーバーもオンプレミスだけでなく、クラウド提供も可能だという。
ICパスポートの発行が開始されて10年以上経過しており現在有効なパスポートの多くがICパスポートとなっている。ここ数年の顔認証技術の向上によって、実用的になったと言えるだろう。今回のイノベーティブな動きが一般に広く普及するイノベーションになるかどうかはわからないが、技術的には十分な下地が出来ていると感じる。