街をゆく人や電車に乗っている人が手にしているスマホを見ると、iPhoneが実に多いことが分かります。驚かされるのが、販売開始から2年が経過したiPhone 7世代の旧モデルだけでなく、3~4年前に登場したiPhone 6/6s世代の古いモデルを使っている人が少なくないこと。これら旧世代のモデルでも最新のiOS 12に無料でアップデートでき、各種アプリが問題なく使えることも、一度買ったiPhoneを大事に使おうという気にさせてくれるわけです。

しかし、最新のiPhoneはカメラ機能やセキュリティ機能など、表面的な呼び名こそ同じでも、得られるものや機能は格段に進化しています。「まだ使えるから」と古いモデルを使い続けるのは、少しもったいないかもしれません。

Appleでワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるフィル・シラー氏も、「歴代のiPhoneはすべて私たちに興奮をもたらしてくれる存在でしたが、とりわけiPhone XRは手にするとあらゆる部分であなたをワクワクさせてくれるでしょう」と語ります。多くの人が重視するカメラ機能を中心に、最新のiPhone XRに込められた進化のポイントをフィル・シラー氏に聞きました。

  • 9月に米国で開催した新製品発表イベントでiPhone XRについて説明する、Apple ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏

人間の脳が“美しい”と感じる写真にすべく改良した

iPhone XRで撮影を楽しんでいると、「室内や夜景がなんだかきれいに撮れるようになった」と感じることが増えました。これまでは、人工照明と外光が混在する状況などで色が転んで不自然な印象を受けたり、白飛びでディテールが失われる場面もありましたが、全般的にその場で見たままの表現で切り取れるようになったと感じます。

  • 帰宅を急ぐ途中で歩みを止め、iPhone XRでサッと撮影した夜景の写真。実にさまざまな種類の人工光源が存在する状況だが、構図だけを考えてシャッターを切ったら見た目通りの色合いや雰囲気に仕上げてくれた。特筆できるのが白飛びの少なさと精細感の高さで、照明で照らされた建物内の様子も確認できるほど。通りの奥の街灯や信号機はコマ収差が再現されているのもニクい

iPhone XRのカメラ機能について、フィル・シラー氏は「人間の脳が感じる“美しい写真”は、解像度の高さよりも色が重要であることが分かりました。iPhoneで素晴らしい写真体験を提供すべく、iPhone XRに採用したセンサーやA12 Bionicチップでは複数の異なる色温度の存在を理解できるようにし、自然なホワイトバランスや色合いで表現できるようにしました」と語ります。私たちが直感的になんだか変な仕上がりだな…と感じるホワイトバランスの狂いを、最新技術で解消したわけです。

iPhone XRで採用されたスマートHDRについては、異なる露出で撮影してシャドウとハイライトを捉える従来のHDRの手法ではなく、A12 Bionicチップがもたらす高度な機械学習が見たままの自然な印象の表現に寄与しているそう。

「雪が多くを占めるシーンを撮っているのか、風で草が動いているのかなどを理解するインテリジェントなシーン認識機能により、最適な露出の方法を決定します。そのうえで、すべての画像をA12 Bionicチップのニューラルエンジンが分析し、全体的に人間が心地よいと感じるイメージを生成する仕組みに改良しました。スマートHDRはすべてニューラルエンジンが司りますので、ユーザーが難しいことを意識する必要は一切ありません」(フィル・シラー氏)。

  • 新iPhoneの発表会で示されたスマートHDRの作例。撮影設定を自由に変えられるデジタル一眼でも難しいシーンだが、iPhone XRならばタイミングを見定めてシャッターを押すだけで撮れる

さまざまな交換レンズを集めてボケの表現を研究

iPhone 7 Plusから搭載されたポートレートモードも大きく進化しています。撮影後に絞り値を調整してボケの大きさを自由に変えられるようになったほか、人物の背景を黒く切り抜くステージ照明では、効果をリアルタイムで確認しながら撮影できるようになりました。フィル・シラー氏によると、多くの人が注目するボケの表現を大きく改良したといいます。

  • 新iPhoneの発表会で「Bokeh」(ボケ)というキーワードを出し、ボケ表現へのこだわりについて熱く解説するフィル・シラー氏

「iPhone XRの開発にあたり、私たちはボケについて熱心に研究してきました。さまざまなカメラと交換レンズを集めて光学的なボケの描写を検証し、デジタル技術でレンズのボケ効果を再現できるよう努力しました。また、A12 Bionicの処理性能向上により人物の認識性能が高まり、これまで難しかったメガネや髪の毛などの細かい部分の境界も違和感なく仕上がるようになっています」と語ります。実際の交換レンズを研究して製品開発に生かしていたのは意外でした。実際、写真の周辺部にある点光源は、ボケがレモンの形のようにゆがむ口径食がしっかり再現されており、表現がきわめて光学的だと感じました。

  • ポートレートモードで撮影した写真の絞り値を変えていったところ。絞り値を小さくするほど点光源のボケが大きくなるが、レモン型にゆがむ口径食が再現されていた

難しい&面倒なしに美しい写真を満喫できる

最後に「iPhoneのカメラ機能が目指していること」をフィル・シラー氏に聞いてみました。

「もっとも重要なのは、iPhoneを使えば誰でも美しく忠実な写真を撮影できることにあります。もちろん、難しい撮影技術を意識する必要は一切ありません。腕利きの写真家は、写真の知識やテクニックを生かしてベストな写真が撮れます。しかし、これまで成し得なかった高度な技術を盛り込んだiPhone XRのカメラなら、彼らのように撮影の難しい技法を知らなくても、まるで写真家が撮影したような写真が撮れます。しかも、撮影に余分な労力を費やす必要はありません」。

大切な思い出を撮影しっぱなしにして埋もれさせない工夫も、iPhoneが目指していることだと語ります。「もう1つ、写真アプリの『メモリー』がもたらす楽しい体験も重視しています。iPhone XRで撮影した写真や動画を機械学習で分析して最良のものを見つけ出し、雰囲気のある音楽とともに人生の楽しい瞬間をまとめてくれます。あなたに見せたいものが自動的に生成されるのです。もちろん、あなたは何もする必要はありません。iPhone XRのカメラで日々の写真を美しく残し、素敵な人生を楽しんでください」。

  • 写真アプリの「For You」内に自動で生成される「メモリー」。旅行や外出などでまとまった写真を撮影すると、ひょっこり生成されている

  • さまざまなイベントの思い出が、雰囲気のあるBGMとともに40秒程度の動画で振り返れる

鮮やかなカラーのポップな外観からは想像しづらかったのですが、カメラや写真の機能だけを見ても、最新のiPhone XRは予想以上の改良が加えられていることが分かりました。パワフルなA12 Bionicチップの存在を考えると、OSのアップデートでさらに画質や機能が向上する可能性は高いといえるでしょう。熟成が進んだ従来のiPhoneに対し、iPhone XRはカメラ機能などに今後のワクワクを残した次世代のiPhoneだと感じます。