PC業界で長い歴史を持つ東芝ブランドが消滅した――。

シャープが株式の80.1%を取得したことから、今後の動きが注目されていた東芝クライアントソリューション(TCS)。同社は事業戦略の転換に踏み切り、2019年1月より社名を「Dynabook株式会社」に変更すると発表し、「シャープ流」を採り入れることで事業拡大を図る姿勢を示した。

低迷の続くPC市場において、新生Dynabookは復活劇を見せられるのだろうか。

シャープ傘下の「Dynabook株式会社」として再出発する

「dynabook」ブランドを世界に展開

東芝PCの歴史は長い。1985年に世界初のラップトップ型「T1100」を、1989年には初代dynabookとなる「DynaBook J-3100」を発表した。パーソナルコンピュータの父とも呼ばれる科学者のアラン・ケイ氏が提唱した「ダイナブック」のビジョンに共感した東芝が、製品ブランドとして採用したのが始まりだ。

1989年発表の「DynaBook J-3100」

だが2019年1月にはTCSがDynabookに社名を変更(ブランド表記はdynabookを継続)し、PCから東芝のブランドは消えることになる。家電製品では中国の美的集団傘下の「東芝ライフスタイル」として東芝の名前が残ったのに対し、シャープは東芝の名前ではなくdynabookを存続させることを決断した形になった。

このdynabookブランドを、新会社は海外にも展開していく構えだ。TCSはPC事業の売上海外比率を2018年度の22%から2020年度には42%まで高める目標を掲げた。特に有望な地域としてアジアを挙げており、これはシャープを傘下に収めた鴻海のチャネルを活用できるためだという。

シャープや鴻海とのシナジーで海外展開を加速

だが、海外展開には大きな課題もある。TCSはdynabookを日本国内向けのブランドとして展開しており、海外ではほとんど知られていないからだ。主要な市場において商標の問題はクリアしているとのことだが、認知度を高めていくにはしばらく時間がかかりそうだ。

その先駆けとなったのが、2018年9月にベルリンで開催された見本市「IFA 2018」だ。シャープが出展したブースにはTCSのノートPCが並び、世界に向けてdynabookブランドをアピールしており、2019年からの新体制を見据えた布石になっていた。

世界に向けて「dynabook」ブランドをアピール(IFA 2018のシャープブース)

シャープのAIoTと組み合わせたソリューションが鍵に

当面の間、TCSの主力商品になるとみられるPCだが、世界のPC市場は低迷している。2018年第3四半期のPC出荷台数は米Gartner調べで前年比0.1%増、米IDC調べでは0.9%減となった。

特に個人向けPCは引き続き減少傾向にあるとされており、「リテールは非常に厳しいビジネスだ。売上は増えても利益は増えない。そこに勝算なく突っ込んでいくことはしない」とシャープ副社長の石田佳久氏は語っている。

一方、法人向けPCはWindows 10への買い替え需要が続く2020年までは比較的堅調とみられており、TCSもまずはB2Bを中心に展開するという。この点ではシャープがすでに持っているビジネスソリューションの販売チャネルを活用し、一定の売れ行きは見込めるようだ。

だが、その先を見据える上で重要になってくるのが、PC以外への製品ラインアップの拡大だ。すでにTCSはクラウドや教育向けなどさまざまなソリューションを展開しており、業務用デバイスとしては通信機能を搭載したドライブレコーダーなどを製造している。今後は、ここにシャープのAIやIoT技術を組み合わせていくというわけだ。

TCSによる損保会社向けドライブレコーダー製品

たとえばシャープは8Kの映像技術を活用したエコシステムを提唱している。8Kカメラと画像処理技術を組み合わせ、内視鏡や防犯、保守に活用できるという。カメラやセンサといったハードウェアに、クラウドやAIといったソフトウェアを組み合わせたソリューションの需要は世界中で高まっており、有望な分野といえる。

シャープの技術を組み合わせ事業領域を拡大

またTCSは、シャープによるAIを利用したサービス群「COCORO+(ココロプラス)」と連携したサービスの海外展開も目指すという。今後のスマート家電は単にネットにつながるだけでなく、人間に寄り添い支援する機能が期待されるだけに、日本のおもてなしやホスピタリティへの理解も相まって注目度は高い。

単純なハードウェアの開発競争では、スケールメリットを活かした中国メーカーの優位が続いている。Dynabookの生き残りには、シャープの技術を加えたソリューションを世界にアピールしていけるかどうかが鍵になりそうだ。

(山口健太)