クアルコムがハワイ・マウイ島で開催したプレスカンファレンス「Snapdragon Technology Summit」で、モバイル通信ネットワークに常時接続ができるPC向けの新しいプラットフォーム「Snapdragon 8cx Compute Platform」を発表しました。
「Always-On, Always-Connected」をコンセプトとしたいわゆる常時スタンバイ状態からの高速起動と、高速ネットワーク通信機能を搭載するモバイルPCというカテゴリは、2017年に開催されたこのSnapdragon Technology Summitで発表され、その後にASUSとHP、レノボがSnapdragon 835シリーズを搭載する製品を発売しました。
Snapdragonを搭載するPCは、2018年6月に台湾で開催されたComputexでベールを脱いだ「Snapdragon 850」をベースにした第2世代のモデルに発展。サムスンとレノボが商品をリリースしていましたが、Snapdragon 8cx Compute Platformはこれに続く最新世代のプラットフォームということになります。
中核となるSoCである「Snapdragon 8cx」のICチップは現在出荷が始まっていて、これを搭載するPCは2019年の第3四半期ごろの商品化が見込まれています。
Snapdragon 8cxのシステムはGPU「Adreno 680」のほかCPU「Kyro 495」、DSP「Hexagon 690」、画像処理プロセッサ「Spectra 390」、ギガビットLTE対応のモデム「X24」などいずれもクアルコムが独自に設計した基幹モジュールによって構成されています。
PC向けのチップとしては世界初となる7nmプロセスで製造されます。クアルコムテクノロジーズのProduct Management Senior Director、Miguel Nunes氏はその特徴について「パフォーマンスと消費電力をバランスを高次元で両立させることに腐心しながら開発を進めてきた」と述べています。
当イベントで発表された次世代のモバイル向けフラグシップSoC「Snapdragon 855 Mobile Platform」と同様に、モバイル通信ネットワークに常時接続できるPC向けのプラットフォームも「5G対応」は技術的に可能なのでしょうか。
基調講演に登壇したクアルコムインターナショナルのCompute Products SVPであるSanjay Mehta氏は、新しいプラットフォームがモバイルPCの5G対応への道を切り開くものであると意気込みを示しています。
Snapdragon 8cxのSoCに統合されているモデムのX24はギガビットスピードに対応していながら、通信規格としてサポートしているのは4G LTEまでになります。クアルコムではこれに5G通信に対応するモデムチップを組み合わせることも技術的に可能としていますが、それを実現する具体的な手段やデバイスについては今回のイベントの時点ではまだ詳しく触れていませんでした。
高性能なSoCの一角を司るCPUの「Kyro 495」は4つの高性能コアと4つの高効率コアを組み合わせた合計8コア構成になります。Nunes氏は「これまでにクアルコムが開発・設計してきたKyro CPUの中で最も高速・高性能である」と胸を張っていました。
GPUの「Adreno 680」についても、その処理性能がSnapdragon 835シリーズの約3.5倍、効率性は60%もアップしているとNunes氏が説明しています。全体のパフォーマンスが向上したことによって、今回のプラットフォームから満を持してマイクロソフトが展開する企業版のOS「Windows 10 Enterprise」に、Snapdragonシリーズとして初めて対応しました。メモリーインターフェースは64bitから128bitに拡大したことでパフォーマンスの向上が図られています。
バッテリー性能については、商品の最終設計やユーザーの使い方にも寄ってきますが、クアルコムではフル充電の状態から「Multiple days=複数日間」は常時スタンバイ状態のままバッテリーが枯渇しない仕様を確保したと説明しています。急速充電はクアルコムの規格であるQuick Charge 4+をサポートしています。
エンターテインメント系の機能はオーディオコーデック「Aqstic」シリーズのチップと組み合わせたことで、モバイルPCにアマゾンのAlexa、マイクロソフトのCortanaなど音声で操作するAIアシスタントを容易にビルトインできるようになるそうです。Bluetoothのオーディオコーデックも高品位な48kHz/24bitのワイヤレスオーディオ信号を伝送できるaptX HDにも対応しています。
デジタルインターフェースは第2世代のUSB 3.1 over Type-Cと第3世代のPCI-Eをサポート。最大2台までの4K/HDRディスプレイを同時につないで高精細な映像が出力できる機能をデモンストレーションの一角で紹介していました。
クアルコムのMehta氏は、これから5Gが本格的に立ち上がる勢いを背に、Snapdragonシリーズを搭載するモバイルPCも軌道に乗せていく考えを基調講演で語っていました。
ゲストとして出席したマイクロソフトとレノボもクアルコムの「Snapdragon 8cx Compute Platform」をパートナーとして、ともに支えていく姿勢を表明しています。PCメーカーの具体的な商品のアナウンスにも注目したいところです。