クアルコムが世界各国から330名を超える記者・アナリストを集めて第3回目の「Qualcomm Snapdragon Technology Summit」を、ハワイ・マウイ島のGrand Waileaホテルで12月4日から6日まで開催しています。

イベント初日となる4日の基調講演にはクアルコムのMobile SVP and General ManagerのAlex Katouzian氏が登壇。現行Snapdragon 845シリーズの後継モデルとなるモバイル向けフラグシップSoCの「Snapdragon 855シリーズ」を発表しました。

  • Snapdragon 855を発表したクアルコムのAlex Katouzian氏

Katouzian氏は次世代のフラグシップSoCの特徴について「マルチギガビット通信をサポートし、高速・高精度なAIエンジン、さらに没入感の高いXR(eXtended Reality)体験をサポートする高度な画像処理性能」などを強調しています。詳細な技術スペックの開示は明日以降に持ち越されることになりましたが、初日に明らかにされたチップの概要は次の通りです。

  • イベントの初日にはSnapdragon 855の概略のみアナウンスされました

データ通信はSnapdragon 855のチップ側で4G LTE/3G/2Gを含むマルチモードに対応しながら、5G通信を2016年秋に発表されたX50 5Gモデムチップとのコンビネーションで実現します。5G通信はすべてのミリ波と呼ばれる新しい高周波数帯「5G NR(New Ratio)」と6GHz未満(Sub-6)の周波数帯域を幅広くカバーしています。

第4世代にあたるAIエンジンはDSP/CPU/GPUの処理性能が上がったことで、前世代に比べると最大3倍のパフォーマンス向上が図られています。Katouzian氏は「同じく7nmプロセスによって製造されたライバルのSoCが搭載するエンジンに比べて2倍近いパフォーマンスを提供できるだろう」とし、競合に対する優位性をアピールしました。

ほかにも画像処理プロセッサはAIエンジンと連携しながら、カメラでキャプチャした動画・静止画データを元にした高度なマシーンラーニングをベースにした新たな体験が提供できるようです。

世界初となる、ディスプレイモジュールに組み込める超音波指紋認証のソリューション「3D Sonic Sensor」を開発していることについても短くアナウンスされました。こちらも明日以降に詳細が語られることを期待したいと思います。

  • クアルコムが独自に開発する指紋認証の新技術「3D Sonic Sensor」

スマートフォンもいよいよ「5G対応」へ

基調講演のステージには社長のCristiano Amon氏も立ち、5G対応のモバイル端末のリファレンスデザインを誇らしげに掲げました。このリファレンス端末はクアルコムが2018年の10月に香港で開催したSnapdragonの開発者向けイベントでプレビューしたものと同じですが、その“5G対応”が新しいSoCを軸とした「Snapdragon 855 Mobile Platform」により実現するものであることが、今回初めて明らかになった格好です。

  • クアルコムの社長、Cristiano Amon氏とSnapdragon 855 Mobile Platformを搭載したリファレンスデザイン

クアルコムはこれまでにも数々のイベントで5Gのリファレンスデザインを展示してきました。2017年のMWC上海で展示した巨大なプラットフォームが2年も立たずにスマホに近いサイズにまで落とし込めた背景には、2018年の7月に発表されたミリ波対応の小型アンテナモジュール「QTM052」が重要な役割を果たしているようです。最新の5Gリファレンスに関する詳細についても明日以降に明らかにされた情報を取材してお伝えしたいと思います。

  • 左側が2017年のMWC上海で発表されたクアルコムの5Gリファレンスデザイン。わずかな期間にスマホクラスのサイズにまで小型化を実現しています

  • 写真中央が最新のSnapdragon 855 Mobile Platformを採用したリファレンスデザイン

Amon氏は同社の5Gモバイルプラットフォームを活用することによって、端末メーカーは高度で複雑な設計技術を要する5G対応デバイスの開発を大幅に効率化できると述べています。

  • 2016年10月に発表されたX50 5Gモデムチップ

  • 2018年10月発表の小型アンテナモジュール「QTM052」

現在クアルコムとともに5G対応ソリューションの開発を進めるパートナーとして通信キャリアはAT&T、ボーダフォン、ドイツテレコム、オレンジ、EE(Everything Everywhere)、Telestra、チャイナモバイルのほか日本からはNTTドコモとKDDIの名前が壇上で紹介されました。

また5G対応のデバイスメーカーとしてはサムスン、モトローラのほかASUS、グーグル、LGエレクトロニクスにソニー、シャープ、シャオミ、OPPOの名前が挙げられています。

今回のイベントではサムスンが5G対応スマホのプロトタイプを世界初出展。コンテンツサーバーから送り出した4K動画を、本イベントのため会場に仮設されたVerizonの5G対応ネットワークシステムを経由して5Gスマホのプロトタイプで受けて、さらにDeX StationからHDMIケーブルで接続した4Kテレビに出画するデモンストレーションを行っていました。

  • 基調講演の話題の中心は「いまここにある5G」

  • 2018年はクアルコムにとっても5Gの発展に向けた収穫がいくつもある年になりました

  • 5G通信はそれぞれが複雑で多様性も富む技術を上手に束ねて提供できるかどうかが肝要とAmon氏が壇上で述べていました

基調講演にはSamsung Electronics AmericaからMobile Product Strategy and Marketing SVPのJustin Denison氏がゲストとして登壇。Denison氏はSnapdragon 855とX50 5G モデムを搭載する“5G対応”のスマートフォンを2019年前半にアメリカで発売すると予告しました。

  • Samsung Electronics AmericaのJustin Denison氏

なお展示されたプロトタイプのデザインは最終形のものではなく、スペック等の詳細についても現時点では明らかにされませんでした。2019年1月に開催されるCES、またはMWCで何らかの発表があるかもしれません。

  • サムスンが発表した5Gスマホのプロトタイプ

Amon氏はこれまでにもクアルコムが越えることは困難とされてきた通信技術の壁を克服しながらイノベーションを実現してきたことを振り返りながら、壇上で何度も「5G is here=いまここにある5G」を強調していました。

そのうえで、安定した高品位な4G通信の資産をベースにしたクアルコムの5G技術が、今後もモバイルに限らず、製造・建設、リテールにエンターテインメント、コンピューティング、自動運転など様々な分野に応用できると期待感を語りました。

  • 「ミリ波では無理」「端末が大きくなりすぎる」など、5Gの実現に向けて“難関”とされてきた課題をクアルコムがことごとくクリアしてきたことをAmon氏は壇上でアピールしていました

  • 5G技術のメリットを最大化できるミリ波の技術をベースにしたスマホを実現するためにも、クアルコムは試行錯誤を繰り返しながら「Snapdragon 855 Mobile Platform」を整えてきました。その詳細については本イベントの2日目以降に明らかにされる予定です