米国航空宇宙局(NASA)は11月30日、2019年から新たに開始する「Commercial Lunar Payload Services(商業月面輸送サービス:CLPS)」プログラムで採択した9企業を公表した。契約金の総額は、10年間で26億ドル(1ドル=113円換算で約2940億円)。これまで半世紀以上、月探査は国家が主導してきたが、今後は民間が重要な役割を果たすようになる。
CLPSプログラムの選定企業として、NASAが発表したのは以下の9社。この中のDraper研究所のチームには、日本のispaceが入っており、ランダーの設計や、ミッション運用などを担当する計画だ。そのほかリストには、AstroboticやMoon Expressなど、月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」の参加チームの名前も見える。
- Astrobotic Technology
- Deep Space Systems
- Draper研究所
- Firefly Aerospace
- Intuitive Machines
- Lockheed Martin Space
- Masten Space Systems
- Moon Express
- Orbit Beyond
Draper研究所のチームには、ispaceのほか、General AtomicsとSpaceflight Industriesという米国企業2社も参加。契約主体者のDraper研究所はランダーの航法誘導制御システム、General Atomicsはランダーの製造、Spaceflight Industriesはロケットの調達などを担当する。
10年間の総額は26億ドルと決まっているものの、月面に輸送する回数や荷物は未定。ミッションの都度、各社から提案を受け、契約する企業を選定することになる模様だ。なお、今回の採択にあたり、各社には「2021年末までに、最低10kgのペイロードを月面に輸送できる能力」が求められていたという。
ispaceはもともと、独自の月周回ミッションを2020年半ば、月着陸ミッションを2021年半ばに実施する計画で、準備を進めていた。Draper研究所との協力関係は、この独自ミッション「HAKUTO-R」の遂行ために進めていたものだったが、まさにぴったりのタイミングでCLPSプログラムが出てきたと言えるだろう。
1つ注目して欲しいのは、NASAが購入するのはランダーなどのハードウェアではなく、荷物を運んでくれるサービスであることだ。民間に資金を提供して競わせ、アイデアや技術を最大限に活用する手法で、NASAは低コストで必要なサービスを入手できるし、民間は開発資金を得ることができる。お互いにメリットがあるのだ。
NASAは国際宇宙ステーションへの輸送についても、「Commercial Orbital Transportation Services」(COTS)、「Commercial Resupply Services」(CRS)、「Commercial Crew Program」(CCP)というプログラムを相次いで実施し、SpaceXが躍進する原動力ともなった。今回のCLPSは、それを低軌道から月面まで延長したものと見ることができる。
NASAが求めるのは輸送サービスであるため、HAKUTO-Rのペイロードの一部をNASAに提供するような方式も可能だ。ただ、CLPSでは「機体の製造を米国で行うこと」「構成部分の50%以上が米国製であること」などの条件がある。HAKUTO-Rのランダーは日本国内で製造する予定だったが、もしCLPSで使うことになれば、米国で組み立てる必要がある。
ispaceはこのCLPSプログラムに参加することで、「NASAとの協業は多くの知識共有をもたらし、ノウハウ蓄積と開発を加速させることができる」(同社広報担当の秋元衆平氏)と見る。
同社は2020年と2021年のHAKUTO-Rで技術を実証し、その後、月面への輸送サービス事業を本格化する計画を打ち出している。すでにこの2回のミッションのために、約100億円の資金調達に成功しているが、事業化のためには安定した顧客の獲得が必要。政府系機関からの継続的な受注は、資金的にも大きな追い風となる。
なお、前述のように月面に何を運ぶのかはまだ明らかになっておらず、どの企業がいつ受注できるかも決まっていないものの、同社は基本的に、HAKUTO-Rのランダーの設計をベースに、CLPS用のランダーを開発していく方針。多くの有力企業が並ぶ中、NASAからの受注を獲得できるか注目だ。