日本マイクロソフトは11月29日、デジタルテクノロジーを活用して、子どもや若者の成長、そして可能性の拡大を目的とした、コンピューターサイエンス教育の普及に向けた取り組みを発表した。
2020年度には小学校プログラミング教育の必修化が始まり、2024年度には大学入試試験にコンピューターサイエンスが出題されるという。これらの社会変革を踏まえた同社は、ICT CONNECT 21、ユニバーサル志縁センター、育て上げネットと連携して、「Minecraftカップ2019全国大会」の開催と、就労支援施策「若者TECH」を実施する。
日本マイクロソフトは今回の取り組みに対して、「日本の将来を担う子どもや若者たちに必要なスキル形成、活躍の場を提供して、日本政府が掲げる『Society5.0』の文脈で日本の社会変革に貢献したい」(日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏)と述べた。
これまで日本マイクロソフトは、教室の壁を乗り越えた教育体験を提供する「Skype in the Classroom」や、全国158名のマイクロソフト認定教育イノベーター 認定教員が中心となって、理論的思考教育の学習案や活動レポートを共有する教育研修、毎年世界180カ国以上、約4億人の子どもたちが参加してコーディングを体験する「Hour of Code」など、教育分野へ強い取り組みを行ってきた。
今回新たに実施する「Minecraftカップ2019全国大会」は、約9,100万人の月間アクティブユーザーを持つMinecraft(マインクラフト)の教育版「Minecraft: Education Edition」を利用。今後開催する日本国内のスポーツイベントを踏まえて、「子どもたちの表現できる場を提供したい」(平野氏)の思いから、スタジアムや運動場といったスポーツ施設のある街に暮らす人々が、充実した暮らしを実現するワールドの作成内容を競う。
参加条件は15歳以下の男女で構成された3名以上のチーム、およびコーチング役となる成年者。2019年3月10日に参加社向けオープニングイベントを開催し、同日から6月30日までを応募期間として、現時点では7月に審査・受賞者を決定する。8月には授賞式の開催を予定している。
日本マイクロソフトによると、Minecraft: Education Editionは教育機関向けソリューション加入契約が必要なため、このようなイベントには利用できないのだが、大会開催中は特別なライセンスを用意するとのことだ。
Minecraftに関する説明は不要だと思うが、平野氏の手元には、岩手県の小学3年生からMinecraftに対する機能リクエストを書いた絵はがきが届いたという。平野氏は「お子さんのMinecraftに対する熱い思いを感じた」と述べる。今回、日本マイクロソフトは製品・技術の協力、ユニバーサル支援センターは事務局および困難を抱える子どもへの参加支援、ICT CONNECT 21は教育委員会・学校への参加支援を担う。大会参加チームは全国200チームを目標とする。
日本マイクロソフトは11月29日、デジタルテクノロジーを活用して、子どもや若者の成長、そして可能性の拡大を目的とした、コンピューターサイエンス教育の普及に向けた取り組みを発表した。
就労支援プログラム「若者TECH」は、突発的な取り組みではない。日本マイクロソフトは2010年から育て上げネットとともに、Officeアプリケーションの活用スキル向上支援や、東日本大震災時の就労支援、テレワークインターンなど多様な取り組みを行ってきた。
その結果は2018年7月に厚生労働省の「地域若者サポートステーション」に引き継がれ、新たな施策として今回のプログラムを実施する。「すべての若者が自分らしい働き方を選択し、働き続けるためのスキル形成を支援」(平野氏)を目的とした本プログラムは、政府が定義した15歳から44歳までを対象にしている。
すでに2018年4月からトライアルを開始済みで、2019年1月の本格展開を目指す。取り組みは育て上げネットが中心となり、日本マイクロソフトは運営支援や技術サポートを実施する。
各取り組みに参画する関係者の発言も紹介しよう。
Minecraftカップ2019全国大会の運営に携わるユニバーサル志縁センターは、「日本マイクロソフトとは東日本大震災や熊本地震などにおいて、一緒に支援活動を行ってきた。今回の大会開催は、マイクロソフト認定教育イノベーター 認定教員とともに取り組む」(ユニバーサル志縁センター 専務理事 池本修悟氏)。
同じく運営および「プログラミング教育導入支援ハンドブック2019」「Minecraftカップ2019全国大会ハンドブック(仮称)」の制作に携わるICT CONNECT 21は、「(現在の指針に対して)論理的思考を育てるのが主な目的となるプログラミング教育を、どのように位置付けるのかは難しい。諸外国のプログラミング教育は独立科目だ。両方の目的を達成する上でイベントが生きてくる」(ICT CONNECT 21会長、日本教育情報化振興会 会長、東京工業大学名誉教授 赤堀侃司氏)。
実行委員長を務める鈴木寛氏は、「デバッグという考え方が重要で、間もなくPDCAの時代は終わる。完全なプランは実装しないと分からないから『走りながら取り組む』べき。デバッグという概念はプログラムの世界に限らず、あらゆる場面に必要だ」(東京大学教授、慶應義塾大学教授 鈴木寛氏)と語った。
若者TECHを提供する育て上げネットは、「企業とNPOの連携は持続性に欠けるため、本プログラムを通じて成功モデルを創り、国の政策に反映させたい。今回は1万人への提供を目標とするが、最終ゴールは日本中の若者が機会を享受する社会を目指す」(育て上げネット 理事長 工藤啓氏)と述べている。
海外先進国では、“Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)”分野を総称するSTEM教育を以前から推進してきたが、日本の教育体制は現時点で肩を並べるどころか、後塵を拝する状況は何も変わっていない。
プログラミング的思考=理論的思考を、早期から体験して学ぶ重要性は改めて述べるまでもない。今回の日本マイクロソフトおよび各NPO団体による取り組みが、未来の日本をIT先進国に押し上げるきっかけや、リカレント教育(回帰教育)の定着につながることを期待したい。
阿久津良和(Cactus)