米ハーバード大学の研究チームは2018年11月12日、2017年に史上初めて観測された恒星間天体「オウムアムア」は、ソーラーセイル(太陽帆)のような姿かたちをした天体だったのではないかとする論文を発表した。同日発行の天文学系の論文誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

オウムアムアは太陽から離れていく際に謎の加速をしており、それを説明する仮説として、太陽光の圧力で加速しているのではと提唱。もしそうだとしたら、未知のプロセスで生成された天体か、もしくは宇宙人が造った人工物である可能性もあるとしている。

  • 恒星間天体「オウムアムア」の想像図

    恒星間天体「オウムアムア」の想像図 (C) European Southern Observatory/M. Kornmesser

オウムアムアは彗星? 小惑星?

1I/2017 U1 オウムアムア('Oumuamua、ハワイの言葉で「遠方からの斥候・使者」)は、2017年9月9日にハワイのパンスターズ1(Pan-STARRS-1)望遠鏡によって発見された天体で、同10月19日にその存在が発表された。軌道などの分析から、太陽系の外からやってきて、太陽を回ってまた太陽系外へ出ていく軌道をもつ「恒星間天体」であることがわかり、人類の観測史上初めての発見に、大きな話題となった。

発見された時点で、すでに太陽への最接近から40日が経過しており、太陽に対して秒速約38kmという猛スピードで、太陽系外に向けて抜けていく軌道に乗っていた。2018年5月には木星軌道を超え、2019年1月には土星の軌道も超えると予想されている。

地球から観測できる機会は限られていたが、それでも、おおまかな寸法や、太陽系外縁部で生成される天体に近い色をもつこと、そして岩石や金属などでできた密度の高い天体であることなどが推定されている。また、天体は回転しているとみられ、さらにその回転に伴う明るさの変化から、葉巻のような細長い形状をしている可能性があることもわかっている。

発見当初、オウムアムアの正体は彗星だと考えられていた。かねてより、太陽系の外縁部で生成された彗星が、他の惑星の重力の影響など、ひょんなことから軌道が変わって、恒星間空間に飛び出すことがあるのではとは考えられていた。また、小惑星でも同様に、大きな惑星の重力に弾き飛ばされるなどし、恒星間空間に飛び出すことは考えられるものの、彗星のほうがその数は多いと考えられている。

それが他の惑星系でも起こり、そしてはじき出された彗星が、遠路はるばる太陽系にやってきたのではと考えられたのである。

しかし、望遠鏡で観測した結果、オウムアムアからはガスを放出したり(アウトガス)、塵が取り巻いたりといった、彗星特有の痕跡が見られなかった。とくに、観測された時点ではすでに太陽の近くを通り過ぎたあとだったため、仮に彗星だとしたら、ガスを噴出しているはずだった。そのため、オウムアムアは彗星ではなく、恒星間小惑星として分類されることになった(さらにその後、新たに作られた「恒星間天体」というカテゴリーに分類されている)。

ところが、さらにその後の観測で、オウムアムアが謎の加速をしていることが判明した。太陽から離れていく天体は、太陽や惑星の重力の影響で徐々に速度が落ちていく。しかし、そうした重力の影響のみを受けているとした場合の軌道の予想と、実際のオウムアムアの辿る軌道にわずかにずれがあった。これはオウムアムア自身が加速していると考えなければ説明がつかなかった。

そのため、今年6月には、欧州宇宙機関(ESA)などの研究チームが、「やはりオウムアムアは彗星で、ガスを噴出したことで加速したのでは」とする論文を発表している。

  • ガスを出して加速するオウムアムアの想像図

    ガスを出して加速するオウムアムアの想像図 (C) ESA/Hubble, NASA, ESO, M. Kornmesser

オウムアムアはソーラーセイルのような天体?

しかし、ハーバード大学のShmuel Bialy氏とAbraham Loeb教授は、それに異を唱える論文を発表した。

タイトルは「Could Solar Radiation Pressure Explain 'Oumuamua's Peculiar Acceleration? (太陽輻射圧力はオウムアムアの特異な加速を説明できるか?)」で、ガスの噴出以外にこの加速を説明する可能性として、太陽の光の圧力を受けたためという仮説を挙げている。

彼らはまず、「もし彗星だったとしたら、なぜ太陽通過後の観測でガスなどの噴出が見られなかったのか」と指摘。また、前述のようにオウムアムアは回転していることが観測されているが、「ガスが噴出したのだとしたら、回転速度や方向に大きな変化が見られるはずだが、観測できていない」とも指摘している。

そこから、太陽光の圧力でこの加速が説明できないか、またそのためにはどのような仕組みが必要で、それは成立しうるものなのか、という検証を試みている。

太陽光の圧力はとても弱いため、オウムアムアが観測されたほどの加速を得るためには、直径約20m、厚さ0.3~0.9mmほどの、まるで「ソーラーセイル(太陽帆)」ような、薄くて軽い天体である必要があるとしている。

また、仮にそのような天体だとした場合、長期の恒星飛行や、観測されているオウムアムアの回転速度などに耐えられるのかといったことも検討されており、可能だと結論づけている。

しかし、オウムアムアの質量の推定値はとても重く、また現在知られている小惑星や彗星の生成プロセスからも、ソーラーセイルになれるほどの薄くて軽い天体は生まれないとしている。そのため、星間物質や原始惑星系円盤から未知のプロセスを経て生成された、ごく薄い物質で構成されていると考える必要があるという。

  • ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTが撮影したオウムアムア

    ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTが撮影したオウムアムア (C) ESO/K. Meech et al.