オウムアムアは異星人の探査機なのか?
そして、もうひとつの可能性として挙げられているのが、人工物であるという説である。
Loeb教授らの論文では、たとえばオウムアムアが太陽から0.25AUという、熱や重力の影響がほどよい距離を通過するとともに、地球に最大0.15AUまで近づくという、まるで地球の観測に合わせたかのような軌道を辿ったことから、その可能性は否定できないとしている。
また、オウムアムアの軌道が恒星間天体としてありふれたものだとしたら、他にも同じような天体が数多く観測されているはずであるものの、いまだオウムアムアしか観測例がないことは、オウムアムアの軌道が特異なもの、すなわち人工的に調整されたものと考えることができるとも述べられている。
さらに、望遠鏡からの観測で太陽系外縁天体のような特性を示したのも、長期間の宇宙航行で、その表面に星間物質が付着したと考えられるという。
一方、オウムアムアからは電波が出ていることが確認できていないことから、生きた探査機ではなく、その残骸のセイルが太陽系に流れてきたという可能性もあるとしている。
もっとも、あくまでこの論文は、オウムアムアの加速は太陽光の圧力によるものと仮定しても説明がつく、ということを示しただけで、実際に太陽光で加速していることが確認されたわけではなく、ましてや人工物である証拠もなにもない。また、そもそもオウムアムアの観測も不十分であることから、Loeb教授らの研究や検証のもとになっている値なども不確実性が大きい。
ただ、自然物であれば、それを生み出せる未知の天体現象の研究が起こりうるのかといったことや、人工物とすれば、他の惑星系まで飛行して探査するソーラーセイル探査機が技術的に成立しうるのかといった、研究を引き起こすきっかけにはなるかもしれない。
ソーラーセイルはかねてより、ロケットを使わずに宇宙を飛ぶ方法のひとつとして知られており、日本が打ち上げた実験機「IKAROS」などで実証例がある。
また太陽光ではなく、強力なレーザー光を当てることで、ロケット以上の加速を得るという方法もある。実際に、天文学者などからなる研究団体ブレイクスルー・イニシアティヴズ(Breakthrough Initiatives)は、その方法でケンタウルス座アルファ星へ超小型探査機を送り込もうという「ブレイクスルー・スターショット(Breakthrough Starshot)」という計画の研究も進んでいる。
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天文学者などからなる研究団体ブレイクスルー・イニシアティヴが検討している、系外惑星を探査するソーラーセイル「ブレイクスルー・スターショット」の想像図 (C) Breakthrough Initiatives
出典
・Could Solar Radiation Pressure Explain 'Oumuamua's Peculiar Acceleration? - IOPscience
・Interstellar asteroid is really a comet / Space Science / Our Activities / ESA
・First Known Interstellar Object Gets Unexpected Speed Boost | NASA
・Interstellar Asteroid FAQs | NASA
・In Depth | Oumuamua - Solar System Exploration: NASA Science
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
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Twitter: @Kosmograd_Info