杢中「協業を始める少し前、2013年ごろなんですが、一度パナソニックさんから一緒にフルサイズのAFシステムをやらないかとお誘いがあったんですね。

そのとき当社はライカTもSLも出す前で、むしろ市場のカニバリゼーション(自社製品どうしで市場を食い合うこと)を起こすのではないかとリスク面を警戒して、また、当時はデジタルカメラ市場も伸びておりましたので……。それに、ライカはインディペンデントでやるべきだという志向が強くて、そのときは一旦お断りしているんです。

ただその一方で、ライカ社も現在はデジタルカメラが主流になっていますが、デジタルになってから開発投資が大きくなり、非常に苦労していました。社内では色々議論がありまして、ドイツの自動車メーカーでやっているようなプラットフォームの共用化みたいなことができないかと、色々検討していたんです。

そして2015年にフルサイズミラーレスのライカSLというプロ用カメラを発売します。これが我々としては自信満々の商品だった一方、プロ用といえるだけのしっかりとしたレンズラインナップを自社だけでそろえていくことに非常に苦労しまして、まだ時間がかかるなぁと。

そんなときパナソニックさんからLマウントを使わせてほしいと申し入れがあり、我々もそのときには考えが変わっていて、やっぱり単独でやるよりも協業システムを構築することが大切なんじゃないかと。じゃあ、一緒にやろうじゃないかという風に前向きに検討を始めました」

  • ライカカメラ ドイツ本社 プロダクトマネージメント主席 日本代表窓口 杢中薫氏

石田「Lマウントの優位性について、改めて知りたいのですが」

杢中「Lマウントの起こりはですね、2010年ごろだと思うんですが、M型ライカのMマウントのAF化を真剣に検討したことから始まります。ただそのときは、Mマウントは口径が非常に小さいことから、AF化するとレンズが大きくなってM型ライカの魅力を損ねるという意見が出て、見送りになりました。

一方、X1というAPSセンサーを積んだ業界初のコンパクトカメラというのを発売していたんですけど、これは非常に評判が良かった。そこで、APS-Cのレンズ交換機をやろうじゃないかということになった。じゃあ、新しいマウントを作ろうとなり、であれば、理想を高く掲げて、将来性のある動画への展開などに対応したしっかりしたものを作ろうということになりました。これがLマウントです。

当初からAPS-Cと共用できるマウントとして考えていまして、51.6mmという口径はフルサイズの大口径レンズの小型化にも寄与しますし、APSの小型カメラを作る上でも邪魔にならない大きさとしています。

フランジバックは20mmと短く設定して、レンズの小型化に有効でかつアダプターを通じてさまざまなフォーマットで使える可能性を残しています。電子接点は10個ありますが、これは高速AFを実現すると同時に今後の革新にも対応できる拡張性を持たせるフォーマットです。

今年のフォトキナでも各社から新しいフルサイズ用フォーマットが発表されましたが、我々のフォーマットと見比べると、4年前に作ったLマウントの考え方はやはり間違っていなかったと改めて感じています」

石田「続いて、パナソニックはシグマに声をかけたんですよね?」

山根「フルサイズを市場に出すにあたって、市場のプレゼンスを上げていかないとお客さまに注目してもらえないと思っていました。その点で、シグマさんは非常に高い光学技術力とユニークな表現力で今まさに業界で注目されているメーカーさんです。

そのシグマさんと協業することで、市場のプレゼンスが上がっていくのではないかと考えました。そこでライカさんにお声がけした翌月のCP+の会場で、シグマ社長の山木(和人)さんにですね、お声がけをした。去年(2017年)の2月ですね」

石田「ライカに申し込んで、すぐに取って返してシグマに行ったという感じですね」

山根「ライカさんに、まだ何の許可ももらってませんでしたが」

石田「そこがちょっと不思議なんですけど(会場笑)。ところで、この協業の形はこの3社で終わり、ということではないんですか?」

杢中「ライカカメラ社としては、Lマウントはライカカメラ社が持っている規格ですし、こんな経緯から、現状はパナソニックさんとシグマさんの2社にライセンスしています。

将来的にお客さまのメリットがあるのであれば、他社さんにもご参加いただく可能性はあると思います。現在は発表しただけで、まだ(ライセンス)商品もないという段階ですので、今しばらくはこの3社でLマウントのポジションを確立することに注力したいと考えています」