昨今、「クラシック」や「ミニ」などと称して、往年のゲームハードを小型化したゲーム機の販売が続いています。潮流の先駆けとなったのは、2016年11月10日に任天堂から発売された「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」(以下、ミニファミコン)に間違いないでしょう。この時は、生産終了までに230万台が販売され(※1)、発売当初は全世界で入手が困難となる程の人気でした。つまり、任天堂が想定していた以上に需要があったということです。

実際、「クラシック」シリーズ第2弾となった、「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」は、2017年10月5日に発売がはじまってから2018年3月31日までに全世界で累計販売数528万台(※2)を記録しています。なお、2018年6月28日よりミニファミコンの販売も再開しました。

ミニファミコン ©Nintendo
ミニ スーパーファミコン ©Nintendo

このような中、かつて、ゲームハード競争のライバルとしてしのぎを削っていたセガゲームスが「メガドライブ ミニ(仮)」の発売を決定。さらに、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)からは、2018年12月3日に「プレイステーション クラシック」(以下、PSクラシック)の発売が控えています。

メガドライブ ミニのイメージ ©SEGA
PSクラシック
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Design and specifications are subject to change without notice.

往年の作品を再販売するというのは今回に限ったことではありません。ソフトに限れば、ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)は「ナムコミュージアム」と称して、80年代にゲームセンターで一世を風靡したゲームタイトルを、プレイステーション向けに販売。この他に、ファミコンのタイトルを携帯型ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」向けにリメイクした「ファミコンミニ」シリーズなども2004年にリリースされ、話題となりました。また、往年人気を博した多くのソフトが、最新プラットフォーム向けにダウンロード販売されています。では、これらの試みと、前述の展開とでは何が違うのでしょうか?

「エモさ」がゲーマーの食指を動かした

今回流行している商品群の特徴を、一言で表現すると「エモさ」につきます。とりわけ、これらのハードをかつて実際に所有していた、30代から40代の年齢層に対してです。というのも今回は、ソフトのみが提供されているのではなく、ハードの外観から、外箱パッケージデザインに至るまで、発売当時のものを再現しているのです。ゲーマーにとって、ゲーム体験は、パッケージをショップで手に取った瞬間からはじまるわけですが、これらの商品開発者はまさにその瞬間を再現したかったのでしょう。

PSクラシックのパッケージ
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さらに、内蔵されたソフトのラインアップも、細心の注意を払ってキュレーションがなされているように見受けられます。とりわけ多くの人にとって思い入れが強いであろう作品をセレクトしているのです。

ミニファミコンを例にとると、任天堂およびセカンド・パーティタイトルとしては、最初期のラインアップだった『ドンキーコング』からはじまり、社会現象となった『スーパーマリオブラザーズ』、そして後半期に話題となった『星のカービィ 夢の泉の物語』まで、サード・パーティタイトルも往年の名作と言える『パックマン』から、傑作アーケードゲームの移植タイトルである『魔界村』や『スーパー魂斗羅』、さらには、ファミコンとともに育まれたIPとも言える『ファイナルファンタジーⅢ』など、ソフトの発売時期、開発元に関わらず「エモい」作品の数々が一堂に集結しているのです。

とは言いながら、全てを当時のままに再現しているわけではありません。ソフト内蔵からはじまり、HDMI接続、手のひらサイズ化、常時セーブ機能設置など、ゲームプレイをセットアップするうえでの「煩雑さ」は完全に排除されました。その結果、プラスの想い出は拡張されながら、マイナスの想い出は除かれる――。まさにこれらのハードは、往年のゲーマーにとっての「エモい」が、そのまま物質化されたものと言えるでしょう。

SIEもその点を充分理解しており、PSクラシックのマーケティング戦略も、まさにかつてのユーザー層に「エモさ」を訴求する手法を採用しています。まずは、発売予定日。オリジナル機が初めて発売された日、すなわち、12月3日にあわせてきました。さらに、関連広告もオリジナル版発売時にお茶の間を席巻した「1・2・3」を連呼する広告に極めて近いものを展開。当時の興奮を完全再現しています。

新規ユーザーにも受け入れられる「アートスタイル」

もちろん、往年のユーザー層に「エモい」体験だけを与えることが、結果につながっているわけではありません。これら各世代で生まれた作品群のサウンドやグラフィック表現が、アートスタイルとして確立したことが、新規ユーザーを取り込むうえで重要な役割を果たしたと思われます。

ファミコン時代やスーパーファミコン時代を象徴するグラフィックは「ピクセルアート」として、サウンド表現は「チップチューン」として、そのスタイルが普及しました。一方、プレイステーション時代の3D表現は「ポリゴンアート」として整理されつつあります。

昨今、個人や小集団でゲームを開発するインディーズのムーブメントが広がっていますが、これらのムーブメントにおいて、前述のような表現を「スタイル」と捉えて、ゲーム開発を進めているチームも多く、これらのジャンルが現在のゲーマーにも受け入れやすくなる土壌を作り上げました。

その結果、若いユーザーが、クラシック型ゲームハードやソフトを「懐古モノ」としてではなく、「ある種のスタイル」として認識させるに至っています。もちろん、各ゲーム機のためにセレクトされた作品のゲームデザインも洗練されており、初めてプレイする若い人たちでもじっくりと楽しめるものばかりであるということも重要です。

親子二世代で楽しめるクラシック型ハードのこれから

上記の理由から、親世代が買ってきたものでも、家族全員で楽しめるものになっていることがわかります。最近は「戦隊ヒーロー物」などを親子二世代で楽しむという現象が話題となっていましたが、「クラシック」型ハードは、まさにゲームを親子二世代で楽しめるものにしたと言っても過言ではないでしょう。

スーパーファミコンが全世界で4910万台が販売されていたことを踏まえると、スーパーファミコンミニはその1割に当たる台数を販売したことになります。これはまさに「エモい」体験を望んだこれまでのユーザーと、温故知新を求めた新規ユーザーが購入したことで実現された結果と言えるでしょう。一方、プレイステーションは全世界での累計生産出荷台数が1億台を突破している(※3)と言われていますが、「PSクラシック」がこれまでの「クラシック」型ハードの累計販売台数の記録を更新するかどうかに注目が集まります。

<参照元>
※1 IGN.com 2017年4月の報道による
※2 任天堂 平成30年3月期 決算短信 による
※3 Sony Computer Entertainment 2004年5月19日の報道による(初代PSおよびPS oneの合計)

(中村彰憲)