拠点を台湾に選んだ理由
世界的にみて、ハードウェア製造の中心は中国深センを中心とする沿岸部に集まっています。そんな中、CANDY HOUSEが生産拠点に選んだのは台湾でした。CANDY HOUSEの創業者・Jerming(ジャーミン)氏が台湾出身ということだけでなく、台湾ならではの安さ、時間、品質のバランスを考慮した結果、ハードウェアスタートアップのニーズにマッチしたといいます。SESAME mini製造の流れに沿って、各工場を順番にのぞいてみましょう。
SESAME miniのようなハードウェアを製造するにあたって、最初に行うのがプロダクトの試作。近年は3D CADで設計したあとに3Dプリンターを使用して、筐体などを試作する流れになっています。それを担当しているのが、台北の北部で学生街に居を構える企業「RealFun」です。
RealFunは、3Dプリンターでお風呂の排水溝の製作などを受けもつ企業。FDM(熱溶解積層法)タイプの3Dプリンターを約20台、レーザーで素材を焼結させるSLM(粉末焼結積層造形)タイプの3Dプリンターを5台所有しており、注文して24時間以内にサンプルができあがるそうです。
最近は3Dプリンターを自社で所有し、社内で試作する企業も増えています。しかしジャーミン氏は、3Dプリンターによるプロトタイプ作りは、専門ノウハウがあるRealFunに依頼するほうが効率がよいと語りました。
「日本国内にも3Dプリンターで試作品を作ってくれるところはありますが、RealFunは安く、早い。専門スタッフがバリ取りや磨き工程を行ってくれるので、社員は設計に集中できます」(ジャーミン氏)
安く早く、プロトタイプを作れる台湾だからこそ、設計段階で試作を重ね、製品の品質を高められるのです。
試作品ができあがったら、製造工程に入ります。製造工程は、金型を使う筐体などの各種パーツ製造と、SESAME miniの動きを制御する回路基板の設計があります。まず、プラスチック部品の製造を担当しているのが「謹良實業股份有限公司(GINLIAN)」です。
謹良實業股份有限公司(GINLIAN)は、金型製造から射出成形(金型を用いた成形法の1つ)まで、プラスチック部品の製造を自社で手がけています。東芝や富士通といったPCメーカーのOEM、ODM製造を受けもつ廣達(Quanta Computer)や、スイスのGPS機器メーカーGARMINなど、世界的大手の仕事を中心に受託しつつ、CANDY HOUSEのようなスタートアップ企業の支援も行っています。大手メーカーの部品を作る合間を縫うかたちで、月に5,000個ペースで「SESAME mini」のプラスチックパーツを作り出しているそうです。
量産加工品の製造となると、中国の深センを思い浮かべる人もいるでしょう。「単純にスピードだけで考えると、深センのほうが早い」とジャーミン氏も語ります。ですが、ここで重要なのは品質です。
「台湾では金型を作るのに7週間かかります。それが深センでは2週間でできる。しかし、深センで作った金型は図面通りでないことも多いのです。間違っているところ、直すべきところを1つずつ指摘して管理する必要があり、管理コストが高い。台湾では図面と違うといったことがないので、信頼性が高く、管理コストが必要ないんです」(ジャーミン氏)
謹良實業股份有限公司(GINLIAN)で製造されたプラスチック部品は、塗装を担当する「皇盛科技股份有限公司」に送られます。皇盛科技股份有限公司は、台湾北部でトップ3に数えられるコーティング会社で、ASUSや廣達(Quanta Computer)など、台湾の大手メーカー製品のカバーコーティングも数多く担当しています。
謹良實業股份有限公司(GINLIAN)から届いたプラスチック部品は、社内ですべてチェックしたうえで塗装ラインに投入されます。塗装は基本的に機械でやりますが、手塗りの部分もあるそうです。