2018年8月22日から24日までの3日間、ゲームを中心とするコンピュータエンターテインメント開発に携わる人やエンターテインメントコンテンツビジネスに携わる人を対象とした、コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2018(CEDEC 2018)が、パシフィコ横浜で開催された。

本稿ではCEDEC 2018で行われたセッション「Fate/Grand Order Arcade(FGOAC)を支える、“非常識”な企画術。」についてのレポートをお届けする。

登壇したのは、ディライトワークス 執行役員 クリエイティブオフィサーでFGO PROJECTクリエイティブプロデューサーの塩川洋介氏。スマホゲームの「FGO」をはじめとする、FGO PROJECTの企画に携わっている。

ディライトワークス 執行役員 クリエイティブオフィサーでFGO PROJECTクリエイティブプロデューサーの塩川洋介氏

セッションタイトルにもある「FGOAC」とは、2018年7月26日から全国のゲームセンターで稼働しているアーケードゲーム。「TYPE-MOON」が開発したPCゲーム「Fate stay/night」から始まる「Fate」シリーズのスマホゲーム「FGO」における、新タイトルという位置づけだ。稼働開始直後、筆者も都内のゲームセンター数カ所に足を運んだが、どの店舗も整理券を配布して「プレイ待ち」の状態が発生していた。

同セッションでは塩川氏はFGOACの企画立案時に考えたコンセプトを紹介。塩川氏は「スマホのゲームを手がけている人に、新たな展開をする際のヒントを提供できれば」とセッションのゴールを設定した。

サービス終了に立ち向かうゲームを作りたい

2017年、300を超えるソーシャルゲームがサービス終了して跡形もなく消滅したという。平均すると1日1タイトルに近い数のゲームが消えた計算だ。

「FGOもスマホで運営している以上、いつか終わりを迎えるかもしれません。しかし、私はFGOを消滅させたくないと思いました。FGOの要でもある、一人ひとりエピソードを持ったキャラクターの英霊(サーヴァント)を残していきたいと強く願ったのです」

塩川氏はFGOACの企画を考え始めた2016年1月の心境を語る。当時、スマホゲームのFGOは第四章を配信したタイミングであり、まだまだ大きなタイトルとして認知される前だろう。その段階から、塩川氏はサービス終了に立ち向かうべく、いつかサービスが終了してもユーザーに残せるものは何かを模索していた。

どのように残すべきか考えたとき、塩川氏はアーケードなら手元に残せるのではないかと思いついたのだ。

「スマホアプリでサーヴァントはセイントグラフと呼ばれるカードとして描かれているのですが、それをそのまま物理カードとして作ってしまおうと最初に考えました」

FGOACで入手できる物理カード
FGO内のカード(左)とFGOACの物理カード(右)

魅力的なサーヴァントの姿をもっと描きたい

2015年にローンチしたFGOだが、対応端末には2012年に発売された「iPhone5」も含まれる。そのため、塩川氏は、「スペックによる制約で描くことのできないサーヴァントの姿はまだまだあり、その状態のままでは終わらせたくない」と考えたという。

「アーケードであればイラストのまま動かせると、ゲームを一緒に作ったセガの方から教えてもらいました。FGOのサーヴァントは、キャラクターデザインを担当されている作家さんごとの個性がイラストに反映されています。その魅力をもっと描きたいと考え、イラストの細かいタッチやニュアンスを、可能な限り3Dでも再現しようと思いました」

FGOの対応端末では描けないサーヴァントの魅力を表現すべく、塩川氏はFGOのイラストをそのまま3D化して、アーケード版のキャラクターを作成した。

FGOでのイラスト(左)とFGOACの3Dモデル(右)。画像は開発中のもの

Fateらしく、FGOらしいバトルを

さらにFGOACでは、スマホでは操作不可能なFateらしいバトルシーンを描くべく、端末の制約に立ち向かうゲームを作ることを目指した。

FGOでは、「コマンドオーダーバトル」と呼ばれる、スマホに最適化されたバトルシステムを採用している。画面に表示されるカードをタップするだけで戦闘が進行するインターフェースだ。

コマンドオーダーバトルの画面

「FGOACでは、アニメで見たようなFateらしいバトルを実現したいと考えました。しかし、FGOらしさも残さなければいけない。そこで思いついたのがタッチパネル+1ボタンアクションによる操作です」

3D空間でキャラクターを操作しながら、まずはタッチパネルでFGOのコマンドオーダーバトルのようにカードを選択する。そして、攻撃は「アタックボタン」を押すだけ。連打していれば、キャラクターは選択したカードに応じたアクションを実行してくれる。簡単な操作でキャラクターがFateらしいバトルを繰り広げるというわけだ。

開発中のバトル画面。3Dのフィールドに、FGOらしさを加えた
最終的にたどり着いたタッチパネル+1ボタンアクションの仕組み
完成したプレイ画面

稼働1カ月で物理カード発行枚数1000万枚を突破

サービス終了と性能の限界、端末の制約という「ソーシャルゲームの宿命」に立ち向かっていたFGOAC。FGOキャラクターの魅力をそのままに3D化することに成功し、物理カード生成の仕組みや迫力あるバトルシステムを搭載した。

稼働からわずか1カ月という期間ではあるが、新規ユーザー30万は突破。また、セガ主力タイトル実績と比較すると、1台あたりの平均インカムは2.5倍以上だという。

そして、なんと物理カードの累計発行枚数は1000万枚を突破。カードが1枚100円であることを考えると、10億円……? なんと、1カ月でFGOACという筐体に投下された金額は10億円を超えるのだ。

FGOACを企画する際のコンセプトを紹介した塩川氏。最後に、FGO PROJECT全体に共通するコンセプトを述べた。

「それは“既知×未知”です。これまで、すでに存在するFGOをいかに未知のものと融合させるか考えながら、アーケードだけでなく、VRやAR、リアル脱出ゲームなどと組み合わせた企画を展開してきました。今後、スマホからのゲームを新しく展開したいと考えている人は、“既知×未知”で、『もしも』をカタチにする企画を作ってみてはいかがでしょうか」

“既知”にさまざまな“未知”を組み合わせて、企画を展開するFGO。次はどんな“未知”を見せてくれるのだろう。

(安川幸利)