九州大学(九大)は、同大らの研究グループがハブの全ゲノム配列を決定し、ハブゲノムにコードされる約2万5000個の遺伝子を発見したことを発表した。
この成果は、九州大学生体防御医学研究所の柴田弘紀准教授、沖縄科学技術大学院大学の佐藤矩行教授、東北大学の小川智久准教授らの共同研究によるもので、2018年7月26日、国際学術誌”Scientific Reports”に掲載された。
国内産のヘビの中では最も恐れられている毒蛇である「ハブ」の毒液は、多様な生理活性を持つタンパク質の「カクテル」で、その全容解明のために全ゲノム解読が待たれていた。
柴田教授らの共同研究グループは、奄美大島産のハブからゲノムDNAを抽出し、超並列シークエンサで解析して10億本のDNA断片(合計で136Gb)データを取得した。これらをつなぎあわせ、全長1.4Gbのハブゲノムドラフト配列HabAm1として繋ぎあわせた。
また、ハブの18種類の臓器・組織からRNAを抽出し、超並列シークエンサで配列を決定し、各組織において発現している遺伝子の情報とした。この情報を利用して、HabAm1から2万5,134個の遺伝子を見つけた。
さらに毒液の成分として働くタンパク質の遺伝子60個と、それらと兄弟のタンパク質でありながら毒として働かない遺伝子(非毒型パラログ)を224個見出した。毒液関連遺伝子のうち、特に4つのタンパク質ファミリー(金属プロテアーゼ、ホスホリパーゼA2、セリンプロテアーゼ、C型レクチン)では、遺伝子のコピー数が大幅に増加し、かつコピー間のアミノ酸の置換速度が上昇していること(加速進化)がわかった。また、毒液関連遺伝子群が、鳥類や爬虫類に特徴的な組み替え率が高い小型の染色体、「微小染色体」に多く存在していることも見出した。
これらのことから、ハブ毒液遺伝子群が、高度に多重化かつ急速に多様化しながら進化してきたことが示唆された。この成果により、蛇毒の作用機序の全容解明と、効果の高い抗毒素開発の大幅な効率化、さらにハブゲノム由来の新規の薬理分子からの有用な医薬品開発への道が開かれたことになる。