6月30日、東京ベイ舞浜ホテルクラブリゾートにて、「大西卓哉宇宙飛行士講演会」が開催された。第48次/第49次の長期滞在クルーのフライトエンジニアとして、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在し、さまざまなミッションを遂行した大西宇宙飛行士。講演会では、国際宇宙ステーションの基礎知識や、長期滞在中に行った活動などの話がなされた。

  • 大西卓哉宇宙飛行士

    宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大西卓哉宇宙飛行士

子どもたちに宇宙を語る

会場では、小さな子どもたちの姿が目立った。そんな子どもたちにでもわかりやすいように大西宇宙飛行士は簡単な言葉で宇宙について説明をする。

例えば宇宙と言う言葉については、「みなさんは、どこからが宇宙なのかということを知っていますか。一般に、地上から高さ100kmから先のことを宇宙といいます。通常、旅客機が飛ぶ高さが10km~12、13kmくらいなので、その約10倍の高さですね。そこから先が宇宙と呼ばれています。

そして、私が宇宙で滞在した国際宇宙ステーションは、地上から400km離れた位置を飛んでいます。400kmってどのくらいだかわかりますか?これはだいたい、東京-大阪間の距離と同じです。宇宙というともっと遠く感じるかもしれませんが、意外にも東京から大阪に移動するだけの距離、地表から離れるだけで宇宙になるんですね」といったように、子どもの身近なものを比較対象とすることで理解しやすく伝えることを意識している様子がうかがえた。

  • 大西宇宙飛行士 講演会

    普段は聞くことのできない、生の宇宙を体験したからこそ語ることのできる話をする大西宇宙飛行士の言葉に子どもたちは皆、静かに耳を傾けていた。講演会には親子連れの参加者が多く、特に小学校低学年くらいの子どもたちが多い印象だった

また、「初めて宇宙ステーションを見た感動は、今でもはっきりと思えています。ロケットで打ち上げられ、カプセルが切り離され、それまで何も見えなかった漆黒の宇宙空間に、太陽の光を受けて輝く宇宙ステーションを見つけるわけです。その時に感じた、人間の科学力に対する尊敬の念は、ハッキリと覚えています」といった、生の宇宙を体験したからこそ語れる言葉を大切に使っていた。

子どもたちの質問が殺到!

講演会を終えると、そこからは子どもたちによる質問タイムが始まった。司会者の「質問はありますか?」という声掛けを合図に、元気よく手を上げる子どもたち。そこで挙げられた質問はどれも好奇心に富んだもので、大西宇宙飛行士はそれらの質問ににこやかに答えていた。

「宇宙に絨毯を持っていくと、(プカプカと浮かんで)魔法の絨毯になるんですか?」「宇宙でも風邪をひくんですか?」「子どものころはどんな習い事をしていたのですか?」「宇宙にいない間は、どんな仕事をしているんですか?」と、矢継ぎ早に質問をする子どもたち。

  • 大西宇宙飛行士

    子どもたちの質問に答える大西宇宙飛行士

例えば、「宇宙では、洗濯はどうするんですか?」という質問には、「実は、宇宙では水が浮かんでしまうため、洗濯をしないんです。だから、例えば『Tシャツは1週間に1枚』などと決まっていて、その期間は同じ洋服を着て、期間を終えたらそれを捨てるんです。しかし、宇宙では地上のように汗をあまりかかないので、臭くはありませんでしたよ」と回答。地球上とは異なる環境に驚いた子どもたちは、大西宇宙飛行士が回答するたびに「えーっ」などとリアクションをしていた。

MOMO2号機の打ち上げ失敗に何を思う?

子どもからの質問を終えた大西宇宙飛行士に、講演会後、個別での質問にも応じていただくことが出来た。イベント当日は、インターステラテクノロジズ(IST)のMOMO2号機の打ち上げが行われた日でもあったため、本誌でも取り上げた、同社のロケット「MOMO2号機」の打ち上げ失敗に関する感想を聞くと、「悪い意味ではなくて、そんなに驚きはありませんでした」とのこと。

続けて、「宇宙開発は、失敗の歴史でもあります。そういった意味では、今回の出来事(打ち上げ失敗)に対する驚きは特にありませんでした。民間企業の新しい活力がこの業界に入ってくることは、僕はとても良いことだと思っています。今回、失敗という結果にはなりましたが、その失敗をどう糧にしていくのか、ということが彼ら(IST)の原動力になると思います。また戻ってきてくれると信じています」と、同じ宇宙という場所にあこがれを抱き続けてきた同志とも言える立場の人間として、ISTの今後に向けたエールともとれるコメントをいただいた。

今後は地球以外の星へ

長期滞在ミッションを終えて、現在は英語・ロシア語の勉強をしたり、地上からの宇宙飛行士のミッションをサポートしたり、子どもたちに向けた講演会を行ったりと多忙な大西宇宙飛行士。

そんなハードスケジュールの中で行われる、今回のような子どもに夢を与えるイベントに参加することに対してどのように感じているのか、と聞くと「子どもたちが科学に興味をもつキッカケとなって、将来の日本の科学技術を牽引してくれるような存在になってほしい」と未来の日本の宇宙開発を担う子どもたちに向けたメッセージを語ってくれた。

同氏の次の目標は、もう一度宇宙へ行き、今回はISSよりもさらに先の、月や火星などの衛星・惑星に行くことだという。今回参加した子どもたちが大人になるころには、世界の科学力が今以上に進化していることは間違いない。今回のイベントで宇宙に、そして科学に興味をもった子どもたちが、これからの宇宙開発をどのように発展させていくかが楽しみだ。