東京医科歯科大学(TMDU)は、3次元的に試験管内に作られたミニ臓器とも言われる構造体「オルガノイド」に、機能や構造を損なうことなく数百μmサイズのRFIDを埋め込み、RFIDのデータを読み込むことで、オルガノイドを識別できる技術を開発したことを発表した。

同成果は、同大統合研究機構先端医歯工学創成研究部門の武部貴則 教授(横浜市立大学 学術院医学群臓器再生医学教授、米国シンシナティ小児病院 准教授)、シンシナティ小児病院の木村昌樹氏、同 東桃子氏らによるもの。詳細は、Cell Pressが発行する分野横断型研究の総合科学誌「iScience」に掲載された

バイオ領域の研究効率化を半導体(RFID)で実現

現在、さまざまなヒトから樹立したiPS細胞を活用して、ヒト由来のオルガノイドを作製し、その機能の違いや個体差を評価するといった研究が世界中で進められているが、iPS細胞からこうしたミニ臓器を作り上げるには1人のiPS細胞あたり1~2か月ほどかかるため、より多くのヒトオルガノイドでの比較を行なおうとすれば年単位での期間が必要となるという課題があった。

今回の研究は、そうした研究期間の短縮などを目指して考案されたもので、RFIDを実際にオルガノイドに組み込むことができるのか、また、実際の評価に利用が可能であるかについての調査も行ったものだという。

実際の研究では、市販され、入手可能なさまざまなRFIDが試されたが、最終的には460μm×480μmというエスケーエレクトロニクス製の超小型RFIDが選択された。具体的には、ミニ肝臓として培養中の組織にRFIDを入れて、RFIDの周辺に空洞を作ってやることで、細胞へのダメージを防ぎ(空洞は胆汁などの液体状の分泌物で満たされている)、オルガノイドとしてもRFIDとしても機能するものができることが確認されたという。

  • オルガノイドの内部にRFIDを入れることに成功

    オルガノイドの内部にRFIDを入れることに成功 (出所:TMDU/武部教授 発表資料より抜粋)

バイオ+半導体で広がる医療の未来

今回の研究ではRFIDを内包したことによるオルガノイドへの影響も調査。その結果、肝臓の遺伝子発現を調べるためのマーカー値は統計的に差がないこと、たんぱく質の機能にも変化がないこと、脂質や中性脂肪の量も同等で、胆汁の排泄機能も有効であることなど、RFIDを内包してもしなくても変わりがないことを確認したとのことで、研究グループでは、これを「RFID chip-incorporated organoid(RiO)」と命名したとする。

  • RFIDを内包しても、オルガノイドの機能に変化がないことを確認

    RFIDを内包しても、オルガノイドの機能に変化がないことを確認。分泌物中であっても、冷凍保存状態であっても、RFIDは壊れていないことも確認されたという (出所:TMDU/武部教授 発表資料より抜粋)

また、実験的にマウスを用いて皮下にRiOを埋め込むと、どこに何の臓器があるのかをトレースできることも確認したほか、脂肪肝は人種差や個人差が大きいことから、多くの型を評価する必要が将来生じるであろうとの判断から、18個の異なるドナー由来のオルガノイドの一括評価を実施。マーカーの反応具合と、RFIDの有する固有IDを照らし合わせることで、解析結果から、数例の先天的に脂肪蓄積が強い疾患を有するドナーを順同定することに成功したという。

  • 皮下にRiOを移植した場合でも、場所の特定が可能

    皮下にRiOを移植した場合でも、どこに埋め込まれているかを把握することができることも確認された。ただし、皮下よりも深い部分に埋め込んだ場合は、電波の関係から把握が難しくなるという (出所:TMDU/武部教授 発表資料より抜粋)

  • オルガノイドの一括評価を実現

    18個の異なるドナー由来のミニ肝臓の脂肪蓄積を一括で評価した結果、マーカーの発光度合いの違いから、先天的に脂肪蓄積が強い疾患を有するドナーを順同定することに成功した (出所:TMDU/武部教授 発表資料より抜粋

これらの結果について武部教授は、「さまざまな個人に由来するiPS細胞が作られるようになってきたが、それを数千、数万というオーダーで評価しようと思うと、膨大な時間が必要となっていた。今回の手法は、一気に、1つのプレート上でそれらを丸ごと評価することを可能にする技術につながる可能性がある」と説明。将来的に、センサ技術を内包した小型RFIDなどが登場すれば、さまざまな使い方の応用も期待できるとした。

なお、RiOはまだまだこれからの技術であり、武部教授も、RFIDの進化や自動化システムの開発などは工学系のパートナーが進めてくれることを期待したいとしており、広くそうした技術開発などに携わってくれる企業などとの連携を進めていければとしている。