現在のシリコンバレーは人工知能の開発競争のさなかにある。特にスマートスピーカー市場では、より優れているとされているボイスコントロール機能「Googleアシスタント」を搭載する「Google Home」が、これまで市場を制してきたAmazonの製品を上回る伸びを見せており、人工知能の性能が製品の価値に直結するようになった。

Appleの音声アシスト機能「Siri」は2011年にiPhone 4Sに搭載されてから、iPhone/iPad/Mac/Apple Watch/Apple TV/HomePodといったデバイスに採用されてきた。しかし人工知能アシスタントとしての評価はさほど高くない。そこでAppleはiOS 12で、現在の競争とは異なる進化の道を歩むことにしたようだ。

  • SiriとShortcutsアプリによる連携は、iPhoneを自分好みに育てることを意味する

そのためのアプリが、新たに追加される「Shortcuts」だ。このアプリは、ユーザーが任意のアプリの機能を呼び出したり、複数のアプリを組み合わせて操作するための「(音声による)命令」を自由に作れる仕組みを提供してくれる。つまり、ユーザーのニーズに的確に働いてくれるSiriが、自分のiPhoneの上でできあがる、というわけだ。

Appleは2017年3月に「Workflow」というアプリを買収した。Shortcutsはこのアプリが持っていた、複雑な機能や良く使う機能をワンタッチで利用できる仕組みを昇華させた存在と言える。

簡単に言えば、Shortcutsの役割は2つある。

1つは、Siriからアプリの機能や端末の機能の提案をしてくれることだ。ロック画面やアプリの中で、良く使う機能などをSiriで呼び出せるようにし、普段行っている動作を簡単に声で実行できるようにする。

  • Siriは場所や時間などに応じて、良く使う機能を提案する。これにボイスラベルを付け、声で呼び出せるよう設定できる

2つ目は、サードパーティーアプリのSiriへの対応だ。新しい「SiriKit」では、アプリの機能や情報を切り分け、Siriを介して声で呼び出すためのショートカットを割り当てる機能を提供する。

  • Shortcutsアプリの本領は、1つの声による命令で複数のアプリの情報を呼び出せるようになる点だ

デモでは、KAYAKアプリの旅程のページに「Siriに追加」バッジが用意されており、これをタップすると、Siriで呼び出すためのキーワードを設定できるようになっていた。次回以降、そのキーワードをSiriに告げれば、KAYAKアプリの旅程のサマリーがSiri画面に表示され、すぐに確認できる。

  • アプリ内の情報には「Siriに追加」ボタンを表示でき、Siriで直接機能や情報を呼び出せるように設定可能となる。つまり、サードパーティーアプリによるSiri活用手段、といえる

「Workflow」では、複数のアプリを活用した機能を作成可能だ。これは、Shortcutsアプリにも引き継がれ、編集機能によって、自分が良く使う好みのアプリを組み合わせた機能を呼び出せるようにできる。

基調講演のデモでは、自宅に帰るクルマの中でラジオを聞く習慣がある場合、現在位置から自宅までのマップアプリでのナビゲーションと、ラジオアプリの再生を同時に立ち上げるショートカットを組み上げていた。今までであれば、地図で自宅までの経路を検索し、ラジオアプリを立ち上げて再生を開始する、という2つの操作が必要となっていたが、これらを一声で解決できるようになる。

Appleのアプローチは、デジタルアシスタントの進化の方法論としてユニークな切り口を持ってると言えるかもしれない。人工知能の発展によって、できること、知っていることをより増やし、汎用的にしていこうという競争にAppleは乗らず、ユーザーが本当に必要なこと、自分でコントロールすることに力点を置いているためだ。

自分好みの機能を設定できる一方で、複数アプリによる連携を自分で組み立てるノウハウは、ほとんどプログラミングを組み立てることに近い。そのため、Siriが普段のデバイスの使い方からおすすめのショートカットを提案する機能を備えているのだ。